第二十八話 別れ
真っ白な空間の中で三人の神はユアンとラウレスが戦っている場面を見ていた。
「やっぱり、つかちゃうかー」
悲しそうな声で死神が呟く。
「仕方ないだろ...これしかラウレスを倒す方法がないんだから」
「でも...僕的にはまだ他に方法があるかもしれないから探して欲しいけど...セレスはどう思う?」
「私は...」
たかだか人間一人にこんなにも悩むのは皆初めてだろう。だけど、ユアン君は私たちに力を認められたからこそ死んでほしくないと思ってしまう。前世でも死んで転生しても死ぬのはいくらなんでも可哀想だ。だけど、今更未来を変えるのは不可能だし、ユアン君以外にラウレスを殺せるかと問われたら何も答えられないのは確かだ。
「私だって...ユアン君に死んでほしくない!けど...そうでもしないと...世界が大変なことになる.....」
セレスは大粒の涙を流しながら必死に答えた。
「大丈夫だって!ユアンならきっと大丈夫だよ!」
雷神の大きな手がセレスの頭をわしゃわしゃと撫でる。
「そうそう、それに...ユアン君は僕たち三人の力を同時に引き出せば、面白いことが起きるしね...」
「「面白いこと?」」
「うん!とーっても面白いこと!特に...セレスのお父さん...クロノスに嫌がらせができるよ!」
***
「俺がこの世に存在しちゃいけない...か。だったら俺を殺してみろよ!そのボロボロな体でさぁ!」
「言われなくてもやってやるよ!だけど、ちょっと時間をくれないか?色々と準備があるんでね...」
「ああ、いいぜ。好きにしな」
そう言って賢者たちの目の前まで移動する。
「みんな...全員でこの結界の周りに追加で結界を張ってくれ。次で終わらせるから...」
「ちょっと待ってユアン君...そんな状態じゃ戦うことなんて...」
今のユアンの怪我の状態は酷いとしか言えない。ドレーク領の時にすでに腹部を剣で貫かれていた傷もある。それにさっき程左腕もラウレスによって切り落とされていた。
レインの言う通り、まともに戦える状態ではなかった。
「それじゃあ時間がかかりすぎる。時間をかければかけるほど、捉えられているドミノ王国の人たちが殺されて、その魔力がラウレスに届くとなると、時間はかけない方がいい。それに策はある」
「策ってなんだよ!確かにお前の言う通り今でもドミノ王国の人たちは殺されているかもしれないけど、あいつを倒せるのはお前だけなんだろ!?だったら...回復してからでも遅くは...」
「ありがとう...バーンさん。心配してくれて...でも大丈夫。ラウレスは絶対に俺が殺すから」
それでも周りにいる賢者は誰も納得はしてくれない。だけど、ある一人の言葉で空気が変わった。
「なら、わしも手伝ってやろうかの」
結界の前で観戦していた時の魔女が俺たちの会話に割り込んできた。
「と、時の魔女まで!?」
「なんで魔女様も...」
バーンとアークがひどく驚いている。
魔女は基本的には国に干渉しない...というか興味がないだけで他の国に行っては自分の研究場所を密かに作ったりダラダラしたりなど基本的に自由な存在だ。そんな魔女がユアンの言葉で動くことは大変珍しいことだ。
「ユアン...お主...今日が予言の日か?」
時の魔女の言葉に一瞬場の空気が凍りついた。
「......そんなのあんたが一番わかってることだろ?それに...こんな大勢でそんなことを言うのは約束が違わないか?」
「はて?そんな約束なんてしたかの?すまんな、こちとら七百年も生きてるババアなもんでな」
ユアンは思いっきりため息を吐く。何を言っても、この魔女には無駄だ。
ここにジェロンドさんがいたら自虐した時の魔女を見て笑うんだろうな...すぐにボコられそうだけど...
「あの...予言の日ってどう言うことですか!?ユアンや時の魔女はこのことを知って...」
アイはゆっくりとこちらに近づいてくる。
「さぁね...それはどうだろう?」
ユアンは首にそっと手を置いた。あの会話からするとほぼバレていると思うけど、今話せば確実にめんどくさくなる。
「ユアン...お前...今日死ぬってことはないよな?」
ケントの発言で先ほどと同様に空気が凍りつく。
「何を根拠に...俺がいつ死ぬ?そんなわけないだろ!」
突然のケントの発言に動揺が隠せなかった。ユアンの動揺している様子を見てさらに空気が凍りつく。
「おかしいとは思ってたんだ...お前が遺跡を調査しに行った時からなんとなく雰囲気が変わった。あえて触れなかったよ。お前が自分から話してくれるのを...けど、いつになっても話してくれないし!お前が大怪我するのが増えてきて何か隠してること確信になってきたけどさ...ようやく今の話を聞いてわかった」
ケントのいうことはほぼ的を射ていると言っても過言ではない。確かに遺跡で時の水晶を見た時から俺の人生は変わった。けど、それを他の人には勘ぐられないようにはしていたはずなのに...
「何を言ってんだよ...俺は何も隠していないし死なない!」
またしても、俺は首に手を置いて話した。
「首に手を置く癖...治ってないんだな。お前が嘘をつく時に必ずする行動だよな」
「何を言って...」
「もう嘘ついてるってことはみんなにはバレてんだよ...正直に全てを話してくれよ」
ケントの目には涙が浮かんでいる。隣にいるアイも同じ様子だった。
俺はそれを見ていられなくなり、全てを話すことを決意した。もうここまでくれば邪魔する人はいないだろうし...
「ああ...そうだよ。俺は今日...ここで死ぬ。だから邪魔をしないでくれ」
「やっぱりか...どうして早く言わなかったんだよ!」
「言ったらお前ら邪魔をするだろ?」
「当たり前だ!仲間を死なせるわけにはいかないだろうが!」
ケントは結界をバンバンと叩き始める。それもそうだ...隠し続けていたことがバレればそうなる。内容も内容だし...
「本当に...ユアンは死ぬの...?」
「そうだよ...ごめんな、アイ...」
「嫌だよ...どうして...どうして...ユアンが」
「元から決まってたんだよ...俺らが洗礼の儀式をした時からね」
アイは泣き崩れてその場に座り込む。咄嗟にレインがアイの側に行くが、レインの目にも涙が浮かんでいる。
「洗礼の儀式って...なんでそんなに早くから知ってたんだよ!」
「落ち着いてよ、バーンさん。俺もそのことを知ったのはつい最近だよ...俺たちに加護を与えた張本人からね」
「ってことは...この件には神が絡んできてるってことか!?」
「そういうことになるね...けど、俺たちに加護を与えた神も最初は知らなかったんだよ。知ったのはヘラが復活した後、俺と神たちが話をしてそう言った結論に辿り着いただけだけど...」
「それでも、実際絡んでるのは君達の神様だよね?」
先ほどまで喋らなかったシエラが突然会話に参加をし出した。
「実際俺を殺すために仕向けたのはセレスの父親クロノスだけどね。セレスと雷神はほぼ無関係なんだよね」
「なるほどね...だからユアンのスキルが二つあるのも...ユアンが死ぬ理由になるってことでいいのかな?」
「流石初代賢者様、その考えであっています。もともとセレスはケントとアイにもスキルを二つ授けようとしていたらしいんですけど、なぜか妨害が入って俺だけが二つ持ちになったって聞きました。だからもともとセレスの父クロノスは俺を殺そうとしていたってことなんですよね」
シエラは「なるほど」と言って納得している様子だった。それでも納得できていない人は何人かいるようだった。
「ユアン...死なないでよ......ずっと...ずっと側にいてよ!!」
泣きながら結界を叩くアイを見て心が痛くなってくる。
「ごめんな、アイ。本当はもっと一緒に楽しいこととか修行とかしたかったけど、もう出来なくなっちゃうな...」
「そんなこと言わないでよ...ユアン...」
俺は「透過」を使って結界の外に出て、アイを抱きしめる。
「本当にごめんな...こんなに悲しませるつもりはなかったんだけどさ...」
「じゃあ死なないでよ!ずっと側にいてよ!」
「それは無理だよ...アイ。あいつ...ラウレスは今日倒さないと取り返しのつかないことになる。現に俺が死なないとこの世界の人口が半分減ることになってるしな...」
俺の発言を聞いてさらにみんなは驚いた。
「マジかよ...」
「でも、ラウレスのさっきの話を踏まえると...」
そう...だから俺は今日この命を持ってラウレスを倒さないといけない。人口が減る...とか信じられなかったが、さっきのラウレスの話を聞いて確信に変わった。俺が今日ラウレスを倒さなかったら、ラウレスは人間を人体実験や遊び道具として扱うに決まっている。それだけは絶対に阻止しないといけない。
「じゃあな...アイ...ケント。俺はお前たちと一緒に入れて楽しかったよ」
「だめ!絶対に離さない!」
ユアンは結界の中に戻ろうとして、抱きしめるのを止めるが、アイはユアンを離さなかった。
「どうして...どうしてユアンなの!?嫌だよ...もう...友達が目の前で死ぬのは見たくない!!」
「アイ...」
アイの泣き叫ぶ声にケントも反応する。
前世でも幼馴染として一緒にいた仲だった。トラックにはねられて三人一緒に異世界に転生されて...また三人で一緒にいることができた。それだけで十分楽しかった。だけど...欲を言えばもっと一緒にいて結婚とかして...子供ができて...ヨボヨボの爺さんになって死にたかった。
「アイ...よく聞いてくれ...人はいつか死ぬ。これは争うことができない。戦いで死ぬか、病気で死ぬか、老衰で死ぬか、死に方なんて人それぞれなんだよ。自分の希望する死に方なんてできるわけがない...できれば俺は老衰で死にたかったけど、そうは言ってられないんだ...俺も人間だ。俺の場合は少し死ぬのが早かっただけ、気にすることはないよ。お前らがこっちにくるときはヨボヨボの爺さん婆さんで会いにこいよ。それまで上で待ってるから...」
俺は「透過」を使ってアイから離れる。
「待ってよ!ユアン!」
「じゃあな!ちゃんと結界の補強よろしくな!!」
結界の中に戻ると、ラウレスが拍手をしながら迎えてくれた。
「いい話し合いだったな...それで、もう時間はいいのか?」
「ああ...もう十分託すことができた!」
さぁ...これが最後の戦い...だな!
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