表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/24

パステルカラーの期待

            ♪♪♪


「腹が満ちたことで本来の目的を思い出せた。お前が『救世の魔導師』でないというのならそれでも構わない。最早、事は一刻を争う。カエデ。こっちの世界に来て、憎き魔王を倒してくれないだろうか」

 

 魔王ってワードを出しながら、真面目に語られても。

 笑ってはいけない雰囲気と分かっていながら、失笑を禁じえない。


「さっきも言ってたけど。私の世界を救ってくれって言われても、ねえ。私あんたが異世界から来たって話、一つも信じてないからね?」

「何? その疑惑はすでにクリアできてたと思ってたのだが」

「全然。適当に話合わせてただけ」


 ルミナは仕方なさそうに吐息し、頭の尖がり帽子から杖を出して、


「だったら証明してみせよう。私が天才魔道士で良かったな、感謝しろ。もちろん、カエデにも手伝ってもらう」

「私に? 何をしろって。魔法使いでもない私に」

「分かってる。こっちの世界には魔法使いが存在しないのだろ? 衝撃の事実だったが一度説明されれば十分だ。だけどカエデ、お前は魔法を使ってみせた」

「私が魔法を?」


 身に覚えがない。急にそんなこと言われても困る。のに、心が跳ねた。


「店の前で見せてくれたあの呪文。あれはいわば活力の歌。他者の魔力を回復させる魔法だ。そしてお前の描いたあの紋章」


 杖の先でこちらの胸を指すルミナ。あのデザインのことを言ってるのか。


「あれは呪紋といって、術式回路を組み込んだものだ。詠唱を省略し、また術者の魔力消費を抑える装置。その二つがあれば、この世界でも魔法を使える」


 もっとも、天才の私だからこそ見抜けたことだけど、と聞いてもない注釈を付け加える魔道士少女。それさえなければ可愛い子で終わるのに。

 だが、思いもよらぬ角度からの事実に楓は興味を惹かれ、詰め寄った。


「どういうこと。あの歌が、偶然魔法の呪文と同じだったってこと?」


 頭突きの勢いで顔を近づけられ、ルミナは苦しそうに仰け反る。


「い、韻律が、重なってる。元々歌は構成要素が呪文と似ているのだけど、あそこまで一致した例は初めてだ。曲の律動と旋律と呪文が、見事に調和している。恐らくこの世界の言語と音楽だからこそ、実現できる、この世界ならではの魔法」

「御託はどうでもいい。つまり私があの歌を歌えば良いのね」

「いや、そこまでしなくても。私にあの歌を教えてくれれば、」


 ズズイ、と音がするほど詰め寄り、額をぶつけ、


「私が、あの歌を、歌えば、良いのね?」

「いや、だから、教えて、」


 ズズイズズズイズズズイズズッズズズイ、と詰め寄り、


「私が。歌わ。ないと。ダメなの。ね?」

「……是非とも、お願いしよう」


 根負けさせられた少女は、顎を引いて首肯した。

 こうして私は、他人のためにもう一度歌うことになった。


       ♪♪♪ 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ