第十六話 正体
ユアンがアイを背負って王都に侵入しているとき、時の魔女ユニバは城の中を徘徊していた。城の兵士は、ユアンを見つけて急いで現地に向かっていて忙しい様子だ。
ユニバはある人物と話をするために城に潜り込んでいる。ユアン発見の報告がされても全く動こうとしない人物。
コツコツとユニバが歩く音が廊下に響く。そして、その足音はある部屋の前で止まった。
ノックもせずにゆっくりと扉を開ける。中に入るとその人物の魔力が感じられた。部屋にいること確実だ。
ユニバは慎重にその人物がいるところまで歩いていく。そして、ユニバがその人物に近づくと確信した。
「ん、誰!?」
身長慎重に近づいたつもりがうっかり足音を立てて気づかせてしまった。
「わしじゃよ。時の魔女ユニバじゃ」
「ん...時の魔女様、どうしたの?」
ペトラは少し警戒しているようだった。だけど、時間は無限ではない。なぜかは知らないが、明後日にせめてくる予定だったが、未来では明日にでもラウレスが攻めてくることになっている。ユニバは単刀直入にペトラに聞いた。
「なぜそんな格好をしておるのじゃ?」
「ん、なんのこと?」
「惚けるでない。ここはわしとお主と二人きりじゃ。話を聞かれないようにここの部屋に術式も刻んでおる」
「ん、なんのことを言ってるか分からない」
シラを切るペトラにユニバは、ペトラの本名を口にした。
「初代賢者にして、現在はカラーのメンバー、名前はクロ...か。初代賢者が聞いて呆れるな」
「何を言ってるかさっぱりだよ」
「動揺しておるのか?変な喋り方ができておらんぞ?」
ユニバに指摘されたせいなのか、ペトラは机の上の書類を数枚落とした。
「......いつから気づいてたの?」
「会議室で賢者全員と会った時にな。最初はユアンのことで夢中だったが、最後にわしが出ていく時に気づいたんじゃよ。お主の顔に似た人物を知っているからな」
ペトラは「はぁ...」とため息をこぼし、指をパチンと鳴らした。すると、小柄だった身長は少し伸び、大人びた姿に変身した。その姿は、肖像画でも描かれている初代賢者の絵とそっくりだった。
「この姿も久しぶりね...」
「わしはその姿の方が見慣れてるがな」
「このことは誰にも話してないのかしら?あなたが一声かければ、ケントかアイちゃんが私を倒しにくると思うけど」
「そんなめんどくさいことはしない主義でな。まぁ、お主に悪意があるなら話は別じゃが...」
「まぁ...そうね。今の私はただの魔人。人に殺されても文句はないわ」
カラーのメンバーであるはずのペトラは、戦う様子は全くなかった。
「どうして生きておるんじゃ?お主はラウレスに殺されたはずじゃ...」
そう...初代賢者は共に戦っていたラウレスに殺害されていた。ラウレスは自分の死を偽装して、誘い込み初代賢者シエラ・リーレンと聖騎士のグレイ・マーレンを殺害した。普通なら死んだ者が生き返るのは不可能だ。だけど、殺されたにも関わらず、今目の前にいるのは、まさしく初代賢者だ。
「本当だったらあの時私は死ぬはずだったわ。だけど、私が死ぬ直前闇の上位精霊が私の体に入り込み私の体の主導権を奪おうとしたの。悪戯好きの闇の精霊が人に悪戯をするのはよくあることだけど、瀕死の私が立ち上がる姿を見てラウレスは、不気味な笑顔をしながら、自分の魔力を私に与えて魔人にさせたわ」
魔人は人や魔物を殺して食べることによって魔力を得て強くなるが、生きるためなら人間と同じ生活でも十分生きることができる。魔物が魔人に進化した時は、かなり抵抗があるが、ペトラの場合は、ベースが人間なので、姿と魔力を変えて仕舞えば、人間と見分けがつかないし、食生活も特に変わらなかった。
「なるほどの...わしもそこまでは知らんかったな。だけど、どうしてそのことをみんなに知らせなかった?それを知らせていれば、こんなことにはならなかったかも知れんのに...」
「言ったわよ。けど、私の顔どころか、私の魔力はもう人とは別次元の存在だったみたいで、話す前に攻撃されたわ」
ペトラの話を聞いてようやく全てがわかった。一番の元凶はラウレスと魔神ヘラだということ。やはりラウレスを倒さないことには、全てが解決しない。
「それで...お主は敵なのか?それとも味方か?」
「どちらかというと、味方のほうね。この国は好きだし、仲間もいる。守る意味はあるわ」
「もし、危険な時になって、お主の正体がばれそうになったらどうするんじゃ?」
ユニバは一つの疑問をペトラに投げかけた。実際に我が身が可愛い状態なら中途半端に戦うのはリスクが大きいが、ペトラはその質問に即答した。
「そうなったら、すぐに正体を明かして戦うわ。その後に、この国を出るつもり。もともと正体がバレたら国を出るつもりだからあんまり気にしてないけど」
「それを聞いて安心したわい。それじゃあな、わしの用事は済んだから帰るとしよう」
「久しぶりに話せてよかったです。師匠」
「何百年前の話じゃ...懐かしいな。ラウレス、シエラ、グレイの三人を稽古つけてた時のことを思い出すな...」
「ラウレスは、師匠のことをお姉ちゃんと呼んでましたからね」
「あの時は、可愛かったが、今は...」
今のラウレスは、自分がおもちゃと遊べるように世界を壊そうとしている悪だ。現代の勇者、ラグレスが知ったら絶望するだろうな。
「とにかくわしは帰るぞ。ユアンとの約束でまだこの国にはいる約束だから、何かあったら連絡をくれ」
「わかりました」
そう言うと、ペトラの前にいたユニバは一瞬で姿を消した。
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