第三十四話 立ち直り
私はレイン。アウスト王国で賢者をしているが、実はそんなに仕事はしていない。なぜなら、今回の戦いで私を含め他の賢者達は何もしていなかった。私たちよりも歳が下の賢者、ユアン君やケント君、アイちゃんが戦っていた。
実際、戦闘面では勝てるわけもなく一緒に戦っても足手纏いだったのは自分でも痛いほどわかっていた。それでも、何もできないと言うのはとても辛かった。そのせいでユアン君は死んでその恋人であるアイちゃんが精神を病んで動けない状態だ。
何もできないのはもう嫌だ...何か力になればと思い、ケント君とアークが話していた会話を聞き、アイちゃんを元気付けるために立ち上がった。会議室を出るときにケント君に「.........よろしくお願いします」って声をかけられたけど、その声はとても力がなく今にも死にそうな声だった。
私はその声を聞いて何がなんでも成功させないといけないと思った。ケント君やアイちゃんはまだ十三歳。いくら強いと言っても精神的な部分で言えばまだ子供だ。それを支えてあげるのが私たち大人の役目だ。
「アイちゃん...起きてる?レインだけど...」
ドアを数回ノックしても返事はない。ドアの前には食事も用意されているが手をつけた様子はない。
「アイちゃん?」
何度呼びかけても返事はない。もうこれは強硬手段で行くしかないと決心する。
「アイちゃん...入るよ」
恐る恐るドアノブをゆっくりと回す。ガチャリとドアが空いた。鍵はかかっていないようだ。
中に入ると部屋は真っ暗で、ベッドにはユアン君の持っていた刀を抱きしめて寝ているアイの姿があった。
「アイちゃん...」
寝ているアイの顔を覗き込むと、何回も泣いたであろう涙の跡がついていた。それを見て私は心が痛くなる。
すると、寝ていたアイは人の気配を察知したのか、目を覚ました。
「レイン...さん?」
「そうだよ...アイちゃん!」
「どうして...ここに...?」
「アイちゃんが元気がないって言うからお見舞いに...」
「そうだ...私...私が...ユアンを...」
目覚めた瞬間、アイはすぐに泣き出した。
泣き出したアイの手を握って話を聞く。
「私が...ユアンを殺したも同然なんです...」
「どうしてそう思うの?」
「私たちが村にいた時、私とケントが王都に行きたいって...言ったから...ユアンはあまり乗り気じゃなかったのに...私とケントに合わせてくれたから......」
「違うよ!ユアン君が死んだのは...絶対にアイちゃん達のせいじゃないよ!悪いのは...私たち大人があなた達ばかりに戦わせたことなの...だから悪いのはアイちゃん達じゃないの」
「私...ユアンに謝りたい...私のわがまま言ったせいで死なせてごめんって...」
「アイちゃん...」
泣きじゃくるアイを見て慰めの言葉が思いつかなかった。
自分がユアン君を殺したと思い込んでいて、いくら違うと言っても自分のせいだと言い張るばかりで話がうまくできていない。それほどまで追い詰められている状態だとすぐにわかる。
「アイちゃん...落ち着いて。まずはゆっくりと深呼吸しようか」
アイはレインに言われた通りに少しずつだがゆっくりと深呼吸をしていく。嗚咽も混じりながらだが、さっきよりは落ち着き始めた。
「私...ユアンに恨まれたかもしれません...」
「そんなことないよ...そんなことでアイちゃんを恨むユアン君じゃないのは知ってるでしょ?」
「でも...」
「もしそうだとしたら...ユアン君が最後に言った言葉覚えてる?」
「......はい...」
「恨んでいたとしたらさ...絶対にそんなこと言わないよ。ユアン君が自分を犠牲にしてまでアイちゃんを守ったのは幸せになって欲しかったからだと思うよ?」
ユアン君が命をかけてまで守りたかったのは、二人のためなんだろうな...と言うのが今ならわかる。
最後に見せたユアン君の表情はとても安らかで嬉しそうに見えた。
「私の...幸せのため?」
「うん!きっとそうだよ!そうじゃなきゃ...絶対に守りたいって思わないもん」
「でも...私の幸せには...ユアンが必要なんです。私はもう...ユアンがいなきゃ...」
再び泣き出すアイを見てやっぱり心が痛くなる。大好きだったのはよく知っているが、ここまで依存みたいになるとどうしようかと困る。泣いているアイを優しく抱きしめる。私の胸の中でずっと泣き続けると、今度は泣き疲れて眠ってしまった。私はそのあと、ベッドに寝かせてあげて部屋を出た。
結局何もできなかった...話を聞いて元気づけるはずが、返って辛い思いをさせてしまったみたいだ。
自分の無力さを感じながら、城を出て自分の家まで行き、休んだ。
***
夢を見ていた。レインさんと話をしているときに涙が止まらなくなりずっと泣いていた。泣いてる私を見てレインさんは優しく抱きしめてくれた。その優しさでも泣いてしまった。しまいには泣き疲れてそのまま眠ってしまった。
そして今、私の目の前には真っ白な空間が広がっている。この光景は何回か覚えがある。神...セレス様に呼ばれるときに何回かこの空間にきたことがあった。今度もセレス様に呼び出されたのだろうか...
「おっ!どうやら呼び出しはうまく行ったみたいだな...」
私は思わずその声を聞いて勢いよく振り向いた。
大好きだった人の声...今一番会いたい人...
振り返った先には私の想像していた通りの人物が立っていた。
「ユアン!!!!」
ユアンの姿を確認して勢いよく抱きついた。
「おっ、おい!落ち着けよ!」
「ユアンだ!ユアンだ!本当にユアンだよね!?」
「本物だよ!ちゃんと本人だよ!」
「よかった...本当に...よかった...」
思わずユアンの姿を見て泣き出した。
「ど、どうした!?」
「だ、大丈夫...ただ...ユアンに会えて嬉しかっただけ...」
「そっか...」
「ユアン...ユアンは...私のこと......恨んでる?」
「はぁ?なんでそうなるんだよ...」
「だって...私が王都に一緒に行こうって言わなければ...こんなことにはならなかったかもしれないのに...」
「別に恨んでないって!結局行くって決めたのも俺の意思だし、お前が気負う必要はないよ」
「でも...私たちがもっと強ければ...ユアンは死ななかったよね?」
「そこに関しては何もわからないな。もし、俺と同じだったら生きていたかもしれないし、それでも死んでいたかもしれない。そこの未来は俺にはもうわからないよ...」
元気付けてくれてるのかな?そうじゃなくても、不思議とさっきまでの重かった体が軽くなっていく。
「アイ...俺はお前を恨んでないし、嫌いでもない。むしろ大好きだよ。それぐらいお前を守りたかったんだよ」
「......だったら...私も一緒に死なせて欲しかったよ...ユアンのいない世界で生きていくなんて...無理だよ...」
「それじゃあ、俺が命懸けで守った意味がないだろ!俺はお前に幸せになって欲しくてーーー」
「私の幸せにはユアンが必要なの!!一緒に生活して、一緒にデートして、結婚して、子供が生まれてからも一緒にいて、おじいちゃんおばあちゃんになっても一緒にいて、私が最初に死んで、ユアンが最後に死ぬ...そんな人生を送りたかったのに...」
ユアンは泣き出したアイをそっと抱きしめる。
「アイ......ごめんな...悲しい思いばっかりさせちゃって...彼氏失格だな」
「そんなことない...そんなことないから...戻ってきてよ...」
「それは無理だな...死人はもう現世に戻ることはできないんだよ」
「そんな...」
「でも、たまにこうして話すことはできるからさ...一生会えないってことはないから安心しろよ。月に一、二回はできると思うから」
それを聞いてアイは少し元気を取り戻した。
「本当に!?」
「ああ、約束する。だからあっちでも元気にやれよ。それができなきゃもう会わない!」
「する!するから...会わないなんて言わないでよ...」
すると、目の前にいるユアンの姿が白く輝き出した。
「おっと...もう時間か...意外と早いもんだな...」
「ちょっと待ってよ!私まだ...言いたいことが...」
「それはまた今度聞いてやるよ!それじゃあな!ってそうそう、俺の刀お前がずっと持っててくれよ!それと、身体強化の訓練サボらずにちゃんとやれよな!」
そう言ってユアンは私の前から消えてしまった。
それと同時に私もその空間から追い出される形で目が覚めた。
夢だったのか現実だったのかまだわからないが、記憶のある今では現実だったんだろうと確信できる。
重い体を起こして久しぶりにベッドの外に出て自分の足で立つ。寝ていたばかりで体はだるいが、今はそんなこと言ってられない。
今日からはユアンに言われた通りに仕事と修行を両立させなきゃ!そうでないと...ユアンに笑われてしまうような気がしてたまらなかった。
いつもありがとうございます。面白かったらブックマークと評価をお願いします。
※誤字報告ありがとうございました!お礼遅くなって申し訳ございません!