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マリアンヌに迫る危機

魔法学園 王子の部屋

若い男女が同じベッドの上に横たわっていた。

「ピーチ。ようやくあのうっとうしいロビンを追い出して、君を手に入れることができた」

「ああ……ブリストル王子、うれしく思います」

金髪の男女がじゃれあっている。人間国の王子ブリストルと、その恋人ピーチ・スイート子爵令嬢だった。

彼らはロビンに言いがかりをつけて、ピーチとの婚約を破棄させた張本人である。

「ぼくは君を愛している。君こそが王妃に相応しいんだ」

「光栄でございます。ですが、私たちの結婚にはまだまだ障害がございますわ」

王子の喉をくすぐりながら、ピーチは甘くささやく。

「わかっている……次はあいつだ。もともと僕はあいつと婚約なんかしたくなかったんだ。父上がどうしてもっていうから……。でも、どうしたら婚約破棄に持っていけるんだろう。下手なことをしたら僕の地位も危うくなるし」

悩む王子に、ピーチは甘くささやきかける。

「私たちに任せてください。きっと彼女の評判を落としてみせますわ」

そういうピーチの口元は、醜くゆがんでいた。


次の日、昼食の時間

ビクトリア辺境伯令嬢マリアンヌは、友人たちと食後のお茶を楽しんでいた。

「このチーズケーキという食べ物は、本当に美味しいですわ。ビクトリア辺境領で作られているのですか?」

ケーキを食べながらはしゃぐ友人たちに、シャロンは説明する。

「ええ。正確には我が家の配下であるフード家で作られております」

その名前を聞いて、貴族令嬢たちは嫌な顔をした。

「フード家といえば、あの……」

「王子の不興を買って、逃げるように学園から去った方の領地ですね。たしかロビンとかいう田舎者」

「あのような者が配下とは、ビクトリア辺境伯も苦労なされますわね」

令嬢たちはロビンのことを好き勝手にこき下ろしていた。

その時、冷たい声が響く。

「ロビン様が田舎者ということは、同じ地方を統括する我がビクトリア辺境伯もそうだとおっしゃりたいのかしら?」

令嬢たちが思わず声をした方向を見ると、マリアンヌが怒りをこめた笑いを浮かべていた。

「い、いえ、そういうわけでは……」

「フード領では、皆様の領地に出荷している肥料を作り出している家でございます。いわば我々皆が恩を受けているも同然。彼らを田舎者と蔑むのは控えていただきたいと存じます」

マリアが優雅に紅茶をのみながらたしなめると、令嬢たちもこれ以上何もいえなくなった。

その時、メイドの格好をした少女が近づいてくる。

「お茶のお代わりをおもちしました……きゃっ!」

金髪メイドは、マリアンヌの側で転んで彼女に紅茶をぶちまけた。

「熱い!」

マリアンヌは思わず悲鳴を上げて倒れこんできたメイドを払いのける。

突き飛ばされたメイドは、大げさに泣き喚いてきた。

「ひどい!マリアンヌ様が私の足を引っ掛けて転ばせたくせに、突き飛ばすなんて!」

騒ぎを聞きつけて、近くにいた男子生徒たちが駆け寄ってくる。彼らはマリアンヌより先にメイドを助けおこしていた。

「大丈夫かピーチ。僕たちは見ていたぞ。こんな可憐な子をいじめるなんて、それが貴族の令嬢のすることか!」

そう鋭く責めてくるのは、王子の側近で宰相の息子のエルウィン。その傍らには騎士団長の息子ウィルヘムがいて、同じようにマリアンヌを睨んでいた。

「誤解です。私は……」

「言い訳をするな。卑怯ものめ!」

ウィルヘルムが威圧すると、マリアンヌは恐ろしくなって黙り込む。

「待ってください。そもそもなぜピーチ嬢がメイドなど……」

周りにいた貴族令嬢が突っ込むが、エルウィンは芝居がかったしぐさで告げた。

「彼女は実家が苦しくてアルバイトしているんだ。ああ、なんと美しい心の持ち主なんだろう。働きもせずに駄食と虚飾にまみれているマリアンヌ嬢などより、よほど王子に相応しい」

あまりの三文芝居に言葉を失うマリアンヌたちをよそに、彼らはピーチを集団で慰める。

「このことは王子に報告するからな!」

彼らはそう捨て台詞を吐いて去っていった。

「……今のは何だったのでしょうか?」

マリアンヌは首をかしげながらも、これからについて漠然とした不安を感じていた。


それから、立て続けに彼女に不幸が襲う。

教室では、隣に座ってきたピーチに「ノートを貸してください」と絡まれる。断ると、勝手に手を出してきた。

「お願いします」

「ですから、勉強は自分の力で……あっ!」

取り返そうとした瞬間、なぜかノートが破られてしまった。

「見ていたぞ!ピーチ嬢のノートを破ったな。マリアンヌ、苛めをするなんて最低だな!」

授業中にもかかわらず、王子の取り巻きが絡んでくる。

「違います。破られたのは私のノートで……」

「この期に及んで嘘を言うとは。マリアンヌは王子の婚約者に相応しくない」

彼らは人の迷惑も顧みず、散々大声をだして彼女を貶めるのだった。

そのような小さな嫌がらせが重なり、次第にマリアは孤立していく。そしてある日、ピーチがマリアンヌに階段から突き落とされたと王子に訴えた。

「彼女は王子の婚約者だからといって私をいじめて、怪我までさせて……」

「ピーチ様。かわいそうです……」

足を包帯で巻いたピーチの横には、王子の取り巻きたちがいた。

「許せない……。ピーチ、君の仇は僕が取る。明日の学期末パーティでは、父上や貴族たちも来る。みんなの前で、堂々と婚約破棄をしてやろう」

「ですが……」

不安そうな顔を作るピーチに、ブリストル王子は笑顔を見せる。

「大丈夫だ。僕の婚約者じゃなくなれば、あいつは単なる田舎貴族だ。ロビン同様、大恥をかかせて学園を追い出してやろう」

王子はピーチを抱きしめる。

「うれしい。私の王子様……」

その腕の中で、ピーチは口を半月の形に開いて笑っていた。


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