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言葉を紡いで  作者: 凛
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VS教頭

そして、場面は冒頭に戻る。

 放課後の文芸部、部室にて。突如として現れた朝ぶりの教頭先生。最初、パソコンで音声を聴いていた私はすぐには気づかなかった。だけど奥に置いてある古いソファで横になっていたはずの文芸部員、宮野君が立ち上がったのが目の端に映ったものだから、私はそこでようやく異変に気づいたのだった。

「もう一度言おう。君たち文芸部には目立った活動がみられず、とても有意義な時間を過ごしているとは言えないので、今後改善されないと見なされれば即刻廃部にする」

 ……心なしかさっきよりも棘のある言い方になった。なんて、考えている場合ではないことは百も承知なのだが、私はただ黙って教頭先生の言葉を咀嚼するので精一杯だった。

 文芸部が、なくなる?

 私が通う学校は中高一貫の私立校で、文武両道を掲げている。そのため生徒の部活動への参加は必須で、運動なんてもってのほか、けれどその他の文化部もハードルが高い……と感じていた私にとって読書好きも相まって文芸部の存在は大変ありがたいものだった。

 私は高校受験をしてこの学校に入ったので、文芸部に入ってから日は浅い。けれど少しずつ、そして確実に自分の居場所を見つけたのだと。そう思っていたところでこの仕打ちである。

「……あの、ちょっと言っている意味がよくわからないんですけど」

 おもむろに口を開いたのは宮野君だ。宮野君は私とクラスこそ違うものの、同じ文芸部員としてよく放課後に顔を合わせた。だからといって何か話すということはないのだけれど。

「文芸部員のくせに日本語もわからんのか。全く、嘆かわしい。もう少し読解力をつけるべきだと私は思うがね」

「お言葉ですけど。急に廃部と言われても困ります」

「では聞くが、君たちは文芸部として何をしてきた、え?

言ってみなさい。ほら、言えないだろう? それはそうだ、何もしてないからだ!」

 教頭先生のトゲトゲ攻撃は続く。宮野君はぐっと言葉につまった。図星だった。

 少なくとも、私が文芸部に入部してから、一度もちゃんとした活動をしていない。それどころか、文芸部の「ちゃんとした活動」さえ、私はよくわかっていなかった。

だから今まで、とりあえず部室に設置されているパソコンの中に記録された「文芸部 合評会」なるものを聴き、過去に文芸部に在籍していた先輩方が残した部誌を読んでいたのだった。

宮野君がこちらに視線をよこした。

え。そのお前も何か言い返せよ的な視線を投げるのはやめてほしい。この件に関して私は一切役に立つことはないと思われるので、どうかあてにしないでください。私もそんな意思を込めて見つめ返すも、伝わるわけもなく。

「そんな何の生産性もない部活をのさばらせておくわけにはいかない。

こちらも君たちみたいな実績も何もない下手したら不良のたまり場にでもなりかねないところに予算を割く余裕なんて一ミリたりともないわけだよ。わかるかね?」

 あの。今仮にも教育者としてあるまじき発言のオンパレードでしたけど。生産性ないって。不良って。なんだかそのうち「我が校の恥」とまで言いそうな口ぶりだ。

宮野君が再びこちらを見た。いやだから無理ですって。私、陰キャにありがちな心の中はおしゃべりだけど実際一言も口に出せない人間なんですから。

 宮野君が小さくため息をついたのがわかった。そして教頭先生の方を向く。口を開き何かを言おうとした瞬間――

「ちょーっと待った!」

 微妙な雰囲気を壊す、稲妻のような叫び声。

 紅を引いた口角をきゅっと上げ。華麗に白を翻し。黒のパンプスをカツカツと鳴らして颯爽と登場したのは。

「そのお話、少し待ってくださらない?」


――現代文の教師にして我が文芸部の顧問、彩葉先生その人だった。


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