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第四十話 葬儀

 ユアンの生き返りの話が終わり、時の魔女と一緒に創造の魔女の部屋を後にする。


 「まったく...ラミファのやつ自分が失敗した相手の本をよくもまた...」


 時の魔女は私の手を引っ張りながら愚痴をこぼしている。


 「あの!もうここで平気です!」

 「だめじゃ!わしがきちんとお主を部屋まで送り届ける!」

 「なんでそんな...」

 「言ったじゃろ、あやつの遺言じゃとな。それに、わしもなんだかんだお主たちに興味がある。ユアンがいなくなった今、お主らひよっこ供を教育するのも年長者の役目じゃろ」


 そう言って少し照れている様子だった。


 「ほれ、着いたぞ!」

 「あ、ありがとうございました」

 「そんな他人行儀はいい、ユアンのようにタメ口でいいし、時の魔女じゃなくてユニバで良い」

 「わかった、ありがとうユニバ」

 「ふっ、それに明日はユアンとヴァントの葬儀じゃからな。辛いと思うが必ず出席するんじゃぞ」

 「うん。わかってる」


 ユニバは私の顔を見て「なら良し!」と言って私の前から姿を消した。ユニバと一緒にいる時間はまだ長くはないが、目の前から消えるのはどうしても慣れない。


 部屋に入ってユアンの形見の刀に触れる。

 全ての材料がオリハルコンで使われたユアン専用の武器。所有者の魔力を貯めることができる魔道具としても優秀な武器だ。

 私には扱えない武器だけど、ユアンに持っていてと言われたら持ってないと怒られそうだ。

 今ユアンとの思い出を思い出すだけでもとても楽しかった反面、もう少しやっておきたかったなという思いも強くなっていく。明日の葬儀では多分また泣いてしまう。けど、それが最後の涙にしないと、いつまでも強くなれない。

 もっと強くなって今度は私たちでラウレスを止めないといけない。そうと決まれば、明後日からケントに身体強化の修行をつけてもらわないと!

 そう決意して今夜はベッドに入って寝ることにした。


 翌日、目が覚めていつも通りに支度をする。部屋の外に出ると、メイドさんたちは忙しそうに城の中を走り回っていた。


 「おはよう、よく眠れたか?」


 後ろから声をかけられて思わず体がびくんと跳ね上がる。

 振り向くとそこにはケントの姿があった。


 「な、なんだ、ケントか...脅かさないでよ」

 「いや、普通に挨拶しただけだろ」

 「それもそっか」

 「それで...体調はどうなんだよ」

 「大丈夫だよ、昨日よりも体調はいいし...それにいつまでもクヨクヨしてられないし!」


 私の顔を見てケントは嬉しそうな表情で「そうか」と言った。

 今日はユアンとヴァントさんの葬儀だ。私に気を使ってこの質問をしてくれたんだと思う。


 「朝、九時から始まるからそれまでに用意しておけよ」

 「わかってるよ!」


 そう言って私は朝食を食べに食堂に行こうとするが、ケントは食堂とは真逆の方向へと向かった。


 「あれ?ケントは食堂に行かないの?」

 「俺は、食欲なくてさ。クレアを起こしに行ってくる」


 ケントの後ろ姿はどこか寂しそうだった。

 まだ、ユアンのことを引きずっているとしたら今度は私がケントを救う番だ。


 具体的にどうやって心のケアをするか...一番早いのは私と同じように夢に出てきてもらって話してもらうのが一番早いし、効果的だ。


 だけど、全員の夢に現れることができるか?と言ったらそうじゃない。多分幼馴染である私たちだけなのかもしれない。それならば、ケントも可能だが、そうでなければ可能性は低い。


 私は簡単に朝食を済ませ、時間まで自分の部屋で気持ちを落ち着かせる。


 本来葬儀となれば、遺体を民衆の前で火葬するのが基本だが、ヴァントさんの遺体は大切に保管されているため問題はないが、ユアンの遺体だけは保管されていない。あの時、爆発の直後、ユアンの体は全身真っ白になり、最後は灰になって崩れてしまったため、遺体がないのだ。もしかしたらその灰が保管されていれば、遺体の代わりにするのかもしれない。

 

 突然、部屋にノックする音が響き渡る。


 「アイ、時間だよ」


 ドア越しで用件を伝えられる。声を聞いただけでケントだとわかる。


 私は返事をせず、すぐにドアを開けて急いでケントの後を追う。

 葬儀は必ず王都の中心にある広間で行うはずだったが、ユアンの死んだ場所が学園のグラウンドだったため、急遽場所を変更して行うことになった。

 城の前に準備されていた馬車に乗り込む。馬車の中にはすでに陛下と王妃様、それにクレアが座っていた。


 「お主たちも早く乗らんか。もうすぐ出発するぞ」

 「すみません、遅くなりました」


 ケントが頭を下げてして馬車に乗り込む。私も釣られて少しあたまを下げて中に入る。

 数分後、馬車が動き学園へと向かう。馬車の中は誰一人何も話さずに目的地の学園へと向かった。


 学園に着くと、そこには大勢の人が集まっていた。賢者が二人亡くなることはなかなか珍しく、過去に五、六回あったぐらいらしい。


 私とケントは準備されている壇上に上がろうとした時、「アイちゃん」と声をかけられた。

 私は振り向いた途端、言葉を失った。振り向いた先にはユアンの母親が立っていた。


 「ゆ、ユアンの...お母さん......」

 「アイちゃん!それに...ケント君は無事なの!?」

 「はい...私たちは無事です...けど...ユアンが...」


 もう泣かないと決めていたはずなのに、自然と涙がこぼれ落ちる。


 「気にしないでいいよ...全部の話は国王様から聞いたから。あの子は...国を守って死んだんだって...」


 ユアンのお母さんは堪えていた涙が溢れ出た。我が子が亡くなった時と聞けば当然の反応だ。ユアンのお母さんが号泣している姿を見て私も涙が止まらなくなる。


 「すみません...私がもっと強かったら、こんなことにはならなかったかもしれないのに...」

 「......いいのよ...息子が選んだことなら親の私が信じてあげないといけないしね...それに、大好きなアイちゃんを守ることができたんならあの子も本望だと思うわ」


 二人で泣きながら話していると、壇上に司祭様が上り葬儀が始まった。


 「アイちゃん、また後でゆっくりと話しましょ。ケント君と三人で」

 「はい、それではまた」


 私は急いで壇上に用意されていた席に座る。私以外は全員賢者で全員黒いローブを身に纏っている。

 私だけ賢者でもないのにここにいていいのだろうか......


 「それでは、これから賢者ヴァント様とユアン様の葬儀を始めます。皆様、黙祷」


 司祭様が「黙祷」というと葬儀に来ていた人全員が目を閉じて黙祷を始める。そして数十秒後で終わり、陛下の言葉になった。


 「皆、集まってくれて礼を言う。今回の葬儀は国のために亡くなった賢者ヴァントと賢者ユアンの葬儀だ。この二人がいなかったら今のこの国はなくなっていただろう。それほどまで今回の敵は強敵だった。皆が生きていられるのはこの二人のおかげだ。そのことを忘れずにしっかりと生きてほしい。以上だ」


 そういって陛下は最初にいた席に戻っていく。

 そして次に、司祭様のお別れの儀にうつる。司祭様は聖書を開き、そこに書かれている言葉を口に出して唱え始める。文章が長くて全ては理解できないが、簡単に言うと「亡くなったものが安らかに眠れるように」とのことだ。


 約一時間、司祭様のお言葉が終わると最後の火葬になった。

 ヴァントさんにはバーンが火をつけて、ユアンには私とケントが火をつけることになった。


 「ヴァント...お前一人だけいかせて悪かったな...お前の苦しんだ分も俺が背負うから...」


 そういってバーンは持っていた松明で棺に火をつけた。


 「じゃあな、ユアン。俺のこと一生恨んでいいからな...」

 「ユアン...今までありがとう...ユアンに言われたことをちゃんとやるからさ...安心して上で見ていてよ」


 私たちも同じように棺に火をつけた。

 二つの棺は激しく燃え、その火はまるで収まることはなかった。

 


 

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