第三十一話 逃走
ユアンが死に、その場でみんなが泣いていると後ろからある声が聞こえた。
「なんだ...本当に死んだのか。もったいないな...」
その声は聞き覚えのある声で、当然その声を聞いた瞬間に信じられなかった。
みんな一斉に振り返ると、ボロボロの状態で辛うじて左腕が一本繋がっている状態のラウレスが横たわってた。
その状態を見たケントは一瞬で神化をしてラウレスの息の根を止めようとする。
「永久爆炎!!」
青い炎がラウレスに直撃しようとした瞬間、突然上空から水の壁が降りてきてケントの魔法を防ぎ切った。
「!?」
「あら〜随分とやられたわね〜」
目の前には何度も戦ったアオが現れた。
「仕方ねーだろ...ユアンの命まで使った攻撃にここまで耐えたんだ。死ななかっただけでも上出来だろ...」
「じゃあ、ユアンは死んだってことね〜。それは好都合だけど〜あなたの回復には時間がかかるんじゃないかしら〜?」
目の前に賢者がいると知っていても二人の会話は止まることはなかった。
そんなことよりも、今弱体化しているラウレスを倒さないとせっかくユアンが犠牲になった意味がない。
アオは魔人の組織の幹部だ。ケントとの魔法の相性は良くないけど、神化をしている状態なら勝ち目はあった。今現状で戦えるのはケント一人だった。アイはユアンが死んで精神的にも戦える状態じゃない。レインさん達じゃ攻撃を与えることも難しいかもしれない。
「永久爆炎!」
ケントは再びラウレスに向けて魔法を放つが、アオの水魔法によって打ち消されてしまった。
「くそっ!なんでだ!?神化している俺の方が有利なはずなのに!」
「そうねぇ〜前までは神の力を持っていたあなたの方が有利だったけど〜今は神の力を持っているのはあなた達だけじゃないってことよ〜」
アオの話を聞いて嫌な予感がしてたまらなかった。
「もしかして...お前も...」
「そうよ〜私のは魔神の加護。ラウレスの加護といった方がわかりやすいかしら?あなた達のように神化はできないけど、神の力で大幅に強化された私は前とは違うわ〜」
それなら俺の魔法を防いだことは理解できる。けど、ラウレスが加護を与えることができるならこれからも敵は神の力を有している魔人が多いってことになる。そうなれば誰も止めることはできない。それこそ世界の終わりになる。
だけど、いくら攻撃をしても全てアオの魔法によって防がれてしまう。
ある程度の攻撃を防ぐと、アオはラウレスの左腕を持って黒い羽を一枚放り投げた。
「それじゃあね〜賢者の皆さん。今度は戦場で会いましょうね〜」
「今度も楽しみにしてるぜ。ケント、アイ。それに...シエラもな...」
アオとラウレスは黒い羽にの中に吸い込まれてどこかへ消えてしまった。
「逃げられたか...しかし、ラウレスが加護を与えられるとはな...」
時の魔女をラウレスが加護を与えることができることに驚いていた。それは誰しも思っていることだろう。
「すみません。俺が取り逃したばかりに...」
「ケント君は悪くないよ。あの状況で咄嗟に動けてたんだから...」
「悪いのは俺たちの方だ。子供のお前達に戦わせてばかりで...だから気にすんな」
「そうだね...今回の件は僕たちに非があるわけだからケント君とアイちゃんは何も気にすることはないよ」
アイに視線を移すとユアンの灰の前でまだ泣いていた。その姿を見てどう声をかければいいのかわからなかった。
「ケントさん!」
市民がいる方からケントの名前を呼ぶ声が聞こえる。
市民をかき分けて出てきたのは、ラグレス、リキト、エルクの三人だった。
「ユアンさんは!?」
三人の問いかけにケントは静かにアイの方を指を刺した。三人はアイのいる方に視線を移すと、全てを悟ったかのようにその場に倒れ込んだ。
「嘘だ...ユアンさんが...」
一番ショックを受けているのはラグレスだ。この三人の中で一番ユアンと関わりを持っていたし、誰よりもユアンの力を信用していた。だけど、そのユアンも死に、師匠を失った。
こうしてユアンという大きな犠牲を出したが、ユアンのおかげでラウレスの計画は一時的に中止になった。
いつもありがとうございます。面白かったらブックマークと評価をお願いします。




