乳白色の参道
白く薄べったい朝もやが立ち込める石畳の道があった。西には赤い鳥居があり、逆の北には石階段が立つ。その上にはやはり鳥居と、青黒い空を背にした一つの社がある。
参道だ。
神様が歩くとされる道には、濃くはないが邪魔と思わせるほどの霧が充満している。ようやく東の空から覗いてきた光も、乳白色の霧に遮断され、参道は神の降臨を待つかのように、どこか神聖な空気を漂わせていた。
社務所から音がした。靴を履き揃え、今まさに出て来ようとする人の動作の音。そろそろ神社の総代が朝の祈りを奉げに来る時間である。彼が参道を歩けば、たゆたう霧は乱れ、神秘性は消え失せる。日向ぼっこしていた霧は焦ることなく首をもたげ、空に上っていく準備を始める。そんなことしなくても私は消えるから、と。
と、そこに鉄の声帯で叫んだような凄まじい叫びが発生した。
異音は発生源を霧の中心に置き、存在感を増していく。音に合わせて風が生まれる。内に引き付ける風と、外に弾き飛ばす風。二つはぶつかりあうことなく合流し、一つの渦巻きを作る。
集められた霧は、新たに生まれた竜巻を白く色づけ、その中心を隠し尽くす。千切れる音と切り裂く風は参道から一歩もはみ出ることなく、ただ動きを激しくしていく。
やがて音は最骨頂に達し、偶然空を横切ったカラスが一鳴きした。
参道の中心が爆発した。
光も音も熱も伴わない爆発は、見えない衝撃をもって参道上のもやを吹き飛ばし、境内の木々を揺さぶり、黒ずんだ社を軋ませる。
参道から一切のもやが消えていた。代わりに、別の存在をそこに残して。
「………………」
別の存在、少女の形をしたそれはゆっくり立ち上がると、左右を見渡した。少女の格好は奇天烈なものだった。ゲーム画面や東京のある電気街に行けば、あるいは見慣れたものかもしれないが、神社の中では明らかに浮いている。
それを自覚してるのかしていないのか、少女は近づいてくる神主の足音にビクッと肩を跳ねさせると、脱兎の如く鳥居の外に走っていった。
少しして。白い衣装に身を包んだ壮年の男性が歩いてきて、朝もやが珍しいことに晴れていることに僅かに目を張り、しかし、それ以上気に留めることなく社に足を向ける。
一つの異常が起きた神社を、もはや誰に遠慮することなく朝日が照らす。
♪♪♪