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第二十七話 生贄

 「いいのか?お前一人で...三人の方が勝てる可能性はあるんじゃないのか?」

 「危険な目に遭うのは俺で十分だよ。それに...守るものがたくさんあった方が気持ち的に強いだろ!」


 目の前にいるラウレスの魔力は先ほどよりも桁違いに上がっている。そもそも神自身が神化をするなんて一言も聞いていないし、できるとは思わなかった。


 「守る...か。お前をここで殺せばアウスト王国...いや、この世界において絶望の花が咲くだろうな」

 「なら、ここで俺を殺して絶望の花とやらを咲かせてみろよ?」


 お互いの間合いは一気に縮み、激しい金属音が周りに響き渡る。


 「やるな!神化しているとはいえ、俺のスピードについてこれるとはな!」

 「こっちも神二人分だからな...」


 正直このスピードについて行くだけでも骨がおれる。今はセレスと雷神の力を借りて、スピード重視で戦っている。


 「スピードは大したもんだ...だけどさぁ、パワーはこっちが上だなぁ!」


 ユアンはラウレスと剣で押し負けて思いっきり後方へと飛ばされる。なんとか、結界に衝突することはなかったが、思いのほかダメージを喰らっていた。


 「グフっ!」


 思わず口から血が吹き出してしまう。今の攻撃で内臓のどこかがやられたか...?それにさっきと比べると体が重い。

 疲れなのか、それとも魔力が少なくなってきているのか...どちらもあり得ることだが、そんなにすぐには影響されないはず...


 「体が重くなってる...とか思っているのか?」

 

 何か違和感を覚えた様子のユアンを見て、ニヤニヤしながらラウレスが話しかけてくる。


 「その話し方からして原因はお前か?」

 「ピンポーン!って言っても俺の能力じゃなくてヘラのだけどな。この結界内に少しづつ麻痺毒を散布させててさ、結構強力なやつなんだけど、聞いてくれて安心したよ」


 やっぱりラウレスの仕業だったか...目に見える攻撃なら「未来予知」で回避することは可能だが、目に見えない攻撃は「未来予知」で見ても防ぎようがない。

 だんだんと体が痺れてきて、動くのが難しくなる。


 「辛そうだな...けど、もうちょい楽しませてくれよ!」


 動けない俺を見てラウレスの拳が俺の顔面に直撃する。


 「ユアン!!!」


 結界の外で見ているアイの悲鳴が結界内にも響き渡る。その声が聞こえているにも関わらずにラウレスの攻撃が手を止めることはなく、俺はサンドバック状態になる。


 「なぁ...まだ動けんだろ?何を隠してる?」


 血塗れで横たわっている俺を見ても、ラウレスは平然と話しかけてくる。


 「別に...何かいい案がないか考えてただけさ」


 殴られた箇所はまだ痛むが、なんとか立ち上がる。体の痺れは、なんとか女神の加護で回復することができた。けど、問題は周りに撒き散らされている毒だ。解除する方法はなんとかできるが、失敗した時のリスクが大きすぎる。


 ひとまず、今のユアンには女神の加護に切り替えたため、毒は効かない。なら周りにある毒は無視してラウレスを直接攻撃した方が余計な魔力を使わなくて済む。


 「ここで使うとは思ってなかったけど...まぁ、温存した方か...」


 ユアンは持っていた刀を握りしめて「限界解除(リミットオフ)」と呟いた。

 ユアンの刀から尋常じゃない魔力が解放され、周囲の毒を吹き飛ばした。


 「ここでは使いたくなかったけど...しょうがないよな」

 「流石としか言えないな...その魔力...その目!ああ...全く、君が人間側にいるのは本当にもったいないな」


 やはり魔力が大量にあるだけでこんなにも違いが出るのだろうか...今までは、神から直接魔力をもらいながら戦っていて、刀に封印されていた魔力を使ってはいなかった。それどころか、慣れない力の切り替えなどをして、強力ではあったが、慣れていないせいか扱いが難しかった。


 「さてと...」


 その瞬間、ラウレスの左腕が宙を舞った。傷口からは勢いよく血が流れ出る。


 「......くそっ!...」


 先程まで余裕を見せていたラウレスの表情は一気に警戒へと変わる。


 「今のはアイの腕を切り落とした分な...次は首と胴体を切り離してやるよ」


 ユアンから溢れ出る魔力はバチバチと音を立てながら周りに電気が帯びていく。


 「雷撃」


 雷の魔力を帯びた斬撃がラウレスを襲う。正面からくる斬撃にラウレスは右腕で弾き飛ばす。


 「こんなので俺が止められるとーーー」

 「思ってねーよ!」


 すぐにユアンはラウレスの後ろに周りこみ、後頭部に回し蹴りを入れようとするがかわされる。


 「あぶねーなッ!」


 攻撃を避けたあと、ラウレスはすぐに距離をとるが俺は逃さなかった。すぐにラウレスに近づき、刀で斬りかかる。左腕のないラウレスは、俺の刀を受け切ることで精一杯だった。


 くそ...死神や雷神の魔力を借りなくてもこんなに強いのか...特殊能力がある方が厄介だとは思っていたけど、ユアンの場合はどっちも厄介だな。


 「でも、おかしいな...この前戦った時はそんなに強くなかったはずだけど、何かやったのか?」

 

 俺の刀を受け切りながら話しかけてくる。


 「さぁね...今は何がなんでも勝たなきゃいけないからね...気持ちじゃないかな!」


 ラウレスの腹部に蹴りを入れて、後方へと吹っ飛んでいった。そしてさらに追い打ちとして雷撃(サンダーボルト)を撃ち込もうとした時、金色に輝いていたはずの雷は黒く変化し、黒雷となってラウレスに落ちていった。


 「今のは...?」


 流石の俺も何が起きたのかいまいちよくわかっていなかった。いきなり雷が黒く変化したものだから自分でも分からなかった。


 『おっ!黒い雷になったか!』


 いきなり俺の耳に雷神の声が聞こえた。


 「その口調だと、何か知ってるの?」

 『ああ、黒い雷に変化するのは神の力がうまく馴染んでいるって証拠だ!』

 「でも、雷神の加護を使っているときに雷魔法を使っても黒くならなかったけど?」

 『それは...あれだ...まぁ、気にすんな。原因は多分お前だから!』

 「何もわかってねーじゃん!てか急に投げやりになんのやめろ!」


 まぁ...黒い雷になったのは神の魔力によって変化したってことはわかった...確かにケントの炎も赤から青へと変化していたな...青い炎はラウレスの「黒炎」も効かない効果があるからこの黒雷にも何かあんのか?


 「ユアン!やったのか!?」


 外で見ていたケントが話しかけてきた。隣には心配そうな目で俺のことを見ているアイもいる。


 「さぁな...これでやれたなら俺ら三人でも倒せるさ。相手は神化をしてる神だぜ?こんなんで倒せるわけがーー」

 「よくわかってるじゃん...」


 土煙に中からゆっくりと歩いてくる。

 だが、思ったよりラウレスの体はボロボロで意外にも攻撃は効いている様子だった。


 「と言ってもこんな姿で大口は叩けないけどな」

 「でも、思ったより攻撃が効いてそうだな...」

 「まぁね...でも、これで回復さ...」


 ラウレスは右手につけていた緑色の指輪が光だす。その光に一瞬視界を奪われる。次の瞬間、欠損していた左腕は元通りに治り、体にあった傷は全て治っていた。


 「おいおい...反則だろ...」


 あまりの出来事にユアンは絶句する。あれほど全力で与えていたダメージも全て回復された。今の俺の魔力ではどうすることもできない。


 「さてと...体も治ったところで...行ってみようか」


 急激にラウレスの魔力が上昇する。回復したのは傷だけではなかったようだ...


 「何が起きてんだよッ!?」


 目の前で起きていることが信じられなくなり、我を忘れて正面から斬りかかった。


 「.........隙だらけだな.........」


 次の瞬間、今度は俺の左腕が宙を舞った。


 「があああっ!クソ!」


 痛みと同時に自責の念に駆られる。

 やっちまった...つまらないミスでもっと戦況が悪くなる。結界の外まで行けばアイに腕を治してもらうことは可能だが、その時間をラウレスがくれるかどうかだ。


 「なんで俺が回復したか知りたいか?」


 ラウレスの問いかけにユアンは首一つ動かさずに沈黙を続けた。それを見てラウレスは「ふっ」と笑い話を続けた。


 「俺にはたくさんの生贄がいるんだよ」

 「生贄...だと...?」

 「ああ、ドミノ王国で手に入れた国民をな、魔力だけを抜き取ってるんだけどさ、あいつら飢餓でガリガリな上に大した魔力も持ってないからさ...邪魔でしょうがなくて...」


 いったいこいつは何を話しているんだ...?生贄?飢餓?ラウレスが話し続けることによって俺の怒りのパラメーターは上昇する。


 「大した魔力を持たない奴にはさ、魔力を吸い取ると同時に殺してんだけどなかなかいい方法なんだよね!魔力で作り出した溶岩の中に人間を入れてるんだけど、その時の人間が面白くてさ!この前なんて、ガキを溶岩の中に落としたら「ママ!ママ!」って泣き叫んでやんの!だからそのママも一緒にぶち込んでやったんだけどさ、俺って優しいよね...親子で死ねるなんてなんて嬉しいんだろうね...」


 ラウレスの話で周りは引いている。いや、引くというよりもはや恐怖だ。人間をそんな扱いしようなんて誰も思わないからだ。さっきここにきた賢者たちも今の話を聞いて絶句している。


 「ラウレス...お前はやっぱりこの世に存在しちゃいけないんだ...」


 なんとしてでもこいつをここで殺さなきゃいけない...死ぬ気で...いや、死んでも殺さなきゃ、平和な未来が崩壊することになる。


 「三人とも...全部の力を貸してくれ...」


 力ない声でユアンは呟いた。


 



 


 





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