竜王襲来
夕方。
アリスは散々遊んでストレス解消できたのか、すっきりした顔をしている。
「フード領って楽しい。来てよかったよ」
「それはどうも……」
それに対してロビンはぐったりしている。あれから散々アリスに振り回されて、疲れていた。
(なんでこの子はこんなに体力あるんだ。一応鍛えている俺でもこんなに疲れているのに……)
貴族の令嬢らしくないアリスを不思議に思い、聞いてみた。
「ところで、とまっている宿はどこ?送っていくよ」
「や、宿?えーっと。あの……」
急にアリスは歯切れが悪くなる。
(お姫様の遊びには散々つきあっただろ。そろそろ帰る時間だぞ。最低でもご両親に紹介してもらって、フード領のアピールをしないと、今日の投資が無駄になるよ)
そう思いながらアリスを見ていると、とんでもないお願いをされた。
「あ、あの。私は実は家出してきたの。あなたの家に泊めて!」
(おいおい……そんな嘘すぐばれるぞ。このフード領は孤立した辺境なんだ。隣の領までは馬車でも何日もかかる。いくらお転婆でも、女の子が一人でこれるわけないだろ)
まだ遊び足りないのかとおもって呆れるが、ロビンはふと思う。
(待てよ。貴族の令嬢が行方不明になったら、真っ先に領主の館に問い合わせがあるに違いない。つまり家にかくまっておけば、自然に迎えにきてくれるというわけか)
保護者である大貴族がきたら、保護しておきましたといえばいい。
「わかった。いこう」
ロビンはアリスの手をとると、自宅-領主の館に向かった。
領主の館に戻ると、ロビンは執務室にアリスを連れて行った。
「父上、友人を泊めたいのですが……は?」
中に入ったロビンは、目の前の光景が理解できずに固まる。
椅子に厳格そうな老人が偉そうに座っていて、カルディアがその周りを固める黒服たちに取り押さえられていた。
「えっと……お爺ちゃん?」
続いて入ってきたアリスが、老人を見て目を丸くする。
怒りの表情を浮かべていた老人は、アリスを見るなり涙を流して駆け寄ってきた。
「おお、アリスよ。無事でよかった。薄汚い人間どもに誘拐されたと聞いて心配したぞ。その小僧が犯人じゃな。ものども、八つ裂きにせよ!」
「はっ!」
黒服たちが、ロビンを拘束する。彼らは良く見ると鋭い牙と爪を持ったオークたちだった。
「ロビン……お前は何やったんだ?竜王ティラノ様の孫娘、竜王女アリス様を誘拐だなんて」
カルディアが恨めしそうな目をして聞いてくる。
「竜王女だって?」
ロビンがアリスを見ると、彼女は慌てて弁護してくれた。
「まって!お爺ちゃん。私は誘拐されたんじゃないの。人間国ってどんなところかなと思って、遊びに来ただけなの。ロビンは案内してくれただけよ!」
「じゃが……」
「お願い。離して!じゃないと嫌いになっちゃうから!」
最愛の孫からそういわれ、ティラノはしぶしぶ命令する。
「その者たちを離せ」
それを聞いて、オークたちはカルディアとロビンを離した。
(竜王だって?とんでもない大物が出てきたな。だけど、これはチャンスかも。これをきっかけに、わが領と貿易ができれば)
そう思ったロビンは、竜王ティラノの前に進み出て頭を下げた。
「知らぬこととはいえ、ご無礼いたしました。改めて名乗らせていただきます。このフード領の嫡男、ロビンと申します」
竜王ティラノはロビンをちらっと見るが、鼻で笑って無視する。
「アリス。帰るぞ。それから二度とここに来てはならん」
「えーっ?チーズケーキとかもう食べられないの?」
残念そうな顔をするアリスを見て、ロビンは餌付けにかかる。
「美味しいものはそれだけじゃないよ。ティラノ様、これも何かのご縁でございます。我々が催す宴を受けていただけませんでしょうか?」
「断る。貴様たちの先祖、タゴサクは我が先祖の竜王を魔王の鎌で切り裂き、重傷を負わせた。そのような仇の宴など……」
「ならばなおのこと、先祖の罪滅ぼしをさせていただきたいとおもします。この100年で、我が領地では新しい食物を開発してきました。きっと中にはお気に召すものもございましょう」
グイグイと迫ってくるロビンに、さすがの竜王ティラノも辟易する。
「変わった奴だな。ワシが怖くないのか?」
「恐れ崇めております。だからこそ礼を尽くさせていただきます」
ロビンが殊勝に頭を下げると、ティラノは根負けしたようにうなずいた。