表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/24

鉛色のグチ

     ♪♪♪ 


 我がタナカシンフォニーが開店している藤浪中央商店街について語ろう。

 とは言っても、古くから商店街を支えてきたご老人や青年団の人たちから比べれば、私はまだまだひよっこであり、歴史とか詳しいことも知らないし、調べたこともないので、現状を見たまんまの至極表面的なことしか語れない。その上で語らせてもらうなら、こう結論する。


 この商店街は、廃れている。


 地方都市の標準レベルに恥じぬ、荒廃を醸している。醸すという表現を使っても違和感のない時点でその古さは折り紙つきといえよう。


 実際にシャッターが下りているのは半分ほどだが、パッと見た構図は、ああ、清々しいまでにシャッター街。商店街全部を合わせても、客の数は近隣のスーパーに勝つことはできず、気分転換のようにカフェや居酒屋が建っては潰れ、建っては潰れを繰り返す。


 町中を歩くのは杖を突いたお爺ちゃんか、キャスターを転がしたお婆ちゃん。主婦が来るのは和菓子屋か、小中学校の体操服と制服が売ってる洋服屋くらい。当然、遊び盛りで青春真っ盛りの少年少女たちが立ち寄ることはありえない。


 私が十代の頃は、あと十年で滅ぶのではないかと危惧していたが、どういったマジックか私が大人になった現在も何とか継続している。そんな過去を踏まえて今の私が抱く商店街の予想寿命は、やはりあと十年だ。


 そしてタナカシンフォニーは連続赤字記録を更新中。


 不吉な夢を見たり、気分がブルーになったりするのも当然というわけだ。

 いやいや、一店舗のために商店街全体を責めるのは酷といえよう。商店街に人が少ないのは事実だが、一つ一つの商店がしっかりとしていないから、こうなったのだと言うことも出来る。私たちにも責任はあるのだ。


「……と、こんな潔いこと思っても、中々割り切れないけどさぁ」


 責めれる先があればつい矛先を向けてしまうのが人の性だ。

 そして、受け止めてくれる先があると、人はついつい甘えてしまうもの。


「っで」


 横のルミナの声がこちらの思考を断ち切った。


「そのような精神の未熟さを露呈させるような愚痴を、私に聞かせてどうするのだ、カエデ。助けて欲しいのか?」


 楓たちはコンビニの駐車場のブロックに腰を下ろして一服していた。

 ルミナの空腹を満たすために、楓は店から五分ほど歩いた位置にある二十四時間営業のコンビニに買い物に来ていた。


 コッペパン三個と大福二個をペロリと平らげたルミナは、親指に付いた白粉を舐めつつ、袋から緑茶のペットボトルを取り出す。キャップを見て首を傾げ、上に引っ張ったり右に捻ったり縦に回したりと悪戦苦闘するが、ついに諦めてこちらに放り投げてきた。

 開けてやり、返しながら、


「いーや、愚痴はただの愚痴よ。意味もないし、つもりもない。何であんたなんかに話したのか、自分でも分かんないね」


 あの不思議な現象をもう一度体験できないのなら、ルミナにも魔法にも異世界にも興味は無かったのだが、コンビニまでの道中に、らしくもなく口が滑った。

 ポロリポロリと商店街と楽器屋のことを零していた。


「話し相手が欲しかったのかねぇ、楓さんは」

「だったら暗い話をするな。私も落ち込むだろう。すると印象も悪くなる。貴重な話し相手を失う気か、馬鹿め」


 飢えを癒しても変わらず居丈高なルミナリエス。彼女は立ち上がり、さあ帰るわよ、と商店街の方向を指差す。それに追随して腰を上げながら、


「あはは。確かにそうかも。そういや初めから気になってたけど、あんた口悪すぎない? 偉そうというか、年幾つよあんた」


 道路を横切り、住宅に挟まれた細道に入る。そこを通って行けば商店街に出る。


「年なんか聞いて。年功序列の愚かさでも語るつもりか? 今年で二十九歳だ」

「二十九? 嘘言うんじゃない、その童顔で。どう見ても十五かそこらにしか見えないじゃん。ああ、実は魔法使ってるって設定とか?」


 ルミナがしかめっ面で言い返す。


「顔は関係ないだろ。あまり言うな。老化を誤魔化す魔法もないこともないが、わざわざそんなことに魔力を割く酔狂な魔道士はいない」

「はいはい。そういう設定ね。設定、設定」

「……むう。軽んじられてる気が」


 細道が終わり、商店街の歩道に出る。ルミナが左右を見回した上で右に曲がる。


「しかし、確かに古めかしい町並みだな。人気が見られない。でも繁盛してる店だってあるだろ? 例えば、あの店とか。植物を売ってる店か、あれは」


 白い指がずっと先の店を差した。小さな店には、お客さんのものであろう数台の自転車が停まっている。そして今もまた二人の主婦が入っていった。

 店頭にはいくつかの植木や花が飾られている。店名はここからじゃ読めない。


「ああ。あれは多分、今年の春にオープンしたお花屋さん。店長がイケメンで韓流スター好きの主婦たちの心を鷲掴みにし、軌道が乗ってるらしい」


 けっ、と見たこともない花屋の店長の顔を想像し、笑い飛ばす。


「ま、それも、おばさんたちが飽きるだろう三ヶ月後は、分からないけどぉー?」

「トゲがすごいな。美形への嫉妬か?」

「っていうか、冷笑?」


 ジャニーズ系や韓流系とは昔から相性が悪かった楓である。みんな、あんなヒョロッコイののどこが良いのだろうか。髭も筋肉も付いてないのに。

 なるほど、と仏頂面で相槌を打つルミナ。


「話を戻して良いか、カエデ」

「ん、どこまで?」

「初めまで、だ」


       ♪♪♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ