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孟子ちゃん、登場

 木曜日、登校時に校門で二口さんに会った。


「おはようございます、貢君」


 二口さんが丁寧にあいさつしてくれる。


「あ、おはよ、二口さん……」


 僕は昨日の、孔子ちゃんに胸を揉まれ、もとい、戒められた二口さんの姿や、別れ際に手を握られたことを思い出して、どきどきしてしまった。二口さんに変わったところはない。なんとも思っていないのだろうか……そんなことを考えていると、いつの間にか、二口さんは恥ずかしそうに顔を赤くしていた。


「あの、貢君、そんなに胸ばっかり見たら、恥ずかしいです……」


「そ、そ、そ、そんなつもりじゃ……ご、ごめんなさいっ!」


 僕は慌てて謝った。不躾な視線で、二口さんにも昨日のことを思い出させてしまったようだ。その後は一日中、申し訳ないやら恥ずかしいやらで、まともに二口さんのことを見られなかった。


 授業を終えて、僕は二口さんから逃げるようにして急いで家に帰ってきた。今日も孔子ちゃんの家に行くつもりだけど、とりあえず家で一休み……そう考えて家のドアを開けると、見慣れた由宇の靴の他にもう一足、女の子用の靴があった。来客だろうかと気になりつつ家に入る。


 居間を覗くと、由宇だけでなく、中等部の制服を着た女の子が居た。二人は笑いながらおやつを食べていたけれど、居間のドアを開けた僕に気づいた。


「おかえり、お兄」


「由宇ちゃんのお兄ちゃんですか? 初めまして、わたしは小林(こばやしタケコです」


 竹子? あまり豪華ではない名前だけど、名前とは裏腹にめちゃくちゃ可愛い。何より、この年にして、男に媚びるような上目遣いで瞳を潤ませているあたり、ただ者ではない。


孟子たけこは、もうし、って書いて、たけこって読むんだよ」


 由宇が補足する。


「孟子って、あの儒教の?」


「そうですよー。由宇ちゃんのお兄ちゃん、物知りだね!」


 尊敬の眼差しでこちらを見る。僕に惚れているのか!? と勘違いしてしまいそうなほど熱く潤んだ眼差しだ。


「珍しい名前だね。隣の孔子ちゃんみたいだ。こうしって書いてひろ子って読むんだけど」


 僕の素直な感想に、孟子ちゃんは、ちっちっちっ、と指を振りながら大きく首を横に振った。


「分かってないなぁ、お兄ちゃん。あんなとうきょうこーひーな変な子と同じにしないでよ」


 どうやら、孟子ちゃんは孔子ちゃんのことを知っているようだ。由宇の友達なら知っていてもおかしくはないけど。


「それに、孔子なんてもう古い! 時代は孟子だよ!」


「いや、孟子も十分古いんじゃ……」


 思わず突っ込んでしまった僕に、孟子ちゃんが怒り始めた。


「なんてことを言うの!? 私のパパは、孟子の教えは現代にも通じるといって私にこの名前を付けてく

れたんだよ!?」


 どこかで聞いたような話だ。


「それはそうかも知れないけど……」


 口ごもる僕に、由宇が焦れたように孟子ちゃんの袖を引いた。


「別にお兄の相手なんてしなくていいじゃん。そんなことより、何して遊ぶの?」


「お兄ちゃんも一緒に遊ぼうよ? 私ね 、最近病院の近くにお引越ししたの。だ、か、ら、お医者さんごっこ、しよ?」


 孟子ちゃんはそう言って、舌をチロチロと動かして自分の小指を舐めた。なんか、エロい。


「お、お医者さんごっこ? ちょっと子供っぽくない?」


 由宇が訝る。確かに、中2にもなっておままごとやらごっこ遊びというのは幼稚すぎるが……。


「そんなことないよぉ? 結構、大人の遊びだと思うなぁ。ね、お兄ちゃん?」


 意味深に、孟子ちゃんが上目遣いで僕を見る。


「そ、そ、それは……」


 僕はうろたえてしまった。確かに、孟子ちゃんみたいな可愛い子に、前をはだけて貰って聴診器を当てるとか、考えただけでも鼻血がでそうだ。


「ほら、シャツをめくり上げて? 私がお兄ちゃんの身体、診てあ・げ・る♪」


 そう言って、孟子ちゃんが濡れた瞳で僕を見詰めながらにじり寄ってくる。こっちが診てもらう側か!? それもいいかも……。孟子ちゃんがナースコスでないのが残念な気がするけれど、中等部の制服というのもそれはそれで……。


「ちょちょちょっ、待ってよ! お兄もなにシャツのボタン外そうとしてるのよ!? 大体、病院の隣に引っ越すのとお医者さんごっこと、なんの関係があるのよ!」

 思った以上に大人なお医者さんごっこだったからだろう、慌てて由宇が後ろから孟子ちゃんを羽交い締めにして阻止する。妹め、余計な真似を。


「そんなの、隣にある施設をテーマにごっこ遊びをするのは、なうなやんぐの常識だよ? 引っ越す前はお墓の隣だったから墓守りごっこして遊んでたもの」


「墓守りごっこ?」


 聞いたことのない遊びだ。


「うん。夜中にお墓の見回りをしたり、穴を掘って新しいお墓を作ったりするの。せっかく頑張ってママのお墓も作ったのに、何故か怒られちゃって、引っ越すことになったの」


「何故か、って、そりゃ怒られるよ! そんなことされたら、確かに引っ越したくなるかもね」


「まぁ、でも、妹相手にお医者さんごっこしてもママも怒らないから、これはOKよね! さ、さ、お兄ちゃん、脱いで脱いでぇ♪」


 どこからか聴診器まで取り出して、甘い声でねだる。誘惑に乗ってしまいたいところだが、そんなことしたら、由宇からどんな攻撃を受けることか……。出ていかないかなぁと思い、ちらりと由宇を見る。


「お、お兄は今から家庭教師に行くんでしょ!? 早く行きなよ!」


 由宇はいなくなるどころか、僕を追い出しにかかった。


「そうなんだぁ、残念だなぁ」


 それを受けて、孟子ちゃんも早々に聴診器をしまってしまった。由宇め、重ね重ね邪魔しやがって。逆に追い出されてしまったが、確かに、もともと今日も孔子ちゃんの所に行くつもりだったのだから仕方ない。


「しゃあないな。行ってくるよ。孟子ちゃん、またね」


 僕は後ろ髪を引かれる思いで家を出た。


 それにしても、孟子ちゃんのお医者さんごっこは、ある意味墓守りごっことやらよりも教育によくないのではないだろうか? 親御さんがそれに気づいて引っ越してしまう前に、是非一度ご相伴にあずかりたいものだ。


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