第十五話 雑談
目が覚めるとベッドの上にいた。窓から差し込む日差しを浴びて目が覚めた。
昨日のことはあまり覚えていない。アイとケントで三人で泣きあったところまでは覚えているがその後の記憶はない。
部屋の中を歩き回ってみると、どうやら王城のどこかの部屋にいるらしい。
部屋の外に出ようとした時ノックする音が聞こえた。
「執事のセバスです。ユアン様入りますよ」
セバスがドアを開けて入ってくる。セバスは起きている俺を見て笑顔になった。
「ユアン様目が覚めて何よりです。他の皆様はすでに目が覚めて、今は陛下と話している最中です。ユアン様も陛下と話す時間があるので準備をお願いします。」
俺はアイとケントが無事だったことに改めてホッとする。
「分かりました。もう準備できているので案内してもらっていいですか?」
セバスはすぐに陛下がいる部屋に案内をしてくれた。数分歩くととある部屋の前に立たされた。中からは誰かの声が聞こえてくる。
セバスはドアをノックした。
「セバスです。ユアン様をお連れしました」
「入ってもいいぞ」
中からは少し若い声が帰ってきた。
中に入るとソファに座っているケントとアイがいてその前には四十歳ぐらいの男性が座っていた。
「其方がユアンか」
「はい!そうです」
緊張のあまり声が少し裏返ってしまった。
「そんなに畏まらなくて良い。普通にしてくれて構わん」
陛下は緊張している俺を見て気を使ってくれた。
「ユアンも立ってないでここに座りなよ」
アイは立っている俺を見て自分の隣が空いているから自分の隣に座るようにソファをバンバン叩いている。
ユアンはアイの隣に座ると陛下が咳払いをして話し始めた。
「ユアンも来たところで本題に入るとしよう。まずは、ザルク公爵を助けてくれてありがとう」
陛下はユアンたちに頭を下げた。
「陛下!頭を上げてください!」
「すまない。でもザルク公爵はこの国ではとても重要な人なんだ。もし死んでしまったらと考えると、この国は混乱に陥ってしまう」
陛下の話を聞いて納得する。ザルク公爵は王国の中ではトップの貴族だ。そんな人が急に亡くなってしまったら王都は混乱するだろう。
ザルク公爵は五歳の子供が言う話をしっかりと聞いてくれる。親とは違う安心できる大人だ。
「君たちがいてくれたおかげでザルク公爵は守られた。本当にありがとう」
再度陛下は頭を下げる。
「さて、この話は終わりにして君たちのことなんだが、君たちにはこのまま王城で生活をしてもらう。王城で生活する間は魔法の修行や勉強をしてもらう」
「本当にここに住んでいいんですか!?」
アイは目を輝かせて陛下に聞いた。
陛下もニッコリと笑いながら返答する。
「もちろん。幼いのに私たちの都合でこのようなことになったからには、安全に生活をしてもらうにはここが一番安全だからな」
アイは飛び跳ねて喜んでいる。その様子を見てユアンは陛下に気になるところを聞いた。
「陛下、魔法の修行と行ってましたけど家庭教師みたいな人が俺たちに教えるってことですか?」
「そんな感じだな。でもただの家庭教師じゃないぞ」
陛下はニヤリと不気味な笑みをしている。
「君たちに教えるのは賢者だ」
「「「・・・・・・・え?」」」
「「「ええええええええええええええ!?」」」
陛下の言葉に理解が追いつかず間が開いて驚く。
「な、なんで賢者様何ですか!?」
「そうだよ!賢者様って忙しいんじゃ.....」
ユアンとケントは陛下に申し立てる。
陛下は俺たちの驚きっぷりを見て笑っている。
「はっははは。そんなに驚くことかい?」
「驚きますよ!だって賢者様ですよ!魔導士の頂点の人たちが私たちに修行をつけるって.....」
アイが驚くのも無理はない。確かに賢者となると国一番の魔導師だ。そんな人たちが五歳の俺たちに教えるとなると前代未聞だ。
「君たちには強くなってもらわないといけないんだ。今は起こってはいないが、近いうち隣国と戦争になるかもしれない」
その言葉を聞いてさっきまで騒いでいた空気が一気に静かになる。
「戦争って....どうにか止めることはできないんですか?」
アイは尋ねた。
陛下は首を横に振り、話を続けた。
「隣の国のドミノ王国の国王は自分たちだけいい生活をしては、住民には重い税を与えている。住民は重い税のせいで食事をあまり取らずに生活をしているから痩せ細っている。それで隣にあるこの国が豊かなのを知って、いずれ戦争を起こすのではないかと噂が立っていてね」
陛下の話を聞いてまともに話すことができなくなった。
前世では戦争がない国だったこともあり、戦争があると言われてもあまりピンとこない。だが、この話を聞く限り戦争というのがどれほどなものかわかった。
「君たちには強くなってこの国を守って欲しいんだ。国王である私には国民を守ることしかできない。だから君たちにも力を貸して欲しい」
陛下は先ほどと同じように頭を下げた。
ユアンはゆっくりと安全な生活を望んでいたが、陛下の話を聞いて「嫌だ」とは言えなくなってしまった。
「まぁいいんじゃない?俺たちの力でよかったらいつでもお貸ししますよ!」
ケントは俺たちの話を聞かずに勝手に了承してしまう。
「いや、ケント。この話を聞いてすぐに手を貸すのはおかしいだろ!戦争だぞ、俺たちはまだ五歳で少ししかわからないんだぞ。何もこんなに早くに言わなくても、もう少し考えてもいいだろ。アイもそう思うだろ?」
アイは少し考えていたがすぐに答えが返ってきた。
「私も別にいいかな....さっきの話を聞いて私たちが力をつければ死者が少なくなると思うし、ユアンの言っていることも理解できる。けどこのまま何もしないで戦争は嫌だよ」
ユアンはアイの言葉に返すことはできなかった。アイの言っていることも一理ある。この国の人を守らなけば、死者が出る。もう人が死ぬのは見たくない。
「陛下、力を貸す代わりにお願いしてもよろしいですか?」
「言ってみろ」
「もし、国が危ない時でもケントとアイが危険な状態であったら迷わずそっちを助けます。それでもよろしいなら力を貸します」
「わかった。では三人ともこれから宜しく頼む。ああ、それから君たちには魔法を修行したり勉強することが仕事なので給料が出ることになっている」
「「「え?」」」
「給料は金貨五枚ぐらいだが平気か?」
金貨五枚と言ったら日本円で五百万円だ。そんなお金が魔法を修業するだけで一ヶ月もらえるのかと思うと悪くない。
「ちょっと待ってください!金貨五枚って給料だと高すぎませんか?」
「金貨五枚だと男爵ぐらいだったか?いや、男爵の方がもっとあるか......」
陛下は何かぶつぶつ言っているようだが「男爵ぐらいだ」と言っていた。
この国に来てから驚くことがありすぎた。師匠は賢者だとか戦争だとかで、ユアンのスキル「未来予知」であっても遠くの未来は見えない。平和に暮らしたいユアンだった。
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