第三十五話 本気のジェロンド
アウスト王国に魔人が侵攻している頃、隣国のクローム王国でも大量の魔人が侵攻していた。
「陛下!我が国に魔人が...!」
「なんだと!?すぐに兵と冒険者たちを集めろ!ジェロンドには私の護衛に着くように伝えろ!」
急いで伝えにきた宰相にルーカス王は指示をするが、次の宰相の言葉を聞いて、ルーカス王は言葉が出なかった。
「陛下...誠に申し上げにくいのですが、魔人の数は約五十体との報告で...全ての兵と冒険者たちを集めても無駄かと...」
「なんだと!?五十体!?」
クローム王国に侵攻している魔人の数は約五十体。クローム王国の歴史を遡ってもこんな数の魔人がせめて来ることは前代未聞のことだった。
「なぜ...そんな魔人が...」
ルーカス王の顔は真っ青になっていく。ルーカス王は立っている事すらできなくなりその場に倒れ込む。
「陛下!?」
宰相はすぐに駆け寄ると、近くにいたメイドに指示を出してルーカス王を横にするために、ベッドのある部屋まで運んだ。
「はぁ...はぁ...すまないな...」
「いえ、それよりもこの状況は...」
「これを対処できるのはこの国で一人しかおらん...ジェロンドに全てを託そう...」
「わかりました...すぐに伝えに...」
宰相は急いでジェロンドに言伝をしようと、メイドを呼んでジェロンドに言伝を頼もうとしたが、逆にメイドは宰相宛ての言伝を預かっていた。
「宰相様...実はすでにジェロンド様はこのことを察知していて喜んで出て行きました。その際にジェロンド様から言伝がありまして、「面白そうだから行ってくる。討伐数に応じて報酬よろしく」だそうです」
「あやつめ...わかった。陛下にも伝えておく。下がって良いぞ」
そう言ってメイドは一礼をして部屋を出ていった。
今はジェロンドしか頼りにならない...陛下も体調を崩してしまわれたし...全てはジェロンドに懸かっていた。
その頃ジェロンドは王都をでてすぐの場所で待機していた。すぐ後ろには王都に入るためのデカい壁がある。これを越されると市民にも被害が出て国が崩壊しかねない。だから王都の外で戦うしかなかった。
「あーあ、前と一緒だなこれ...」
前回も魔物が二千匹きた時も同じように王都の外で戦っていた。今回違うとすれば、魔物が魔人に変わったことだ。数は二千匹だったが、今回は五十体。数では魔物の方が多いが、戦力でいったら魔人の方が手強い。
「さて、どうやって戦うかな〜」
はっきり言って魔人五十体なら神化をしなくても勝てるには勝てる。ただし、守るものが何もなく自分の好きなように戦えるんだったら特に問題はなかった。しかし、今回は後ろには王都があり守るものがあるため、自分が好きなように動くことは制限されている。
そんなことを考えているうちに遠くから、火属性と雷属性の魔法が飛んでくるのが見える。
俺はすぐにその魔法を風魔法で相殺する。俺の予想が正しければ、魔人たちは馬鹿正直に正面からやってくるはずだ。今来た攻撃も正面だったことからすぐに推察することができた。
「おいおい...あの国を守っているの一人だけだぜ!」
「えーっと、確かジェロンドっていう魔道士だな...キイロ様の情報だとこの国最強の魔導士らしいぜ」
この国最強というフレームを聞いて魔人たちは高揚する。それだけ、クローム王国最強を倒す手段があるのか?それとも倒した時の名声でも欲しいのか?それは魔人にしかわからなかった。
「俺からいくぜ!あいつを殺した奴がこの後の指揮をとるってことで!」
一人の魔人の後に次々と他の魔人もジェロンドに襲いかかる。
俺は少し心がほっとした。魔人の注目が王都ではなくて俺に向かってきていることにほっとしている。
魔人たちは一斉に襲いかかるが、誰一人ジェロンドの体に触れることはなく、動きが止まっている。
「なんだ...これ...」
「う、動けない...だと...」
ジェロンドの周りにいる五人の魔人は襲いかかった体制のまま動くことができなかった。
「教えてやるよ。俺の周りには高密度の魔力で覆われている。その周りに入った奴は、濃い魔力に当てられて触れる事すら俺に攻撃を与えることもできない」
ジェロンドの周りには、高密度の魔力で覆われていて、魔法はもちろん、体術だってジェロンドの前ではほぼ効かない。対処方法は、ジェロンドの周りにある高密度の魔力以上の魔法や高密度の魔力を纏った物理攻撃しか効かない。
普通の魔人にしたらジェロンド以上の魔力を出すことはほぼ不可能だった。
「さて、動けないみたいだからこっちも反撃をしようか」
俺は五つの風玉を作り、動きを止めている魔人の顔面にぶつける。魔人の顔面は吹き飛び体をピクピクと動いていた。
「さてと...次は誰がくる?」
できればこのまま帰ってくれた方がありがたいけど、魔人側からしたらそれはあり得ないだろな...
「おい、俺が合図を出したら半分はあいつに向かっていけ。残りの半分は王都を狙うぞ」
後ろ側にいた魔人たちはジェロンドに聞こえない声で静かに作戦を立てる。
「行け!!!」
魔人の掛け声と同時に、俺に向かってくる魔人と王都に向かっている魔人に二手に分かれる。
俺はそれを見て「やっぱりか!」と心の中で叫ぶ。
しょうがないな...
「吹き荒れろ、風神」
ジェロンドがボソッと声に出すと、凄まじい風がジェロンドから放出され、王都を襲おうとしていた魔人たちやジェロンドに襲い掛かろうとした魔人たちはその風に耐えることができずに吹っ飛ばされてしまった。
「はぁ...この姿になるのは久しぶりだな...」
ジェロンドの姿はあまり変わってはおらず、唯一変わっているのはジェロンドの後ろに風袋?のようなものが現れていた。
『相変わらずその姿は似合ってないな』
「あんまり変わってないだろ!てか、この変な袋いらないんだけど...」
『馬鹿か!この袋は風袋と言ってこの袋の中には風が入ってるんだぞ!』
神化したにも関わらず、心の中から話しかけてくる風神。風神は俺に加護をくれた神様で、暇な時はいつも話しかけてくる。
「なんだよ... その姿は...」
魔人たちは俺の代わりように驚いている様子だった。
「仕方ないだろ...王都を襲おうとしたお前らが悪いんだ」
俺は風の魔力を右手に集中させる。高密度の魔力が右手に集まり、俺は魔人たちを見る。
「風刃」
俺は魔力を集めた右手で魔人たちが集まっている場所に向けて薙ぎ払った。
一瞬突風が吹いた。魔人たちは攻撃されたかと思い、魔力障壁で防御するが特に変化はなかった。
「おい、こんなところで固まっている場合じゃねぇ!すぐに手分けして襲いにいくぞ!」
言い出した魔人は王都の方に行こうとするが、足が全く動いていかない。
「なんでだよ!動けよ!」
他の魔人たちも自分の足が動かない様子だった。
「動くわけないだろ。だって...胴体切り離されてるんだから」
その瞬間、魔人たちの体は上半身がずれ落ちて下半身だけが立っているという異様な光景になっている。胴体を切り離されたことで魔人たちは絶命しており、誰一人襲い掛かろうとする魔人はいなかった。
「任務完了っと...」
俺は魔人の死体を確認して王都の戻った。
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