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砂色スフィンクス

         ♪♪♪


「コゴ・セパ・ジェヘ・ゲル・ブ・グル・ルル・アエ・パペ・ンバル・ゲゴド・バヅ・ゴフ・ェルゥニ・ュウウ・タラ・ンス・ファ・ルアン・ホァナハ……」


 少女の唇が、意味不明な羅列を大切そうに紡いでいる。


 王の顔を持つ守護神が、乾いた砂を固めて作ったかのような肉体で、世界中を謁見するように首を巡らす。目測で十メートルはあるように見える王の獅子は、近いとも遠いともいえぬ距離間で、人類を見下して観察を続ける。


 いや違う。頭を振れば、スフィンクスの幻影は付いてくる。これは私の幻覚だ。少女の呟く響きを耳にして、その色を見てしまってるだけ。


 しかし、こんなにはっきりとしたイメージが浮かんだのは初めてだ。こちらが形を与えてやるまでもなく、身勝手に贅沢に傲慢なまでに、初めから怪物として現れた。


 すると、ならこの呪文は何? 少女が喋っている言語が基礎なのか?


 網膜に現れたスフィンクスが首をもたげ、こちらに向く。目が合った、と思うのは重症だろうか。王の顔を持つ獅子は楓を見つめて、目を光らせ、風に溶けていった。砂色の巨体が頭からさらさらと崩れていき、その存在を消失させていく。


 視界を覆っていた砂色の化け物が消え、少女の顔があらわになる。

 どこか期待するような輝いた目で、少女がこっちを見ていた。


「これで、通じる? できてる? 言葉、ちゃんと喋れてる?」


 日本語だ。声からはさっきまで見えていた青が抜けて、黄色も薄くなっている。無視すれば見えなくなるほどに。つまり、普通の言葉を喋っている。


「ん、やっぱり言葉違った? どうなんだ。答えろ」

「あ、ごめん。通じてるよ。ちゃんと」

「そうか。最後のエーテル石を消費したけど、無事成功したなら嬉しい」


 言って少女は笑う。威圧的だが、しっかりとした日本語だ。少なくとも崩れまくったギャル語や舌を巻いてばかりのヤンキー語よりは断然マシだ。

 少女はカウンターの店員用の椅子に座り、手持ち無沙汰に両手を見て、


「私の杖を、知らないか。あれが無いと困る」

「杖?」


 聞き返して、そういえば少女の近くに棒っきれが落ちてたのを思い出す。


「もしかして、これのこと?」 


 尻のポケットから棒を引っ張り出し、差し出した。少女をお姫様抱っこで持ち上げるとき、一緒に持てないから後ろに入れておいたのだ。


「そう、それ……って、ぁああああああああああああ!」


 少女が目を丸くさせて叫んだ。その手に持った杖の先端がポキッと折れていた。ズボンに入れたまま座ってたもんだから、うっかり折ってしまったのだろう。


「ごめんごめん。そんな大事なもんだったの。弁償するよ」

「べ、弁償なんて、そんな気軽に言えるもんじゃ、」


 と、少女は途中で言葉を止めると、考え直すように頷いた。


「いや、あなたさえいれば、心配はいらなかった。問題ない。でしょ?」

「何が『でしょ』なんだい。君がそれで良いんだったら良いんだけど」


 それより、と思考を打ち切り、対応から疑問のために頭を切り替える。この少女について聞きたいことが、さっきの一動作で急激に増えた。


 一番はあのスフィンクスを誘発させた謎の文字並び。


「君、どこの国の人? さっきまで喋ってた言語と、変な呪文は何なの?」


 不思議そうに首を傾ける少女。


「変なと言われても……。呪文は、呪文だが?」

「答えになってないわー……。呪文って、魔法とでも言うつもり?」


 からかいを含んだ声音に、少女はあっさり頷いた。


「うん。それ以外に何があるの?」


 ウグゥ、と喉が詰まった。どんな答えを聞いても驚くまいと、それこそ魔法使いを名乗ってきても大人の対応を見せようと気構えていた楓は、少女の迷いの無い返答に嘘をついていないことを感じつつ、その躊躇いの無さに素直に驚いてしまった。


 楓はへの字になった口のまま、続きの言葉を迎える。


「紹介が遅れたな。私の名はルミナリエス=ゼペルドット=リベルファート=シグマ。ラストリア皇国の宮廷魔道士で、魔道庁長官補佐。位は準聖騎士」


 知らない単語を耳にする度に、楓の目の前がチカチカする。


「お願いだ、『救世の魔導師』。私の世界を救ってくれ!」

「い、いやだっ!」


 楓は反射的に叫んだ。

 拒絶の答えに、少女は顔を真っ白にさせると、クラッとよろめき、再び床に倒れ込んだ。


          ♪♪♪

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