第二の婚約破棄
そして翌日
学期末パーティの壇上で、突然ブリストル王子が宣言する。
「マリアンヌ・ビクトリア!ピーチ・スイート子爵令嬢に対する苛めを弾劾する!」
いきなりの発言に、生徒たちや来賓の貴族や王族はびっくりしてしまった。
生徒や貴族たちが硬直している間に、王子の取り巻きたちが次々と証言する。
「僕たちはマリアンヌがピーチ嬢をいじめていたのを何度も止めました。彼女に触れ衣をきせたり、ノートを破ったり……」
宰相の息子であるエルウィンが証言する。
「俺も見たぞ。こいつはピーチ嬢を階段から突き飛ばした」
大将軍の息子ウィルヘムが憎憎しげに言い放つ。
最初は信じなかった来賓たちも、品行方正で次世代の人間国を支えるエリートである取り巻きたちの発言に耳を傾けてくる。
「待ってください。誤解です!私はピーチ様を苛めたことなどありません!」
マリアンヌは必死に無実を訴えるが、彼らから冷たい目で見られていた。
「マリアンヌのような女は、将来の王子妃にふさわしくない。よって」
「王子、お待ちください」
婚約破棄を宣言しようとした時に、ある人物が壇上に上がってくる。
髭を蓄えた堂々とした体躯の中年男性で、マリアンヌの父親のビクトリア辺境伯だった。
「娘が行ったという所業は事実ですかな?」
「じ、事実だ」
王子がちょっと気圧されそうになりながら答えると、ビクトリアは娘をチラリと見た。
「お、お父様、嘘ですわ。私はそのようなこと!」
「黙りなさい」
ビクトリアは軽く娘の頬を叩いて黙らせる。
そして王子のほうを向いて一礼した。
「真実など無意味。王子にそう思わせた時点で、娘に婚約者たる資格はありません。よって婚約を辞退させていただきます」
それを聞いた貴族たちの中から、一番豪華な衣装を着ている男が慌てて出てきた。
「ビスマルク辺境伯!それは困る。貴殿の娘と結婚できなければ,王家の立場が……」
「陛下、我らビクトリア辺境伯とその傘下の家は、今後も王家に忠誠を誓わせていただきますので」
そういって王子の父-ブリリアント国王に頭を下げると、ビクトリアは呆然としている娘を連れて壇上を降りる。
「と、とにかく婚約破棄は成立した。さあ、みんなパーティを楽しもう」
そう必死に取り繕う王子に対して、何人かの貴族は哀れみの視線を向けていた。
馬車の中
マリアンヌは悔し涙を流しながら、父ビクトリアに食って掛かっていた。
「どうしてお父様は私を信じていただけないのですか!私は無実です」
「わかっておる。お前がいじめなどしておらんことはな」
ビクトリアはそういって、娘に分厚い資料を渡す。それはマリアとその周りの人間すべてについて精細な調査をした報告書だった。
「私の無実を知っておられたなら、なぜ婚約破棄などを申し出になられたのですか?」
「たかが子爵家の娘に惑わされて、無実の人間に濡れ衣を着せるような無能な王子と可愛い娘を結婚させるわけにはいかぬ。だからこっちから婚約破棄したのだ」
ビクトリアの額には怒りのあまり血管が浮かんでいた。
「今にみておれ。我らビクトリア地方はブルージュ国の食料庫。我らを田舎者扱いする思い上がった都会の者どもに目のものをみせてやるわ」
ビクトリアから深い怒りを感じ取り、マリアンヌは恐怖した。
しばらくして、マリアンヌは疑問に思っていることを父に聞く。
「ですが、なぜピーチ様はこのようなことを?」
「わからぬ。現在調査中だが、どうもスイーツ子爵家は我が傘下から離脱して王家に付くつもりらしい」
「ですが……」
マリアが何か言いかけるのを、ビクトリアは手を上げて制する。
「お前の言いたいことはわかっておる。スイート家はフード家と我がビクトリア家を敵に回したようなものだ。何か勝算でもあるのかもしれぬ。警戒を怠らぬようにしよう」
ビクトリアはそこで言葉を切って、マリアンヌに告げる。
「お前にはフード家に嫁いでもらう」
「え、え?ロビン様にですか?」
それを聞いたマリアンヌは真っ赤になった。
「お前たち二人は幼馴染として昔から仲が良い。すくなくともロビンは王子よりはマシであろう。我々辺境貴族にとっては、王家などよりも配下の家のほうが大切なのだ。異議は認めぬ」
「異議などと……喜んで嫁ぎますわ」
マリアンヌが明るく頷くと、ビクトリアの頬も緩んだ。