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第九話 準備運動

 俺はウェンと公爵の屋敷で目を覚ました。昨日はずっと医者の治療を受けて一日中何もしていなかった。傷はまだ残っているが、昨日よりかは全然マシだった。


 部屋に用意されていた服に着替え、部屋を出てジェロンドの部屋を尋ねようと部屋に向かう。

 昨日の夜、ボロボロの状態で帰ってきたのを見たからまだ寝ているかもしれない...まぁ...寝てたら叩き起こそう...


 ジェロンドの部屋へ向かっている時、後ろから声をかけられた。


 「ユアン様、おはようございます。お食事ができておりますので食堂の方へ。ご主人様やジェロンド様も居られます」


 声をかけてきたのはこの家の執事だった。


 「あ、ありがとうございます。すぐ行きますね」


 俺は執事に言われた通りに食堂へと向かう。


 なんだ...ジェロンドさん起きてたんだ...


 寝ていたら叩き起こそうと楽しみにしていたのに、楽しみを奪われたようで少し残念だった。

 一階に降り、食堂の扉を開ける。執事の言う通り、ウェント公爵とジェロンドが朝食を食べているが、少し空気が重い気がした。


 「おお、ユアンか!おはよう。よく眠れたか?」

 「おかげさまで、すみません、俺みたいな子供にあんな広い部屋を使わせてもらって...」

 「気にするな...お主は大切なお客様じゃからな」


 俺はジェロンドさんの方をチラッと見る。ジェロンドさんの顔はげっそりとしていて目が死んでいた。昨日の夜、ボロボロの姿で帰ってきたのを見ていたので大体のことは想像できた。


 「ジェロンドさん...顔死んでるよ...」


 俺がジェロンドさんに話しかけるとジェロンドさんは俺を睨みつけた。


 「誰かさんのおかげでな...」

 「いや、自業自得でしょ...皇女殿下に「帰ってくれ」って...俺、笑いそうになったもん」

 「全然笑えねーよ...ルリネのやつ...俺のことを実験台にしやがって...」


 ジェロンドさんが死にそうなほどの実験台って一体なんだ...しかも夜中まで続いたのって...


 「実験台って何やらされたの?」

 「ああ、魔力を抑える魔道具をつけさせられて、一時間ルリネの魔法に耐えるっていう実験だな。これが三回ぐらいあったかな?」

 「ふーん...でもなんで真夜中に帰ってきたの?」


 俺の質問に対して、ジェロンドは飲んでいた紅茶を吐き出しそうになった。


 「い、いろいろあったんだよ!他の実験が!」

 「なるほどね...昨夜はお楽しみだったんだね」

 「ブハッ!」

 

 ジェロンドは完璧に紅茶を吹き出した。


 「ゴホッゴホッ!お前なぁ!」

 「その反応だと図星?」

 「うるせぇ!」


 これで真夜中に帰ってきたのも頷ける。けど、あんだけボロボロになるまでやるとは...皇女殿下がすごいのか、ジェロンドが弱いのか...


 「そ、それで!お前の傷はどうなんだよ」

 「まぁ...昨日よりかは全然マシかな...完璧とは言わないけど。ラウレスにつけられた傷がここまで治りが遅いとは思わなかったよ」


 さっきまで明るかった食堂の雰囲気は一気に重くなる。


 「さっき、ジェロンドから聞いたが...ユアン...本当なのか?」

 「本当ですよ。俺が大怪我をしたってことはそういうことです」

 「しかし、お主は世界でも最強と言われていいほどの実力者じゃ。そんな奴が死んだとなれば...」

 「俺がラウレスを倒さなかったら、世界の人口の半分が死ぬんですよ。この大陸だけじゃないんですよ。ここから離れた他の大陸の人たちも巻き込まれるんですよ。たった一人の神によって...」


 さっきまで必死に止めようとしていたウェント公爵は口をつぐんだ。


 ウェント公爵の言い分もわからなくはない。俺だって生きていたいけど、全世界の人口が半分減るよりかは、一人の犠牲で済んだ方が、被害が少ない。


 「まぁ、俺はもう大丈夫なのでお気になさらず...それより今日約束していたウェント公爵の相手できますけど」

 「お願いはしたいが...お主のことを聞くまではやる気じゃったが、話を聞いた後では...」


 昨日は俺と戦えることを喜んでいたウェント公爵だが、話を聞いた後では俺に気を遣っているらしい。


 「別に俺は構いませんよ。昨日は丸一日何もしていなかったので体が鈍ってるんですよ。ラウレスと戦う準備運動みたいに体を動かしたいので手合わせお願いできませんか?」

 「.........そこまでいうなら...お主の準備運動ってことで付き合おう」

 「ありがとうございます!」


 そうとなれば朝食を早く食べて準備しなければ。

 俺は用意されていた朝食を掻き込む。


 「おいおい...そんなに急がんでも...」

 「早いうちに終わらせたいので...めんどくさい人が来る前に...」


 そう...俺の「未来予知」にはこれからある人物がこの屋敷に来る未来が視えた。まぁめんどくさいと言っても誰か押し付けることが可能なのでまだマシな気はする。


 「めんどくさい人物とは?誰だ?」

 「俺の口からは...」


 俺はジェロンドさんの方をチラッと見る。するとジェロンドさんも誰が来るか大体わかったようだった。


 「おい...まさか...また...」

 「誰とは言わないけど、確実にジェロンドさんが関係している人物だよ」

 「あああああああああ!!!!なんでだよぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 ここまで不幸なジェロンドさんには申し訳ないと思うが、俺が逃れるには犠牲が必要だ...ごめんね、ジェロンドさん。


 叫ぶジェロンドを横目に、ウェント公爵も朝食を食べ終えたようで一緒に庭へと出る。


 俺とウェント公爵は模擬刀を持ってお互い向き合う。久しぶりにウェント公爵との模擬戦だ。前回戦った時よりもおそらく強い。模擬刀を構える姿を見て俺は察した。


 「さて、わしから行くぞ!」


 ウェント公爵は勢いよく駆け出す。おそらく小細工はない。なら真正面から受けるべきだ。

 勢いよく振り下ろされる模擬刀が俺の模擬刀とぶつかり合い、金属でもないのに「キィン」と周りに響いた。


 「わしの一撃を受け止めるとは...さすがユアンだな」

 「この前より強くなっていませんか...?」

 「お主に負けてからずっと鍛錬してきたからな!今回は勝たせてもらうぞ!」


 お互い力を緩めずに鍔迫り合いをしていると、ウェント公爵の足が俺の腹部に蹴りを入れた。


 「ぐっ...」


 蹴られたと同時に少し後ろに飛んで威力を殺したが、体制が崩れてしまった。その隙をウェント公爵が見逃すはずもなく容赦なく畳みかける。


 「どうしたユアン!そんなものではないだろう!」


 正直、ウェント公爵は人間離れというか、相手の隙を見つけるのがとにかく上手い。俺が防御に徹している時でも、重心が少し傾いただけでその部分を狙ってきたりなど、よく相手を観察しているのがよくわかる。

 俺は一回だけ「未来予知」を使い、次のウェント公爵の動きを視て対策を立てる。

 次の行動で、ウェント公爵は俺が右側に体制を崩すところを攻めてくる。狙うならそこだ。


 そして、俺は右側に体制を崩す。すると未来通りにウェント公爵はそのタイミングで攻撃してきた。


 「これで終わりじゃ!」


 俺は一瞬魔力障壁を展開し、ウェント公爵の模擬刀の軌道をずらし、転ばせることに成功した。

 そして、ウェント公爵が起きあがろうとしたときに、ウェント公爵の目の前に模擬刀を突きつけて試合は終了した。


 試合が終わると、ウェント公爵からお褒めの言葉をもらう。


 「いやー!まさか同じ相手に二度も負けるとはな!全く完敗だわい!」

 「俺もこんな短期間でこんなに強くなっているとは思いませんでした」

 「そうじゃろう!やっぱり競争相手がいるのは...いいもんじゃな...」


 少し寂しそうな表情をしている。言ってしまえばこれが最後の試合となる。これだけ喜んでいくれたウェント公爵には悪いが、今日が最後だろう。


 「そんなに落ち込まないでくださいよ...俺より強い剣士なんてこの世界中を探せばきっといますって」

 「わしはお主だからいいんじゃ。誰でもいいとは言っておらん」

 「んー...じゃあ毎日鍛錬続けてくださいよ?もし、ウェント公爵が老衰でお亡くなりになった時、あの世でまた俺と戦えますよ。ずっとね」

 「おお!それはいい考えじゃな!死んでもお主と戦えるとは、余計楽しみじゃな!」

 「言っときますけど、俺もあっちで修行しますからね」

 「望むところだ!」


 俺たちはお互いに握手をして、屋敷に戻ろうとした時、屋敷の門の近くでどこかで聞いたことのある声が聞こえる。


 「朝から元気だな!私も一緒に混ぜてくれないか!!!」


 あっ......来ちゃった...


 現れたのは昨日、ジェロンドさんを奴隷のようにこき使ったルリネ皇女だった。


 

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