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第十三話 ユアンVSアイ

 「やっと見つけた...ユアン!」

 「なんのようだよ...アイ...」


 俺を見つけたアイの表情はどこかホッとした様子だった。


 「この国から出よう!ここにいたらユアンが殺されちゃう!」

 「俺が?はっ!ばかも休み休みに言えよ。俺が誰に殺されるって?俺を殺せる人間なんて存在しないよ」


 そう...人間だったら俺を殺せる可能性があるのはほんの数人しかいない。人間だったら...


 「私とケントがいる」

 「本気で言ってんの?百歩譲ってケントなら可能性はあるだろうけど、お前が俺を殺す?寝ぼけたことを言ってんじゃねーよ」


 あまりにもばかなことを言っているもんだから少々イラついて睨みつける。俺の表情を見て、アイは少し体をのけぞらせる。


 「...私たち幼馴染で、唯一神化ができないのはユアンだけだよね?それなら私にも勝機はあるよ」

 「だったら試してみろよ...お前の神化が通用するのかどうか」

 「本気で言っているの...?」

 「お前がくだらないことばっか言ってるからな...それに俺を殺せる自信があるんだったらやれるよな?」


 これで、大人しく引いてくれれば何も問題はないけど...現実はそう甘くなかった。


 「わかった...ただし、私が勝ったら私のいう通りにしてもらうからね」

 「ああ、いいよ。その代わり俺が勝ったら二度と俺の前に姿を見せんな」


 アイの魔力がどんどんと膨れ上がっていく。どうやら最初から本気で行くようだ。


 「化身せよ、セレス」


 アイが言葉を放つと同時に神々しい光が放たれる。アイの背中には二つの羽が生えている。


 「女神...というより天使だな...」


 神化をすることによって、神と同等の力を手に入れるが、この前のラウレスと比べると天と地ほどの差がある。


 「言っておくけど手加減はできないよ」

 「手加減してくれなんて言った覚えはないよ」


 瞬きをした瞬間、目の前からアイの姿はなく、背後から光魔法が飛んできた。その攻撃は俺に直撃する。


 「光玉(ライトボール)、神化をした初級魔法は上級魔法の威力を簡単に超えるよ」


 確かにこの魔法を賢者に放ったとしてもタダでは済まない。けど、相手は俺だ。特に問題はなかった。

 無傷な俺を見て、アイは悔しそうな顔をする。


 「やっぱり...()()じゃないとダメかな...」


 そう言ってアイは上空へと飛び上がる。魔物以外で空を飛ぶのは、アイが初めてだろう。俺はその姿に多少驚いた。


 「この魔法は...覚えたばかりで加減が難しいから、死んでも恨まないでね」


 アイが手を掲げると上空に数百の光の槍が出現する。その一本の光の矢には、俺が放つ「電磁砲(レールガン)」と同じ魔力が込められている。


 ここを更地にするつもりか...?流石にあんなのを直で食らえば、俺でもタダでは済まない。


 「裁きの槍」


 アイが手を振り下ろすと、上空にあった光の槍は一斉に降り注いだ。

 ズドドドドと光の雨が数分間降り注ぐ。それと同時に大量の砂煙で視界が濁った。


 「これなら...あのユアンでも致命傷にはなるはず...」


 段々と砂煙が収まっていき、人影のようなシルエットが浮かび上がる。上空で見ていたアイはそれを見て驚愕した。「裁きの槍」を直撃したはずなのユアンは、一歩も動かずに無傷のまま立っていた。


 「どうして!?あれだけ広範囲で高威力の魔法を受け切るなんてほぼ不可能なはず...」

 「ああ、直撃したら流石の俺もやばかったよ...けど、残念だったね。俺のスキルと結界魔法は相性が良すぎるんだ」

 「そ、そんな...」


 「裁きの槍」が降ってくる直前、「未来予知」で俺に当たる攻撃だけを視て結界で防いでいたというわけだ。最初は結界で俺を囲もうとしたが、そうすると、結界の強度は少し脆くなってしまう。あの魔法を受けるにはその強度では物足りない。だから俺は、結界で囲まず、俺に直撃する攻撃だけに絞って密度の高めた結界で防いだ。それでも、攻撃を受けるごとにヒビが入り、何回も作り直したけど、うまくいってよかった。


 「悪いけど、次は俺から行くよ」


 俺は思いっきり高く飛び、アイがいる高さまで飛んだ。ちょうど、アイの目線と同じになったと同時に身体強化で強化した足でアイを地上に蹴り落とす。


 「ぐっ...!」


 俺が蹴ったところは上手くガードされたが、蹴りの威力は殺しきれなかったみたいで、地上に激突する。


 「はぁ...はぁ...」


 地上に降ろされたアイは最初よりボロボロな姿をしている。

 起き上がったところ、俺は攻撃をやめることなく身体強化で攻撃を続ける。流石に女の子というわけか、顔などは殴れない。それどころか攻撃をするだけで心が痛くなってくる。


 「...なんで...なんで勝てないの!?神化をしたのに...なんで...」

 

 神化をしたはずなのに、俺に攻撃が一回も当たらないことに嘆いている。


 「それは...お前の身体強化がお粗末なんだよ」

 「え...?」

 「確かにお前の魔力はすごいよ。それを自在に使う魔力コントロールも問題はない。だけど、唯一欠点があるとすれば、身体強化がお粗末なこと。身体強化は魔法で戦うなら必須だよ。お前は人間離れした魔力で苦手な身体強化を補っているだけ。俺やケントのように魔力がすごくて身体強化も得意なやつには、絶対勝てないよ。だから、いくら俺と戦っても無駄」


 俺が放った言葉を聞いてアイは愕然としている。これまで、アイが強いと思われていたのは、膨大な魔力と魔力コントロールで補っていたに過ぎなかった。昔からアイは身体強化の練習はあまりせず、組手をするときも俺とケントの二人だけが多かった。


 もうすでに勝ちは決まっているから、その場から立ち去ろうと体に魔力を込めて身体強化をする。それを見たアイは、再び俺の前に立ち塞がる。


 「なんの真似だよ...勝負はもう決まってるだろ」

 「まだ私は「負けた」とは言ってないよ...?」


 すでにアイの神化はとっくに解けている。にもかかわらず、俺を止める気でいることに正直腹が立つ。

 俺は身体強化をして、一瞬でアイの目の前に移動して、腹部に重い一撃を入れる。


 「ガハッ...」


 アイはそのまま、気絶をして俺の腕の中で眠っている。


 ごめんな...アイ...



 


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