バナナ色ヨーグルト
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「うーん、今日何を着て行こうかなー、と」
シャワーを浴びてスッキリした楓は、浴室を出てまずノートパソコンを起動し、メールをチェックした。新着メールは二通だ。
締め切り三日前を知らせる業者からの催促メールと、歌手で友人のアゲハのメール。
髪を乾かしながら、業者からのメールをロクに読まずに削除して、アゲハからのメールに目を通す。内容は隣町での興行が決まったことと、その際にこっちにも遊びに来る旨を知らせるものだった。
「ははあー。アゲハも忙しいスケジュールの中、結構なことだねぇ」
確か今週にも新曲の収録があったはずだ。無理していなければいいのだが。
返信の文面を考えつつ、冷蔵庫の前に移動。朝は軽めにバナナとプレーンヨーグルト。砂糖とかジャムは無し。暑さのせいで食欲が減退しているからこのくらいが丁度良い。
パチパチパチ、とアゲハへの返信を打ちつつ、横目のテレビで今日のトップニュースと天気予報をチェック。最高気温が三十五度。うへえ。太陽は今日も優しくない。
どうせ今日も店番だけで動かないのだから、と考えて、チラリとパソコンに繋いである副業の道具を見る。白い板形の機器、ペンタブである。
内職しようかな、と囁く悪魔の声はジョンレノンに似ていた。
これまでにも何度かしたことがある。別に店員は自分一人だけなので、内職を咎めるような店長とか田中とか眼鏡の親父とかは居ない。今日に限って居たらサギだ。
問題点があるとすれば、そっちを始めると集中しすぎて周囲が見えなくなることか。客が入って来たことにも気づかず、出て行った時に初めてその存在に気づく。万引きにあってもきっと気づけない。実際気づけなかった。ぎゃふん。
まず三十分間は『あっち』にトリップする。長い時は二時間。
どうしようかな、と悩みながら手はそれらをバッグに入れてるのだから、答えは出ているようなものだ。あっちに行ったら考えようと言い訳し、身支度を整える。
黒のTシャツとジーンズに着替え、昨日の夕立で濡れたパンプスの代わりに、踵を踏み潰したスニーカーを出す。乾燥機からタナカシンフォニーとプリントしてあるクシャクシャのエプロンを引っ張り出し、カバンに突っ込む、直前に手を止める。
現在の時刻は七時。タナカシンフォニーまで歩きで二十分もかからない。アイロンぐらいを掛けていけるだろう。そもそもの見せる店長や客がいないのだから、クシャクシャでも良いかもしれないけど、ほら、気分って大事じゃん。
途中コンビニに立ち寄ることも考えて、楓はアパートを七時半に出た。
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