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第二話 作戦

 病院での出来事を終えて、俺は城まで走っていた。とりあえず今の状況を陛下に知らせて、来る日まで身を隠そうと思っている。病院から城までそんなに距離はなく、三分もあればついた。


 俺は誰にも姿を見られたくなかったから執務室の場所までジャンプして外から入ることに決めた。思いっきり高く飛ぶと、ちょうど執務室の部屋のベランダに飛び乗ることができ、軽くガラスをトントンと叩く。音を聞いて振り向くと同時に陛下の驚く顔は面白かった。

 そんな陛下は何も言わずに部屋へと招き入れてくれた。


 「...ったく、二度とあのような行動はするんじゃないぞ!寿命が縮んだわい...」

 「悪かったって」


 俺は陛下の驚いた顔が見れて満足していた。陛下は俺の対面に座り紅茶を啜っている。


 「それで、傷の方はどうなんじゃ?その様子だとまだ癒えておらんようじゃが...」

 「まぁその通りだけど...」

 「なんかあったのか?」

 「色々だよ...」


 陛下の問いかけに俺ははぐらかすような答えしか言えなかった。先ほどまで自分が行っていた行動を自分で話すのはいい気はしなかった。


 「まぁ...言いたくないなら構わんが...それよりお主が寝ている間に大きな出来事があってな」

 「大きな出来事?」

 「ああ、隣国のドミノ王国が一体の魔人によって壊滅させられたらしいという情報が入ってきてな、急いで事実か確かめるために、賢者を二人向かわせたが...」

 「国は壊滅状態ってわけか...」

 「ああ、それどころか国の人口と死体の数が合わなかったらしい。どうやら奴らは人間を生きたまま捕虜として迎え入れたのかもしれないということじゃ」


 その推測は確実にあり得る話だった。ラウレスは、他の人間を使って実験しようとすることを言っていた。アウスト王国やクローム王国という大国を狙うより、戦力が低いドミノ王国を狙った方が簡単に国を落とせるし、実験材料も手に入るだろう。


 「厄介だな...ラウレスが人間を使って何をするかわからないけど、めんどくさいのは確かだな。本当なら連れ去られたドミノ王国の人たちを助ける方がいいけど...」

 「今のこの国じゃそれもできないからな...クローム王国も同じじゃろうし。クローム王国はジェロンド一人で守っているようなものだから、ジェロンドがいなくなってしまうとクローム王国の戦力は一気に低下してしまう。だから、ドミノ王国の人たちには申し訳ないが...」

 「それしか選択はないな...まぁ、ラウレスは俺が殺るから安心してよ。秘策はあるからさ」

 「ユアン...お主本当に...」

 「ああ、今回がほんとに最後だと思う。俺が時の水晶で死ぬときの映像を見た時、ラウレスの髪は黒かった。前戦った時には、黒い部分はあったけど全体的には緑色が多かった。多分次ラウレスとドレーク領で会う時はもう...」


 俺の言葉を聞くと、陛下はうつむきながら悲しそうな声で「そうか...」と呟いた。


 「なぁ陛下...最後に頼み事があるんだけど聞いてくれないか?」

 「なんだ?わしにできることがあればなんでもやるぞ」

 「まずは、俺を指名手配としてこの国から追放してほしい」

 「なんだと!?」


 先ほどと同様に陛下の驚いた顔が見えた。思わず吹き出しそうになったが、堪えることができた。


 「理由はあってさ、今ケントやアイ、それに賢者たちと関わるのはめんどくさいし、一緒にいると情が写ってせっかく死ぬ気持ちができているのに余計な感情が入っちゃうからさ」

 「じゃが...何もしていないのに追放とは...」

 「ここからが本題だよ。俺が王女殿下...クレアを斬ったら追放どころか、反逆罪で速攻死刑になるだろ?」

 「なっ!?貴様!?」


 流石にこれについては陛下はお怒りのようだった。まぁ当然っちゃ当然だな。大事な愛娘を斬らせてくれだなんて普通親なら拒否するに決まっている。そうじゃなければ完全に頭がイカれているかバカのどちらかだ。


 「はぁ...お主のことだから殺すわけじゃないんだろ?」


 あれれ?この流れはもしかして...


 「ま、まぁ殺すわけないし、それにこの話もクレアには当然するし、クレアからも許可をもらってからやるつもりだし」

 「それならまぁええわい...ただし!顔は絶対にやめてくれ...大事な娘なんだ。死ぬようなことだけは...」


 なんだ...陛下はイカれているのかバカなのかわからなくなってきた。普通娘を斬らせてくれなんてお願いされたら許可するか?俺だったら絶対しないね。逆に言ってきた相手を斬り殺すわ。けど、今回においては助かるけど...


 「わかってるよ。それは絶対約束するよ」

 「てか、それならわしでもいいんじゃないか?同じ王族だしわしの方が多少危険があっても平気だと思うし...」

 「陛下斬っても本気で怒るようなことはないだろうから論外、あんたが本気になれるのは娘か王妃様のこととか、他人のことだけ」

 「そ、そうか...」


 陛下は少ししょんぼりとしていて少し寂しそうだった。


 「じゃあ、とりあえずクレアに話だけしてくるから。許可もらえたらさっきの話通りで」

 「ああ、わかった。今までありがとな...ユアン」

 「こっちのセリフだよ...陛下」


 そう言って俺は執務室を出てクレアの部屋へと向かった。部屋につき、軽くノックすると部屋からクレアと家庭教師が一緒に出てきた。


 「ユアン様!?と、とりあえず中へ...」


 俺を見たクレアは急いで部屋の中へと入れてくれた。


 「クレア様、その少年はどちら様で?」

 「えーっと...」


 クレアは俺の方をチラッとみる。俺はコクリと頷きクレアの方をみる。


 「信じられないかもしれないけど、賢者のユアン様です。訳あって、みんなに公表していませんが...」

 「そうですわね...その少年が賢者ということはまずあり得ないでしょう...」


 まぁ信じろっていう方が無理だと思う。それよりも、俺はクレアに耳打ちをしてさっき陛下と話していたことを全て話した。


 「ええ!?ほんとですか?」

 「ああ、けど、クレアが許可してくれたらできるんだけど、もしこれをやったとしてもケントとアイには...」

 「黙っておけばいいんですよね?けど...それじゃあユアン様が...」


 クレアは我慢ができずに涙が溢れてしまう。俺の病院着を思いっきり握ったまま離さなかった。


 「クレア様!?あなた...一体何を!?」

 「私に構わないで!先生は少し外で待っていてください」


 クレアが家庭教師に向けて言い放つと家庭教師は外へ出ていった。


 「わかりました...ユアン様、私がお受けいたします」

 「いいのか?少し危険だぞ?」

 「ユアン様に比べたらどうってこと...ない...でずよ...」


 クレアの目から大きな涙がこぼれ落ちる。これで、クレアに会うのは最後だろうか...そう思うと俺も悲しくなってくる。


 「じゃあ、やるぞ」

 「はい!覚悟はできています」


 俺は持っていた刀で、クレアの右腕を斬りつけた。それと同時にクレアは大声で叫ぶと、外に出ていた家庭教師が勢いよくドアを開けて中に入ってきた。


 「クレア様!」


 家庭教師から見た光景は、血だらけのクレアと血に染まっている刀を持っている俺の異様な光景だった。家庭教師は大声で助けを呼ぶと、ゾロゾロと兵士が集まってきた。


 「ユアン様!?」「なぜユアン様が!?」


 兵士が到着すると、俺の姿を見て驚いていた。この国の兵士や魔道士は俺とケントが賢者だっていうことは知っている。それに兵士たちとは小さい頃から一緒に修行をさせられていたから顔見知りは多かった。


 兵士たちが俺を捕縛しようか迷っている中、俺は窓から逃げ出し、王都をでた。

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