第十五話 初めての魔人
「アイ!お前は高等部の方に行け!俺は初等部の方に行く」
「わかった!それじゃまた後で!」
そう言ってアイは別方向へと向かっていった。初等部にはラグレス達がいる。ここで殺されれば修行の意味は無くなってしまう。
「待っとけよ弟子達!」
***
ラグレス達がいる初等部のクラス。当然ラグレス達もSクラスなわけだが、今朝久しぶりに登校してみると教壇の前に魔法陣が描かれていた。
「あれ?こんなところにこんなの描いてあったっけ?」
「知らないけど...とりあえず触らない方がいいんじゃない?」
「そうだな。後でユアンさん達にも聞いてみようよ」
ラグレス達三人は教室で先生が来るまで自分の席で時間を潰していた。そんな時チャイムがなるが、先生が一向にくる気配はない。するとすぐに魔法陣が光りだした。クラス全員その光に視力を奪われる。
「何が起きたんだ!?」
視力はまだ回復はしないが、目の前に突如現れた魔力の大きさで大体わかった。ラグレスは一度体験しているあの感覚。魔人が現れたと。
視力がだんだんと回復していくと、目の前には白髪で長い髪をした魔人が立っていた。
「全くオレンジ様も急に呼ぶから参ったもんだよな。こんなしょんべんくさいところまで連れてこさせるとは...」
いくらユアン達と一緒に修行をしたとしても実戦での経験はほぼ皆無だ。ラグレスも一度魔人とあったことはあったが、その時は何もできずにただ腰を抜かしていただけだった。
「みんな逃げろ!!」
ラグレスが大声で叫ぶと我に帰ったクラスメイト達は扉を開こうとするが、扉は一向に開く気配はなかった。
「どうして開かないの!?」「早く開けろよ!」「邪魔だよお前ら!!」
扉が開かないことにクラスメイト達はパニックになる。それもそうだ、頼れる大人がいない中急に現れた魔人に殺されそうになっているなんて誰でもパニックになるに決まっている。
「リキト、エルク、ユアンさん達が来るまで持ちこたるぞ」
「「うん!」」
ラグレスは光剣を出して魔人に斬りかかるが、魔人はラグレスの攻撃を指一本で止めてしまった。
「何!?」
「なんだぁ?攻撃するもんだから、ちったぁできるやつかと思ったけどこんなもんか」
その隙にリキトは地面に魔力を流し込み泥沼吸収で魔人から魔力を奪っていく。
「うお!これは...」
その後ろでエルクは自分が撃てる最大級の魔法を魔人へとぶつける。クラスメイトには教えてもらった結界を張りいつでも撃てる準備はできている。
魔人が魔力を吸われている間になんとしてでも決着はつけておきたい。エルクは上級魔法獄炎の矢を魔人に放つ。
「がぁぁぁぁ!!!」
獄炎の矢は魔人に直撃しエルクの攻撃にもがき苦しんでいる。魔人は炎に包まれている。
三人のコンビネーションはピッタリでケントとの修行を活かせていた。ラグレス達は一安心してクラスメイト達の様子を見るために後ろを振り向いた。すると何か激痛が走り三人は後方に吹っ飛ばされてしまった。
何が起きたのかわからない...魔人を見てみると炎に包まれながらリキトの魔法から抜け出しラグレス達三人に攻撃した。
「ガキどもォォォォォ!!調子に乗りやがって楽には殺さねーぞ!」
魔人は袋から一つの瓶を取り出すとそれを一気に飲み干した。魔人の体についていた傷は治り最初にいた時の姿に戻っていた。
「さて、まずは一人」
魔人はリキトの前に立つとそのまま鋭い爪を振り下ろす。
「やめろぉぉぉ!!!」
体に激痛が走る中、リキトを殺させないためにラグレスは魔人に突進する。
「あ?なんだテメェ...お前はすっこんでろ!!!」
魔人はラグレスの顔面を持ち上げるとそのまま地面に叩きつける。
「がはっ!」
「さて、邪魔が入ったな...今度こそお前からだ。さーて最初はその四肢もいでやる」
魔人が鋭い爪を振り下ろす瞬間、教室の廊下側の壁が破壊される音が聞こえた。
「な、なんだ?」
現れたのは同じ制服を着ていたケントだった。魔人は学生が現れたことに対して舐め腐ったような態度をとっていた。
「なんだ学生かよ...お前も殺してほしいなら待ってろ。今からこのガキを殺すからそこで待ってろ」
ケントの目には今にも死にそうなリキトとラグレスの姿が目に入った。魔人の鋭い爪はもうすでにリキトに触れそうな距離にあった。だが、魔人は大きく空振りすることとなった。先程まで目の前で瀕死の状態だった学生はいなくなっており、地面に叩きつけた学生もいなくなっていた。
「よくやったな...あとは任せろ」
「すみま...せん」
ケントの腕にはラグレスとリキトの二人が抱えられていた。
今にも死にそうなラグレスが絞り出した声でケントに謝る。
「気にするな。そこでもう少し待っててくれ。すぐにアイを連れてくるから」
ケントは魔人を睨みつける。それを見て魔人もケントを睨みつけた。
「おいおい、俺の楽しみを奪いやがってそんなんで助けたつもりか?俺を倒さないとこいつら助からないんだぞ!」
「うるせーよ」
ケントは身体強化をして一瞬で魔人に近づき、魔力を込めた拳とスキル「豪腕」を組み合わせて魔人の顔面を勢いよく殴った。魔人の顔面は粉々に粉砕し、残ったのは首から上がない魔人の死体だった。
「光属性が使える人は?」
ケントはクラスメイトに問いかける。すると静かに手を上げる女子生徒がいた。
「あの...私光属性です」
「回復は使えるか?」
「は、はい使えます」
「とりあえず応急処置としてこの二人を頼む。エルクはちょっと待っててもらっていいか?」
「ええ、その二人よりかはだいぶマシですから...」
「ありがとう。すぐに戻る」
そう言ってケントは教室を出て行った。
高等部の教室でも同じようなことが起きていた。高等部の教室では植物型の魔人が出現しており、触手?蔓?のようなものでクラス全員から魔力を吸い上げていた。
「なんだ?貴公も妾に魔力をくれるのか?」
クラス全員がぐったりしているようだが、ただ魔力を吸われただけで命には別条なさそうだった。
「そんなのあげるわけないでしょ」
アイは光剣の刃で植物型の魔人を一撃で真っ二つにした。幸い教室では誰も見ておらず、教室には真っ二つになった魔人の死体だけが残っている。
残る魔法陣は二つ。一つは屋上、もう一つはグラウンドだ。このどちらかにもう一人の魔人がいる可能性が高い。下の初等部の教室に魔人が出ているならこれで魔人の安心はしなくていい。とりあえずアイはここから近い屋上に向かおうとするが、すぐそこでケントに呼び止められてしまった。
「アイ!すぐに下にきてラグレス達を治してくれ!」
そう言われてすぐに一階へと向かいSクラスの教室に向かう。Sクラスの損害はひどく高等部の教室とは比にならないほどだった。窓際には瀕死のラグレスとリキトが横たわっていてその横で回復をしている女子生徒が目に入った。
「ラグレス君!リキト君!」
アイはすぐに駆け寄ると同じように二人に回復を唱える。リキトの方が治りは早いが、ラグレスの方は重症で治りが遅い。ラグレスの血は止まらず一刻を争う状態だった。
「ケント、周りのみんなには見えないようにしてくれる?」
アイはボソッとケントに耳打ちをする。ケントはそれを聞いてアイが何をするかわかったみたいで「了解」と言ってアイとラグレス達の周りに赤い結界を張った。この結界に色をつけたのはケントのオリジナルだ。ケントの属性に合わせて自分のイメージした魔法をユアンの魔法と組み合わせた時の失敗作として生まれたのがこの魔法だ。そのおかげで何かを隠したい時には役に立つようになった。
「化身せよ、セレス!」
アイの体から神々しい光が放たれる。アイは神化をしてラグレス達を助けるつもりだ。
「範囲完全回復」
アイが唱えると瀕死だったラグレスは目を覚まし勢いよく飛び起きた。
「あれ?ここは?」
「結界の中だよ。よかった...」
そう言ってアイは神化を解き普通の状態へと戻った。アイが神化を解いたことにケントが気づくと結界を解き、最後に残ったエルクも回復をして難を乗り切った。
「これで残るはあと二つだな」
「そうね...ケントはどっちに行く?」
「俺は屋上に行く」
「じゃあ、私はグラウンドね。終わったらユアンの加勢でいいのかな?」
「あいつに加勢なんていらないだろ」
「それもそうね」
ケントとアイはそれぞれ別の場所へと散っていった。
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