赤面リアクション
♪♪♪
最後の歌詞を諳んじて、ふと楓は片方の口角を上げた。
それは、自嘲の笑みだ。苦笑であり、憐憫の笑みでもある。
閉じていた両目を開けて、最後のBGMを断ち切るように、カラオケマイクの電源を押し切った。楓の網膜にはもう何の色も映っていない。日常的に耳にしている自分の声では共感覚も鈍く、薄くしか発動しない。それに、
……この歌は、特に歌ったからなぁ。
二十四の色彩が見えていたのは序盤だけで、私の脳はすぐにこの歌を思い出し、懐かしい刺激に慣れてしまった。あのカラーリングにもう少し浸っていたかった分、それがすぐに薄れて消えてしまったのは若干ばかりの残念だ。
ルミナには、気分と言ったがこのマイクを選んだのには理由がちゃんとある。先の歌が入っている最初にして最後の家庭用カラオケマシンだからだ。
それを未だ後生大事に所持しているということは、
「……何だかんだ言って、まだ吹っ切れてないってこと、だよねぇ」
独白して、ルミナに横目を向ける。ちょっと得意げに。これは他人を小馬鹿にする習性があるあの少女も、驚いたんじゃないの?
かと期待して見たら、彼女は顎に手を当てて、思案していた。
「ふぅむ、なるほど。実に興味深い……。この声、か? 独特な音波を発してるか、あるいは……。その場合、この言語の構成方法が最重要か……」
「あ、あれ? そんな科学者的?」
「科学者的? 科学……、錬金術師の扱う理論のことか? あんな偏屈ジジイどもと一緒にするな。魔道とはもっと神聖で高尚なものである」
「へーへー。一般人には関わりようのないことでござんすね。あんたに普通の反応を期待した私がバカだったよ」
「そう言うな。お陰で私の魔力が回復したのだから。簡易な魔法なら二回は使えるはずだ」
二回……? Vサインを作り、自分自身で見つめる楓。
「少ない気しかしないんだけど」
「ああ。とんでもなく少ない。私の満タン状態は一〇〇回分はあるから、今はその五〇分の一ってところかな」
「へ、へえー、何それ。私の歌、そんだけの価値しかないの? いくら厨二だからってそんなこと言わなくても。浮かれてた私が馬鹿みたいじゃない……」
「さっきのカエデはちょっとどころではなく、かなり浮かれてたぞ」
「うわー。言わないでー」
羞恥で赤くなった顔を両手で隠していやいやと首を振る。頬が熱を持ってる。恥ずかしさかさっきの興奮が続いてるのか。
「恥じることはない。一を増やすことは誰にだってできるが、ゼロから一を創り出すことは限られた者にしかできない。この魔法を奏でられるだけで、すでに特級ニューの資格がある。これまで魔道の勉強をしたことがないのを含めれば、クシーと呼んでも良いだろう」
楓はそっぽを向いて唇を尖がらせる。
「設定でフォローすんなしー。クシーねえ。あんたは何だっけ? ヒグマ?」
「明らかに違うだろ。シグマ、シグマだ。クシーより四個上のクラスだな」
「ってあれ? 四個だけ? 思ったより魔道士のクラスってチョロい?」
「……な、何おう! そこからクラスアップするのが難しいんだぞ!」
「ふーん。ホントかなぁー?」
「わ、私の力を疑うのか! シグマは、まさに選ばれた者しか……!」
赤面して反論するルミナが面白くて、ついつい続けてからかいたくなる。
さっきからかった仕返しだー。と、そんな子供みたいに悪戯心を働かせ、
「あのー、すみませーん?」
と、ルミナを苛めるのに夢中になってたところに、青い声が入ってきた。
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