第六話 謝罪
俺はジェロンドに引きずられながら王城を後にして、ウェント公爵の屋敷まで連れて行かれた。
「さあ、着いたぞ!ここかウェント公爵の屋敷だ!」
ウェント公爵の屋敷はとても大きく、普通の公爵の家よりも少し大きいと言う。おそらく理由としては、英雄と呼ばれるほど国に貢献したからだろう。
ジェロンドと一緒に屋敷の中に入る。屋敷の中に入ると、数人のメイドと執事が出迎えてくれる。
「おかえりなさいませ、ジェロンド様。おや...後ろにいるお方は、もしかして...」
「ああ、俺と同等の力を持った子供ユアンだ!訳あって数日この屋敷に泊めるから!もちろん陛下の許可もとったよ」
「はぁ...それは構いませんが、また当主様に何も言わずとなると...」
「大丈夫だって!理由を話せばウェント公爵も納得してくれるって!」
「わかりました...ではお部屋をご用意させていただく間に、洋服と医者の手配をいたしますね。ユアン様の包帯を見るとまだ完治していない様子ですし...」
「ああ、よろしく頼むよ」
そう言って執事は奥へと消えていった。
「てか、本当にいいの?俺なんかが泊まっちゃって...」
「いいに決まってんだろ!俺らのことを気にするより、ユアンはまず体を治すことだけ考えろ!」
ジェロンドに頭をポンと叩かれる。久しぶりに人に優しくしてもらったような気がする。少し嬉しくて涙が出そうになる。
「とりあえず、ウェント公爵のところに挨拶でもするか。多分書斎に篭っているだろうし...」
俺とジェロンドは2階にある書斎に二人で向かった。ジェロンドが扉をノックして部屋に入る。俺もジェロンドの後についていって中に入った。
「ウェント公爵、少しお時間よろしいですか?」
「ん?どうした?」
書斎に入るとウェント公爵が大量の本の横で仕事をしている。
「どうしたジェロンド?ん?そこにいるのはユアンか?」
「どうもお久しぶりです。ウェント公爵」
「少しの間だけユアンをこの屋敷に泊めたいんですけどいいですか?」
「ああ、構わんが...そのユアンの傷だと何かあったのか?」
流石に病院服と体中に巻かれている包帯を見ればなんとなく状況がわかるようだった。
「まぁ...そうですね...」
俺は少し気まずくなる。自分の口から全てを話すとなると精神的にも辛い。ルーカス王にジェロンドが説明した時もなかなか辛かった。
「詳しくは聞かないが、それほどの事情があるんだろう...ユアンの気の済むまでここで休んだらいい。また元気になったらわしの相手でもお願いしたい」
「それぐらいなら喜んでお相手しますよ」
「そうか!ではわしも休憩時間を使って訓練でもしようかの!」
相手をする約束を得たウェント公爵は、上機嫌になり満面の笑みを浮かべていた。
「じゃあ、ウェント公爵後で話があるのでまたきますね」
「ああ、分かった。ユアンを部屋まで案内してくれ」
「了解です」
そう言って俺とジェロンドは書斎を後にする。次にジェロンドに案内されたのは、俺が数日間泊まる部屋だった。部屋の広さはアウスト王国で住んでいる部屋と同等の広さだった。
「いいの?こんなに広い部屋使って...」
「いいんだよ。お前には沢山の借りがあるからな...」
「貸した覚えないけど...」
「世界を救うために戦うんだろ?ならそれまではリラックスしてほしいし...」
ジェロンドはどこか寂しそうな顔をしている。
「ジェロンドさん?」
「ああ、悪いな...生まれて初めて俺と対等っていうか、ライバルっていうか...そういった友達がいなかったからさ...ちょっと悲しくなってさ...」
「......」
ジェロンドの言葉を聞いて俺は何も言えなくなった。
「初めてなんだよ...気の合う友達とかできたのがさ...なのに...お前が死ぬって思うとさ、どうしても「死ぬな!」って言いたくなるけど...もう遅いんだよな...」
「うん...ごめんね...」
ジェロンドの目から数滴の涙が溢れる。
「俺もジェロンドさんと一緒に入れて楽しかったよ。初めて会った時も気さくに話しかけてくれたしさ、俺と同じくらいの強さを持った人に会ったのもジェロンドさんが初めてだし...俺のとってもジェロンドさんはライバル的な存在だったよ」
「そうか...お前にそう言ってもらえると嬉しいな。それと、王城ではすまなかったな...ルリネの発言にムカついて殺気を放っちゃって...」
「いや、別に気にしてないよ。俺のために怒ってくれたのは嬉しかったし、それにジェロンドさんの殺気も見れたしね」
ジェロンドが放つ殺気は完璧と言ってもいいほど強力な殺気だった。あの殺気ならAランクの魔物の群れに殺気を放ってもすぐに逃げていくだろう。
「ジェロンドさんが放った殺気で気絶しなかったルリネ王女とルーカス王って結構すごいんだね...」
「まぁ陛下は魔道具をつけているからなんとか耐えられてるけど、ルリネは何もつけてないからな...一応実力者だからな...」
「結構強いの?」
「ああ、俺がいなかったら国最強と呼ばれてもおかしくない実力の持ち主だよ。クローム王国の第一皇女にして、全属性の魔法が使えて剣術は騎士団長クラス。精霊の加護も持ち合わせて近、中、遠全て対応可能なオールラウンダーだ」
全属性の持ち主と聞いて俺は驚いた。属性は一人一属性が基本だが、まれに二つの属性を持って生まれてくる子供がいると聞かされていた。俺たち三人の幼馴染は二つの属性持ちでかなり珍しい部類だったが、全属性持ちと聞いて俺たち三人の属性が霞んで見えてくる。
「全属性持ちって...」
「ちなみに精霊は火の精霊だぞ」
ここまで完璧な人間は初めて見た。
「ちなみにルリネ皇女って結構な美人なのになんでナンパしなかったの?美人なら誰にでも声かけるんじゃないの?」
「お前...俺をなんだと思ってんだよ...美人ならなんでもいいって訳じゃないぞ!確かにルリネは美人だが、あいつの性格は......時の魔女にそっくりなんだよ。あのお構いなしにグイグイくるところとか、全く人のことを考えないで話したりとか...そう言うところがイッチバン無理!」
今日ルリネと時の魔女をジェロンドに合わせてよくわかった。ジェロンドの天敵は、あの二人なんだと...
「でも、その皇女様はもうすぐここにくるみたいだよ...」
「え?」
トントンとドアがノックする音が部屋中に響き渡る。
「ジェロンド様、ユアン様、ルリネ皇女殿下がお見えになっております。急いで玄関の方へ...」
ドア越しの声からしておそらく玄関であったあの執事だ。ルリネが玄関に来ていることを知ると、ジェロンドの顔はあからさまに嫌な顔をしている。
「なんでだよ...なんで今日に限ってこんなに嫌なことが立て続けで起きるんだよ...」
「そう言う日もあるって...どんまい...」
俺は項垂れているジェロンドの方をポンと叩いて一緒に玄関へと向かう。玄関にはルリネ皇女と数人の兵士がルリネ皇女の後方に控えていた。
ルリネは俺とジェロンドを確認すると、まずは頭を下げて先程のことを謝ってきた。
「ユアン殿...先程はすまなかった。考えもなしにあのような言葉を言ってしまい申し訳ない...」
ルリネが一礼して謝ると、後ろにいた兵士が慌てていた。
「姫様!王族がそのような態度を取っては...」
「うるさい!謝るならこれが普通だ!下がっておれ!」
ルリネにそう言われると、兵士は何も言わなくなった。
「まぁ...おれは別に怒ってないですよ。怪我したのはおれの責任だし、弱く見えるのも仕方がないことですし...」
「本当にすまなかった...私としたことが配慮が全く足りなかった」
再度ルリネは俺に頭を下げる。
「頭を上げてください。謝罪はもう大丈夫です」
「しかし!それでは私の気がおさまらない!」
どうしたものか...できれば今すぐにでも帰ってほしいが、「もう帰ってください」と言ったらただの無礼になってしまう...どうすれば帰ってくれるかな...
「じゃあ、皇女様の件につきましてはジェロンドさんに任せます!俺は時にこれといった願いはないので、ジェロンドさんに任せます」
「お、おいユアン!?」
「では、ジェロンド何か命じてみよ!」
さぁ...これでジェロンドさんは何かを命じないといけない空気になった。さて、どんな命令をするのか楽しみだな...
「んーそうだな.........じゃあ、今日のところは帰ってくれ」
数秒その場の時が止まったように思えた。
俺は笑いを堪えるのに必死だった。皇女に対して「帰ってくれ」なんて普通言えるわけがない。なのにこの男は平気で失礼な言葉を口にできるんだなと思わず感心してしまった。
「なるほど...それが貴様の答えか...」
時が止まった空気の中で一番最初に口を開いたのはルリネだった。ルリネはジェロンドの手を掴むと「来い!今日は貴様に訓練を手伝ってもらうぞ!」といってジェロンドを連れて行ってしまった。連れて行かれるときにジェロンドは何か叫んでいたが、俺は聞こえないふりをして用意された部屋に戻り用意された服に着替え、医者の治療を受けたのだった。
その夜中、玄関でゴソゴソと音が聞こえたので、確認しに行くと、ボロボロになったジェロンドが死体のように動かなくなっていた...
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