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極彩色の異世界観

♪♪♪


 混乱してるようなので、とりあえず奥の部屋に場所を移した。


「失礼な! 私は混乱してないぞ!」

「いやぁ、私が混乱してるのよ……。ちょっとパンクしてる」


 玄関札を「CLOSE」に戻してから、店の奥に魔法使いを名乗った少女を連れる。さっきまで彼女が寝ていた畳の部屋だ。店にまだ並べていないCDや楽譜が入ったダンボール箱が幾つも積んであり、その間を縫って布団代わりの座布団が並べてある。


 段ボール箱の間で少女ルミナリエスと対面した。なぜか彼女は正座だ。


「これが一番礼儀正しい座り方なの」

「へえ。和風なのねぇ。ラストリア式かい?」

「そうだ。我が国を知っているのか。『救世の魔導師』よ」


 期待に弾んだ声に、楓は手をパタパタ左右に振って、


「いやいや全然知らないし。話テキトーに合わせただけ。だいたい、ラストリアってどこよ。そんな国聞いたこと無いけど」

「『救世の魔導師』のくせにラストリアの名も知らないのか? 魔獣軍との戦いで常に最前線に立ち、功績を挙げ続けている英雄王の皇国を! ふう、さすがに『救世の魔導師』といえども、異世界のことまでは知らないか……」


 落胆を表して溜め息をつかれる。溜め息をつきたいのはこっちの方だ。話を通すために色々を我慢してる私の身にもなれ。ウザい口調とか。


「……えーと、君は、魔法使いって名乗ったけど、どうゆうこと?」

「魔法を使う者、の意味としては正しいけど、気持ち悪いから魔道士って呼んでくれ。魔道を極めんとする者、だ。いつかシン魔法を完成させるための、な」


 何も言わずにこめかみを揉んだ。そこら辺が痛いような気がしたのだ。


「元気がなさそうだな、『救世の魔導師』よ」

「まあね……。突っ込みどころが多すぎて、もう何が何だか。ってか、その『救世の魔導師』って何なのさ?」

「『救世の魔導師』とは私の世界に伝わる伝説の魔道士だ。千年前、悪魔の大軍に人類が滅ぼされようとしてた時、ふと現れ、一晩で敵の軍勢を消し去ったといわれる唯一絶対の星級オメガ魔導士。その魔道士がこの世界にいると聞いて、私はこっちに来た」


 ルミナリエスは座を整えると、楓の目をまっすぐと見つめ、


「私はあなたに会いに来たんだ。『救世の魔導師』」

「人違いです」


 すげなく返す。だけど少女は諦めない。


「いいえ、私の目に狂いはない。誤魔化さなくてもいい。あなたは私の聞いたことのない魔法を使った。ならばきっとあなたが『救世の魔導師』に違いない。さあ、私と共にこちらの世界に来て、再び世界を救ってくれ!」


 拳を熱く握り、懇願してきた少女に楓は腕組みをして、答えた。


「断る!」

「ガ、ガーン! な、なぜだ!」

「さっきも言ったが、人違いだからだ。私はただの楽器屋の店員だ。ご老人ならともかく、世界を救った覚えはない」

「そんな。あんなに奇麗な魔法を奏でてたじゃないか」

「魔法? 魔法なんて使った覚えは、」


 いやどうだろう、と頭の隅が問うてくる。雀の囀りのように、悪魔の囁きのように。こっそりとひっそりとうっそりと、奥の声を聞かせてくる。


 あの頃の私は、魔法を使おうとしていたんじゃなかったか?


「――覚えは、ない」


            ♪♪♪

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