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第二十二話 恐怖

 朝、窓から差し込む陽の光で目が覚める。隣にはアイがぐっすりと寝ている。

 どうやらあの後、ぐっすりと眠れたようだ。俺は少し安心してベッドから降りる。


 時間はちょうど七時。学園の行く日にはいつもこのぐらいの時間でも十分間に合う。「未来予知」が使えなくなってからまだ一日しか経っていないが、残りの六日間は全力でアイを守るつもりで行かなければならない。


 二度と...夜みたいにアイが泣くのを見たくない


 俺はクローゼットから制服を出して一人で着替える。そして、部屋を出て、ケントの部屋へと向かった。

 ケントの部屋に行き、ドアを開けるとちょうどケントも起きたようでいつも通り、軽く挨拶をかわす。


 「おっ!ユアン!おはよう」

 「おはよう。よく寝れたか?」

 「ああ、もちろん!お前は?」

 「あんまり眠れなかった...」

 「なんだ?悩み事か?」

 「いや、昨日アイに一緒に寝てくれって頼まれてさ...」

 「まさか...夜はお楽しみで...」


 人が真剣に話をしようとしているのにこいつは馬鹿なのか?まぁ...この性格もケントのいいところではあるけど...


 「泣いてたんだよ...魔力も封じられ、それに加えて恐怖や痛みに耐えて。昨日話を聞くまでは現実に帰ってきたことさえも魔人達の罠なんじゃないかって」


 俺の話を聞いてさっきまでふざけていたケントの顔つきが変わる。


 「そうか...今までそんなこともなかったもんな...今日は学園はどうするんだ?」

 「俺は、「未来予知」が戻るまでアイのそばを離れないでそばにいるつもり。アイがまだ学園に行けない状況なら俺も行かないかな」

 「わかった。クレアにもこの件について話しておくから、お前は部屋にいるお姫様でも起こしてこいよ」


 ウインクをしながらケントはユアンを部屋から追い出す。てか、お姫様ってクレアじゃね?

 突っ込みたい気持ちを抑えつつユアンは自分の部屋へと戻っていく。

 部屋に戻ると、ベッドの上でアイが涙を流して泣いていた。


 「どうした!?何かあったか!?」


 俺はすぐにアイに駆け寄る。それでもアイの涙が止まることはなかった。


 「ユ、ユアン!」


 アイは俺をみると涙を流しながら抱きついてきた。


 「よかった...朝起きたら...誰もいなかったから...」


 やはり、昨日の出来事を引きずっているのだろう。簡単には割り切れないか...


 「大丈夫、どこにも行かないから。「未来予知」が使えるまではお前と一緒にいるから」

 「本当に?」

 「ああ、本当に」

 「ずっとそばにいてくれるの?」

 「当たり前だろ」

 「お風呂も一緒に入ってくれるの?」

 「それは勘弁して」


 アイってこんな性格だったっけ?と思わず錯覚してしまうほど積極的すぎる。普段は俺の暴走を止めてくれたりなど、口うるさい部分もあったけど、今は精神があまり安定していないから仕方がないのか...


 「で?学園はどうするんだ?」

 「いくに決まってるじゃん!」


 そう言ってベッドから降り、アイは自分の部屋へと戻っていく。

 俺も準備はできていたのでアイの部屋まで一緒にいき、ドアの前で出てくるのを待つことにした。


 昨日の夜や朝の出来事を考えると、まだ普段の生活に戻るのは早すぎるんじゃないか?今は普通に生活ができていても昨日のトラウマで戦闘にも支障が出てくる可能性もある。そうならないためには、俺がしっかりと眼を見張る必要がある。


 ユアンは自分の半径三メートルほど魔力を薄く伸ばす。これなら誰かが襲いにきてもこの半径の中にアイが入っていたら対処は可能だ。


 「ごめんね。待った?」

 「いや、別に」


 そう言ってユアンとアイは食堂へと向かう。食堂には誰もおらず、ユアンとアイで貸切状態だった。


 「変だね...いつもはケントやクレアもいるはずなのに...」


 多分、気を利かせて俺らを二人きりにしたつもりだろうけど...

 まぁ好きな人と二人で食事も悪くないと思い、食堂のおばちゃんから料理が乗ったプレートをもらい席に着く。


 「あーお腹減った!昨日の昼から何も食べてなかったし!」

 「まぁ、夜も食べないで寝ちゃったもんな」

 「アオに捕まってた時は、いきなりキスされて口の中に血を入れられた時はすごい気持ち悪かったもん」

 「へ、へぇ...」


 朝食を食べているのに普通に血の話ができるのがすごいと思う。あれ?てか、今キスって言った?ナチュラルにキスって単語を普通に出したよね?血の話なんかどうでも良くなり、キスのことしか頭に入らなかった。


 「あれ?ユアン顔真っ赤だよ?キスで興奮しちゃった?」


 と、からかい混じりで話しかけてくる。


 「別に...そんなんじゃねー」

 「そんなに怒らないでよ。まぁ初めてのキスは奪られちゃったけど...あっちの初めては奪られてないから...」


 アイの顔を覗いてみると顔を真っ赤にし、モジモジとしながら視線を逸らしている。


 なんだよ...お前だって顔が真っ赤じゃねーか...


 「ねえ?ユアンはいつ私の初めてもらってくれるの?」

 「大人になってからだろ...」

 「ふーん。また私が拐われた時に奪われちゃうかもよ?」

 「大丈夫だろ。もう二度と俺がそんなことさせないから」


 二人の会話に静寂が流れる。

 あれ?俺なんか変なこと言ったか?

 アイの顔を見てみると顔を真っ赤にしながら下を向いている。それを見て次第にユアンの顔も赤くなる。

 朝からなんて会話をしているのだろうか...食堂のおばちゃん達もニヤニヤとしながらこちらを見ている。


 「ご馳走さん!」


 俺は料理が乗ったプレートを素早く掻き込んだ。そして、食べ終わったプレートをおばちゃん達のいる方に返還しなければならなかった。仕方なく返しにいくとおばちゃん達から「若いわ〜」「あんた大事にしなさいよ!」となどと声をかけられる。恥ずかしくて死んでしまいそうになる。


 俺はアイが食べ終わるまで近くから離れないように隣に座った。もちろん、魔力は常に広げている。今のところは異常はないみたいだ。


 「ごちそうさま!」


 同じようにアイも食べ終わったプレートをおばちゃん達のいる方に戻していく。返すときにアイも同じようなことを言われたらしく、顔を真っ赤にしながら戻ってきた。


 「もう、公共の場でこんな話をするのはやめようよ」

 「ああ、そうだな...」


 二度と同じような過ちは繰り返したくなかった。でも、よくよく考えてみれば...アイが自分で言った発言に対して勝手に自爆したものだと思う。それに俺はただ巻き添えを食らっただけの被害者だ。


 現在の時間は午前八時。もう城の前に馬車がいる時間だ。俺とアイはすぐに玄関へと移動する。

 玄関に行くとケントやクレアがいた。どうやら俺たちを待っていたようだ。


 「おっす!アイ!もう大丈夫か?」

 「うん!おかげさまで!」

 「アイ様、何かあったらいつでも言ってくださいね?」

 「クレアもありがと!早く行こ!」


 俺たち四人は城の扉を出て外に出る。いつお通り城門の前には馬車が止まっていて、俺たち四人は乗り込んだ。


 いつものように話をしながら移動していると、隣に座っているアイの様子がおかしかった。馬車に乗った時はいつも通りだったが、学園に近づくにつれて、汗をかき始めていた。


 「どうしたアイ?体調でも悪いのか?」

 「え?ううん...なんでもない...」


 またこれだ...「なんでもない」...アイは自分がどんなに辛い時でも必ず「なんでもない」と言う。これは前世でも同じようなことが言える。


 「ちょっと外の空気にでも触れてみたらどうだ?」


 ケントが窓を開けて、アイが顔を外に出す。すると、顔を出した瞬間にアイはすぐに顔を引っ込め、ガタガタと震え出した。


 「お、おい!大丈夫か!?」

 「へ......へい......きだよ?」


 どうみても平気な様子ではないので一旦馬車を止めてもらい話を聞くことにした。


 「アイ...怒らないから言ってくれないか?なんでもいい。些細なことでもいいから」


 アイの目にはうっすらと涙が溢れている。

 どうやらあのことに関係しているに違いない。


 「わ、私がミドリに追われている時の場所が...学園だった...の。私はあそこで......腕を折られたり......体の自由が効かなくて...」


 アイは大粒の涙をこぼしながら辛いことを話してくれた。この様子、昨日と同じだ...

 俺は今日アイが学園に行くことは無理だろうと察した。同じようにケントとクレアも同じことを思っただろう。

 俺はアイの頭にポンと手を置いた。


 「ありがとな...辛いこと話してくれて」


 それでもまだ、アイの体はガクガクと震えている。

 俺はアイの体を抱えて馬車を降りる。


 「アイ、今だけ目を瞑っててくれ。いいよと言うまで開けるなよ。ケント、俺とアイはここで降りるからあとの事は頼んだ」

 「わかった。アイをよろしくな」

 「任せろ」


 俺とアイは学園とは真逆の道をいき、城へと戻る。

 やはり、何かしらのトラウマがあると思っていたが、まさか、学園とは思いもつかなかった。

 今日はアイを落ち着かせるために城へと戻り、カウンセリング的なことをしてやれたらなと思うユアンだった。


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