第二十話 変えられない未来
「黒炎」
俺の全身は黒い炎に包まれた。
ラウレスは俺の体から剣を抜くと、そのままどこかにいこうとした。
さてと...一番厄介なユアンは潰した。もう少し遊びたかったが、人形と互角と考えると少々物足りない。これから王都に向かって潜んでいるアオと合流して国でも襲うか...
次の計画は王都を潰した後、ケントと戦い、その後アイを捕虜として扱いおもちゃとして活用する。これが一連の流れになっている。
これから王都に向かおうとした瞬間、後方から斬撃が飛んでくる。
ラウレスはそれをギリギリで避けるが、咄嗟の反応に少々驚く。
「なぁんだ...生きてんだったら先に言えよ」
「はぁ...はぁ...くそ...」
ユアンの体は全身焼け爛れているにも関わらずに生きている。黒炎は触れたものを一瞬にして灰にする魔法だ。
「不思議だな、どうして生きてる?」
ラウレスの問いに応える体力も無くただ、立つことだけに意識を集中させる。
無言の状態の俺を見て、ラウレスはどうやって生き延びたのかある程度推測した。
「なるほどな...黒炎に包まれた瞬間、死神の力ではなく女神の力に切り替えたと言うわけか。君の武器が戻っていることを見るとそう言うことだろ?」
ラウレスの言っていることは当たっている。あの時、ラウレスの剣が俺の体を貫いた時、黒炎で攻撃されるか、剣で切り裂かれるかの二つだった。俺の予想は当たっていて、黒炎での攻撃をラウレスは選んだ。おかげで一瞬で女神の力に切り替えたが、全身が少し焼け爛れただけですんだ。後少し遅かったら俺の全身は灰になっていただろう...
「まだその体で俺と戦うの?やめた方がいいよ?君の体はとっくに限界が来てるんだからさぁ」
確かに俺の限界はとっくに迎えている。死神の力が思ったよりも魔力の消費が激しく残りの魔力は半分を切った。
「俺が...戦わなきゃ...誰がお前を殺すんだよ......」
「俺を殺す?クックック...君やっぱり面白いな。その状態で俺を殺すか.........じゃあ、やってみせてよ...」
目の前にいたはずのラウレスの姿を見失う。「未来予知」を使う前に姿を見失ったから、未来が見えない。俺の周りを高速で移動しているため、いつ攻撃がくるか予想できない。
「くそ...!」
俺は魔力を広げて、なんとかラウレスの動きを捉えようとするが、早すぎて何もわからない。
「力をかせ!雷神!」
『おう!』
雷神の魔力を身に纏い、思考速度が大幅に上昇する。これならギリギリでラウレスの動きを捉えることができそうだ。
「そこか!」
背後から来る攻撃をギリギリで受け止める。後少し遅かったら先ほどと同じように腹部を貫通されていただろう。
「よくかわしたな...その魔力...雷神だな。雷神の能力は単純で速さと力を上昇させる。特殊な能力がない代わりにその効果は絶大か」
「喋ってもないのによく知ってんな...」
「まぁな...俺は神だからな。知ってて当然さ」
ラウレスの剣を振り払い、攻撃をしようとするが、すぐにまた高速で移動する。
「じゃあ、もっとスピードをあげるからな」
今のが本気じゃなかったのかよ...流石にこれ以上速くなると雷神の力を使っても対処ができない。
刺された場所が燃えるような痛みに襲われている。一時離脱を考えたが、そうなるとラウレスは王都に向かう確率が高い。それはなんとしても行かせてはならなかった。
「反応が遅いぞ」
思いっきりラウレスの蹴りを腹部に喰らう。ラウレスの脚と傷口がちょうど重なり激痛が全身に広がった。
「がはぁ!」
「もう一丁!」
次は脇腹、その次は顔、攻撃をするたびに速さは増していく。一度だけ、全身を「透過」してラウレスの攻撃を避けることに成功するが、次の攻撃で頭に攻撃をもらって立てなくなった。おそらく脳震盪が起きたんだろう...
脳震盪が起きたことで結界を維持する力がなくなり、王都にあった大きな魔力は消えてしまった。
「おっ!厄介な結界が消えたか...まぁそれだけの攻撃をもらって結界を維持する方が無理な話だよな」
ラウレスは俺の横に立ち何かを始めようとしている。
「さて、君のボロボロになっている姿をもう一度仲間に見てもらおうか!」
そう言ってラウレスは俺を蹴り上げた。飛ばされている方角でなんとなく王都に飛ばされていることはわかっていた。それに、ドレーク領に近づいている大きな魔力を持った人間が二人...おそらくケントとアイだろう。
空中で思うように体が動かない...脳震盪のせいで体が自由に動かなかった。このまま王都に飛ばされるのは正直避けたいが、今のままではどうしようもできなかった。せめて結界があれば、街の建物を壊さずに住むのに...
もう少しで王都に到着する...と言っても着地をしようにもうまく体が動かない...なんとか着地できるように体を覆う魔力はいつもより多く纏わせることにした。数秒後、俺の体は思いっきり地面に叩きつけられ、どこに着地したなんて知る由もなかった。
思ったより衝撃がきたため、体の芯に響いたがそのおかげで脳震盪が軽くなった。建物にぶつかった衝撃はなかった...どこに着地したんだ...?
あたりを見回して見ると、そこは自分のよく知っている場所だった。
「くそ...!学園まで飛ばされたのかよ...」
俺が飛ばされたのは、学園のグラウンドだ。最悪なことにグラウンドでは生徒が授業をしている最中だった...
「君大丈夫かい?」
授業を行っていた教師が話しかけてきた。
「俺のことはいいから速く生徒を非難させて!やばいやつが来る前に!」
「それよりも君は病院に行った方がいい!ここは私に任せて!」
「いいから!!つべこべ言わずにとっとと非難させろ!!」
俺の気迫に負けたのか、教師は「わ、わかった...」と言って生徒を非難させた。生徒が非難させたすぐに校舎側の方から「ユアンさん!」と声が聞こえる。声のした方を振り返ってみると校舎の窓から身を乗り出して俺の名前を呼んでいるラグレスとリキト、エルクの姿があった。三人は窓から飛び降り、こっちに走ってきている。
「ユアンさん!どうしたんですか!?その傷は!?」
「すぐに治療を!」
「俺は賢者様に知らせてーーー」
「お前らも速く逃げろ!俺のことは気にしないで自分の身を優先しろ!」
ラグレスたちが心配してくれるのは正直嬉しい。けど、俺を心配するよりも自分の身をとにかく守ってほしかった。
「いいか、もうすぐここにやばいやつが現れる。そいつが来る前に早くシェルターに非難してくれ...」
そう...後少しでここにラウレスが到着する。初代勇者として祭り上げられていたラウレスが、魔神となって世界を壊そうとしていることを知ったらラグレスはどう思うだろう。だから敢えて、俺が戦っているのはラウレスだと言わなかった。
「わ、わかりました。でも、ユアンさんは?」
「俺はここに残ってそいつと戦う...俺が本気出すと周りにも被害が出るからな...そう言った理由も兼ねて非難してくれ」
俺の言葉を聞いてラグレスたちは静かに頷いた。ラグレスたちが急いで避難をしようとしたその時、ラグレスたちの前にある人物の人影が現れた。
ちっ!遅かったか...
ラグレスたち三人の前に現れたのは、今まさに俺が戦っていた人物ラウレス本人だった。
「おいおい、せっかくのおもちゃを逃すなんてつまらないことはしないよなぁ?」
ラグレスたちは、ラウレスの姿を見て逃げるどころか、動くことすらできなくなっていた。
まぁ...無理もない。目の前に魔神がいれば、普通の人間なら立つことすらできなくなっている。それでも、立っていられているラグレスたちには、ある程度の実力がついていることがわかる。
「さぁて...じゃあ続きを...」
ラウレスは目の前にいたラグレスをマジマジと見つめる。何かに気づいたラウレスは、ラグレスを見ると高らかに笑い始めた。
「あっははは!なるほどな...まさかここで会えるとは思わなかったなぁ...」
「な、なんなんだよ!」
咄嗟にラグレスが言い返す。
「まさか...ここで俺のしそーーー」
ラウレスが最後まで言おうとする前に、電磁砲でラウレスを攻撃する。
「おっと...最後まで話をさせろよ〜」
「お前が話すことなんて何もねーよ」
「いやいや、俺は色々と教えてあげようとしただけじゃん!それなのにさ、君はいっつも邪魔をしようとするよね」
「知らなくていいことだからな」
なんとかして、ラグレス達のそばから引き離そうと攻撃をするが、全て避けられる。
「正直、めんどくさいな...少し黙っていてもらおうか」
そういうとラウレスは禍々しい魔力を右腕に集中させる。ラウレスの魔力が空気中の魔力に反応して、空中に魔法陣が描かれる。学園周囲の魔力はラウレスの影響で濃くなり、天気も段々と雲が多くなり、遠くの方では雷も聞こえている。
「な、何が起きるの...?」
ラグレスの隣にいたエルクは周囲の変わりように恐怖の言葉が漏れ出た。
「少しだけ...ユアンと戦ってやれ、ヘラ」
空中に描かれた魔法陣が黒く輝き出す。その圧倒的な禍々しい魔力に少しだけ、怖気付く。
『あら、私が出てもいいのかしら?ラウレス』
「ああ、別に構わない。俺は少しだけ、ここにいる子供と話をしたいからな。おしゃべりにはユアンが邪魔なんだ。相手しといてくれるか?」
『もちろんよ〜』
「殺すなよ?大事なおもちゃなんだから...」
『わかってるわ』
二人の会話が終わると、ヘラは不気味な笑みをしながらゆっくりとこちらに歩いてくる。
最悪だ...今この場には、実質二人の神がいる。しかも邪悪な魔力を纏っている魔神だ。一人でも対処できないのに、二人になるとどうにでもできない。それにヘラの実力は未知数だ。ラウレスよりも強いのか弱いのかそれすらもわからない状態だった。
『久しぶりね〜坊や...私は忠告したわよね?あまり調子に乗らない方がいいって...調子を乗ったら悪〜いお姉さんがお仕置きしちゃうって...』
歩きながらゆっくりと話しているヘラに対して一切気が抜けない...それどころか、話す言葉全てに殺気が込められている。
次の瞬間、足元から異様な魔力を感じた。
嫌な予感がして、その場を離れる。
『あら、よく気づいたわね...さすがと言うべきかしら』
俺のいた場所から紫色のモヤモヤが地面から現れた。
「毒か...」
『正解よ...私の魔力は毒に変化するわ。あなたも知っているでしょ?神は特別な力を一つ持っていることを。今の女神...セレスは命、雷神は力、死神は寿命...そして、私は毒。残念ながらラウレスは神になりたてだから固有の魔力はまだ持っていないけれど、あと二年か三年はしたら現れる可能性はあるわね...』
「なるほどな...じゃあ今のところはまだあんたの方が強いってことだな?」
『ふふ...そうかもしれないわね?それにほらぁ...何かいい匂いはしない?』
俺は慌てて息を止める。ヘラと話していて気づかなかったが、知らない間に俺とヘラの場所だけ結界で囲まれていた。
『もう息を止めたって遅いわよ...』
すると、目の前にいるヘラが二人、三人と少しづつ増えていく。
「どうなってんだよ...」
『ふふふ...どれが本物でしょう?』
不気味な笑い声が結界に響く。今結界内にいるだけでも四十体以上は目で確認できてる。近くにいるヘラに攻撃しても、実態がないのか攻撃が当たらない。
「くそ...!どれが本物なんだ!?」
『ふふふ...さぁ...もっと楽しませてね?』
***
「さて、ヘラがユアンの相手をしている間に少し話そうか?」
謎の男は俺らと話したいと言ってきた。おそらくここから逃げてもすぐに追いつかれてしまう。
「何も話すことはない!」
「んん?そうか?そうだな...例えば、俺の顔に見覚えはないか?」
こいつの顔?見たことはないが、どこかで見たことがあるような気がするが思い出せない。
「お前ら見たことあるか?」
「俺はどこかで見たことがあるような...」
「わ、私も...」
二人とも俺と同じ意見だったが、それでも思い出せない。
「ああ...そうか!この格好じゃわからないのは無理もないよな!」
そう言って謎の男は少しづつ変化していった。肌は少し黒くなっていた肌は人間と同じように薄くなり、髪型も短髪な清潔感のある髪型へと変化していった。
その変化を見て俺たちはようやく気づくことができた。
「な、なんで...」
「あ、貴方は...」
「う、嘘でしょ...」
三人の反応を見て謎の男...ラウレスは笑い出した。
「はっははは!いいねその反応...そうだよ...君のご先祖さまだぜ?」
「ど、どうして...昔に亡くなったんじゃ...」
「あれは人間が作った御伽噺だろ?現実は仲間を殺して魔人になり、闇堕ちした女神から力をもらって魔神になったが正解だ」
嘘だ...あんなに慕われていたはずのご先祖さまが仲間を殺して魔人になっていた?ありえない...ありえない!
「嘘だ!だってラウレス様はみんなに慕われていたのに...なんで!?」
「ふっ...君にもいずれわかるさ。世界が小さく見えて広く見たい...と思う時にさ」
俺たち三人は驚くことが多すぎて動くことすらできなかった。
「さてと...おしゃべりはお終いだ。もう死んでいいぞ」
ラウレスは持っていた剣を頭上まで上げて一気に振り下ろした。
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