第十七話 トラウマ
修行が終わったユアンたちは自分の部屋に戻るために城の中を歩いていた。みんな疲れ果てているが、特にひどいのがユアンだった。ユアンは一人で歩くことが出来ず、ケントとアイに肩を貸してもらっている状態で歩いている。
「ちょっとユアン大丈夫?」
「いや、限界....明日の修行サボろうかな....」
今日の修行のことを考えると明日の修行なんか行きたくなくなる。
「お前今日どんなことやったんだよ」
ケントも疲れているがユアンほどではない。
「あの人、俺のスキルを鍛えるって言うからどんな修行かと思ったら、「私が大量に水の玉を作るから、ユアン君は未来予知で全てかわしてね!もう一つのスキル透過は使っちゃダメだよ」って言われて頭のおかしい修行をやってたよ」
「そ、そうなんだ....」
聞いてきた二人は若干引いている。
「だいたいあの人、最初の時と印象が違くてさ。なんか人が苦しんでるのを楽しんでると思うんだよね。今日の修行も意味はあったと思うけどやりすぎ。五歳の子供にやる修行じゃねえ」
部屋に戻る道で今日のことを愚痴るユアン。
「そう言えば、お前らは今日どんなことやったの?」
「私は光属性の魔法を教えてもらったよ。上級までの魔法は覚えられたよ!」
「俺も火属性の魔法を教えてもらって、その後実戦も兼ねて模擬戦をしたぜ」
二人は納得した修行をしていたみたいだ。
「二人は魔法を覚えられていいなぁ.....俺は頭のおかしい修行だったからなぁ.....」
「ねぇ、その水魔法って当たると痛いの?」
「めっちゃ痛いよ、レインさんは「当たると殴られる痛みと同じぐらいに加減してるから死ぬことはない」って言ってたけど、マジで五歳にやる修行じゃない」
その情報を聞いてまたしても二人は引いている。アイは特にそうだった。理由としては、アイは水属性が使えるため、教える人となるとレインに教えてもらう確率が高いと言うことだ。
「私そんな怖い人に魔法教わるんだ......」
アイには俺みたいにきつい修行はして欲しくない。あの修行は心を折られる。
「大丈夫だと思うよ。女の子だったら、俺みたいに頭のおかしい修行はやらないと思うから」
「へぇー頭のおかしい修行ってどんなの?私に詳しく教えてよ」
背後から聞き覚えのある声が聞こえてくる。その声を聞いてユアンは体をビクんと反応した。恐る恐る振り返るとレインが仁王立ちして立っていた。
「ねぇ?ユアン君。君はあの程度の修行では物足りないのかな?だったら明日の修行は今日より厳しいのにするけど?」
顔は笑っているのに、レインの背後から禍々しい魔力が見える。
「いや....今日の修行で十分です....これよりひどくなったら死にます」
「大丈夫よ、明日もアークがいるから死にそうになったら回復魔法をかけてもらうから。楽しみにしててね?」
「そもそも五歳でこんな修行はおかしいと思います!」
「あら?普通の五歳だったら私の水魔法が一発当たっただけで大怪我になってるし、泣き叫ぶわよ」
言われてみるとそんな感じがする。普通の五歳児だったらあんな修行で泣くのは当たり前だ。
「それにユアン君の怪我を見てみるとそこまで酷くないしね。それは十分な身体強化が行われているってこと」
レインはそう言うと「陛下に出す書類があるから」と言って俺たちの前からいなくなった。去り際に「明日も楽しみにしてる」と呟いて行った。その言葉を聞いた瞬間、背筋が凍り付きおしっこ漏らしそうになった。横で見ていたアイとケントも動けなくなっていた。
レインが去ってから、少しその場で休憩をして部屋に送ってもらった。
その日は夕食を食べることが出来ず、疲れのあまり寝てしまった。
窓からの日差しで目が覚める。昨日のことを思い出すと、今日という1日が嫌に感じる。
「よし、今日は逃げよう!」
そう決めた瞬間部屋のドアを叩く音が聞こえた。返事をしないでいるとセバスの声が聞こえた。
「ユアン様、お目覚めになられましたか?ケント様とアイ様はすでに朝食を終え訓練場で修行をしています。」
セバスには悪いが、今回は無視をさせてもらう。ユアンは急いで窓を開けて飛び降りた。幸い部屋は三階だったので身体強化をすれば怪我をすることはない。ユアンは身体強化をして地面に着地をすると、目の前に人影のようなものが見えた。顔を上げて見てみると、そこには笑顔のレインが立っていた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ」
ユアンはとっさに叫んでしまった。レインの修行から逃げ出したはずなのに、目の前にレインがいた状況に驚いてしまった。
「あれ、ユアン君?私セバスにユアン君を呼びに行かせたんだけど、上から降りてくるってことは.....」
「いや、修行が嫌とかじゃなくて...あの、その......寝相が悪くて.....」
咄嗟についた嘘でなんとか誤魔化せるかと思ったが無理だった。
「へぇーユアン君は寝ている時でも身体強化ができるんだ....これからはそう言う修行も取り組まないとね」
「あっ....勘弁してください」
こうしてユアンの最低最悪な一日が始まった。
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