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小さな親切大きな下心

茶店に入ったロビンは、冷たい牛乳を飲んで一息つく。

「お待たせいたしました。チーズケーキでございます」

「やった。これが美味いんだなよな」

運ばれてきたチーズケーキを食べていると、不意に声をかけられた。

「ねえ。その黄色い塊ってなんなの?」

気がつくと、帽子をかぶった金髪の美少女が興味深そうに覗き込んでいた。

「これはチーズケーキという。この土地で開発された新製品さ。牛乳を発酵させて作ったレアチーズを使ったケーキさ」

「発酵?」

彼女はなんだかわからないという顔になった。

「君はどこからこの町に来たんだい?」

「え、えっと……その……」

少女は困ったように挙動不審になる。着ている者は上質のワンピースだったので、どこかの貴族がお忍びで観光にきたんだなとロビンは見当をつけた。

「おじさん。この子にチーズケーキを!」

ロビンのおごりで注文する。

「いいの?」

「かまわないさ。興味をもったら、ご両親に報告してくれ。フード領と取引をすれば、こんな美味しいものが食べられるってね」

ロビンはにやりと笑う。機会あればこうして営業をかけようとするのは、地方貧乏貴族の悲しい習性だったが、この時の彼はこのおごりがとんでもない災いをフード領にもたらすことになるか、想像もしていなかった。


一ホールを丸ごと食べた美少女は、満足そうにお腹をさすりながらつぶやく。

「美味しかったー!」

「それはよかった。ところで君の名前は?どこの領地から……」

個人情報を聞き出そうとした時、店の奥が騒がしくなった。

「どうしたんだろ?」

ロビンが首をかしげていると、厨房から声が聞こえてきた。

「ここに姫が入ったと聞いた!隠すとためにならんぞ」

それを聞いたとたん、対面に座っている美少女があわててロビンの手をつかむ。

「まずい。逃げよう!」

強い力でロビンを引っ張ると同時に、奥から黒い服を着た屈強な男たちが現れる。

「姫!お待ちを!」

「いくよ!」

ロビンは訳がわからないまま、美少女にひっばられて店から逃げ出すのだった。


「はあはあ……しつこいなぁ」

フンボルトの町を走り回って自分を探している黒服たちから隠れながら、美少女がつぶやく。

「……ねえ。姫ってなんなの?それになんで俺まで……」

「だまって!」

何か言おうとしたロビンの顔を、胸に抱え込んで黙らせる。柑橘系のさわやかな香りが漂ってきた。

「ふう……もういいよ。あっちに行ったみたい」

美少女はようやくロビンの頭を離す。解放された彼の顔は真っ赤に染まっていた。

「君の名前は?」

「ロビン」

「ロビンか。いい名前だね。ボクはアリス。ちょっと変なストーカーに目をつけられて、逃げ回っているんだ」

アリスはしれっと言う。

「ストーカー?でもあの人たち、君の事を姫って……」

「ストーカーなの!」

アリスは無理やり話を終わらせると、ロビンの手をとった。

「君はこの町に詳しそうだね」

「え?ま、まあ。一応領主の……」

「そっか。領主に仕えている使用人なら、町に詳しくて当然か」

アリスはうんうんと頷くと、ロビンに頼み込む。

「ボクは人間の町に来るの初めてなんだ!あいつらに捕まらないように、かくまってよ」

にっこり笑いながら手を差し出してるアリスに、ロビンは苦笑しながらその手を取った。

「はいはい。お姫様。エスコートさせていただきます」

こうして、少年は少女に出会った。


ロビンはアリスを探している黒服たちから身を隠しながら、アリスにフンボルトの町を案内する。

「すごい!美味しい!これなんという食べ物なの?」

細長い紐みたいなものが茶色いスープに入っている食べ物をすすりながら、アリスが聞いてくる。

「ラウメンという食べ物だよ。ご先祖様が作ったわが領の特産品だ」

ロビンは自慢する。

「ここって本当に食べ物が豊かなんだね」

「まあ、それしか取り柄が無いというか……」

無邪気に喜ぶアリスを見ながら、ロビンは腹の中で思う。

(姫ってことは、最低でも侯爵以上の家の子女だよな。ここでアピールして、うちの商品を買ってもらえれば……少々痛い出費ただけど、将来の投資みたいなもんだ。おごってあげよう)

そんな打算混じりの好意に気づかず、アリスははしゃぎまくる。

「こんなに自由に遊んだの初めて!ねえねえ、もっと面白い所につれていって!」

「いいよ」

ロビンは近くの平原に連れて行く。そこではたくさんの馬がのんびり草を食べていた。

「可愛い!」

アリスは目を輝かせて馬をなでる。たくましい馬は、暴れもせずにおとなしく撫でられていた。

「おや?お坊ちゃん?」

「しーっ。今日はお忍びの接待だから。あの子を馬に乗せてあげようと思う。一番おとなしい馬を……」

ロビンがそこまでいった時、突然アリスが撫でていた馬に飛び乗る。

「ま、まってください。そいつは群れのボスで、気性が激しくて……」

牧場主の言葉が小さくなっていく。なんとアリスは鞍も鐙もつけてない裸馬にのって、全力疾走していた。

「あ、危ない。怪我でもさせたら……」

ロビンは心配するが、馬は完璧にアリスの言うことを聞いて見事な走りを見せる。

「アリスって何者なんだ?貴族の令嬢に裸馬乗りこなす人っているのか?王都のエリート騎士にもそんなやつはいないぞ」

ロビンは嬉しそうに馬に乗るアリスに驚いていた。


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