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エルウィンの末路

王都

宰相であるスイート子爵の元に、伝書鳩での連絡がはいる。それはアンデットの襲撃とネズミの大発生により、バーミンガムの町が孤立しているので救援をよこしてほしいというものだった。

「救援か……どうするべきか」

スイートは悩む。ただでさえ以前の大損害により、王国軍は再建中である。またビクトリア領に出兵するなどということは、国王が認めない可能性もあった。

「それに、軍が出てきて色々調べられたら、ビクトリア地方に不当な税をかけていたのがバレてしまうかもしれぬ」

一応身代わりのつもりで経験不足な少年てあるエルウィンを代官として置いて、彼に重税を集めさせることでスイート子爵は利益を得ていたのだが、軍隊が出動するような大事になってしまったらエルウィンを代官に任命したスイートまで責任を問われるかねしれない。

「奴らが集めた財貨はすでに王都に運んでいるので用済みだ。ならば、この状況では助けに行っても自分の身を危うくするだけだろう。無視しよう」

こうして、スイートはバーミンガムを見捨てるのだった。


それから一週間後

何度伝書鳩で救援要請しても援軍が来ることがなく、バーミンガム城は絶望に包まれる。

料理人も使用人も役人も騎士たちも、もはや区別なく飢えによって餓死していく。

そして地下牢の奥では、一人の少年が蹲っていた。

「お腹がすいた……」

ひたすら毛布に噛み付いて飢えをごまかしているのは、前宰相の息子エルウィン。

もともと線の細い貴公子だった彼は、今では骨と皮ばかりのミイラのようになっていた。

「なんでこんなことになったんだ……代官なんて引き受けなければよかった。スイートの奴め!」

スイート伯爵にそそのかされ、バーミンガムの代官に就任してしまったことを心底悔やむ。

表面的な出世に釣られたせいで、王都で魔法学校に通っていた頃には想像もできないほど苦しい思いをすることになってしまった。

「これというのも……あの女、ピーチが悪い。もともと僕はフード領にもビクトリア領にも何の関係もなかったんだ。あいつが僕を巻き込んだせいで、父上も死んだ、絶対に許さない……それに王子もだ!あのバカ王子め!」

延々とピーチや王子に対する恨み言をつぶやくが、そんなことをしても空腹は収まらない。

エルウィンは震える手で、床に落ちていたあるものに手を伸ばした。

「これしか……食べるものはないのか……」

エルウィンは、半ば腐ってすさまじい匂いをしている茶色い塊を手に取る。

そして目をつぶると、一気にかぶりついた。

「旨い……ネズミってこんなに旨かったのか……」

ロビンが掛けた『呪い』に犯され、茶色に変色しているカースレミングの死体をむさぼり食う。

その姿は以前の貴公子のものではなく、地獄で苦しむ餓鬼そのものだった。


バーミンガムを取り囲んでいたアンデットの集団の呪いが解けて、元の人間に戻っていく。

「あれ?あたいたちは何をしていたんだ?」

元に戻ったコノハが辺りを見渡すと、アンデットの集団の中にいた。

「な、なんだよ!あれ?」

警戒するコノハだったが、彼女の目の前でアンデットたちは人間に戻っていった。

「これは……まさか、あのロビンとかいう奴の仕業なのか?」

コノハは思い出す。最後の記憶は、ロビンに黒い鎌で傷つけられたものだった。

「あいつ……あたいたちにアンデットの呪いをかけたんだ。だけど、どうして元に戻ったんだろう」

考え込んでいたコノハの腹が、グーっと鳴った。

「くっ……なぜだか腹が減ったぜ。なんか食べるものはないかな」

そう思っていると、いい匂いが漂ってる。

「お前たち、よくやってくれた。お腹がすいただろう。さあ、腹いっぱい食べてくれ」

少し離れた所に、大勢の人間が陣を敷いている。

大きな鍋にたくさんの具が入った黄色いシチューみたいなものを作っているのは、ロビンとその配下の騎士たちだった。

「てめえ!あたいたちに何をした!?」

「話は後だ。まずはバーミンガム占領の前祝いといこう。取り合えず、腹いっぱい食べて落ち着け」

ロビンが明るくわらいながら、コメの上に黄色いシチューをかけたものを手渡してくる。

「くっ……うまそう……なんだこれ?」

「『カレエ』というシチューだ。亜人国から取り寄せた香辛料が入っているから、うまいぞ」

明るく笑っているロビンに毒気を抜かれたコノハたちは、おそるおそる食べてみた。

「旨い。だけど辛い!」

「そうだろう。いやー、亜人国と交流できてよかったよ。我が先祖タゴサクがこよなく愛したという伝説の料理が再現てきた」

ロビンや騎士たちは、義勇兵と一緒になってカレエを食べている。腹がいっぱいになると、ロビンは今回の作戦を義勇兵に説明した。

「あたいたちをアンデットにして、街を囲ませる。すると奴らは恐れを感じて街から出てこなくなるから、呪いがついたネズミを送り込んで兵糧攻めにしただって?」

コノハたちは、えげつない作戦に引いてしまう。

「俺の頭じゃ、これ以外に味方に犠牲を出さずに勝つ方法が思いつかなかった。お前たちを利用してすまない」

ロビンは殊勝に頭を下げる。最初は怒っていたコノハたちも、誰も死んでないと知ってしぶしぶ納得した。

「それで、うまくいったのかい?」

「ああ。偵察したところ、バーミンガムの街は全滅している。これ以上戦う必要はないぞ」

ロビンはそういいながら、義勇兵たちに報奨金を与えて村に戻るように伝えた。

「ここから先は、俺たち貴族や騎士たちの仕事だ。お前たち平民が見るものじゃない。お前たちは充分戦ってくれた。後は俺たちに任せろ」

それを聞いて大部分の兵士は喜んだが、コノハたち一部の者は反対した。

「冗談じゃない。あたいたちの家族を殺した奴らに復讐を果たすまでは、村に帰らないと決めたんだ。せめて、どうなったかぐらいこの目で見て確認しないとな」

そういっててこでも動こうとしない。

ロビンは諦めて、コノハをはじめといる同行を希望する義勇兵を浮け入れた。

「さあ、いくぞ」

城壁にはしごを掛けて、街内に侵入して門を開ける。

中に入ったコノハたちは、町中に広がる光景に絶句した。

「こいつら……いったい何があったんだ?」

街の中は、無数に屍が広がる地獄のような有様だった。

どの死体も餓鬼のようにやせ細った上、茶色に変色している。

「兵糧攻めをしたんだ。奴らは食べるものがなくなって、とうとう呪い付のレミングの死体を食べたんだろう」

ロビンは呆然とつぶやく。呪い付のレミングは単に食料を減らす道具ではなく、最後のトドメをさす毒でもあったのである。

「あたいたちの村を襲った奴らは、苦しんで死んでいったのか」

「ああ。納得いかないだろうけど、これで矛を収めてくれ。まともに戦ったら、何人死ぬか分からないからな。味方に犠牲を出さないようにするためには、こうするしかなかった」

沈痛な表情を浮かべているロビンを見て、コノハは気づく。

(この人は……本当は戦いなんて好きじゃないんだ。あえて非情に振舞っているのも、それが結局は味方の犠牲を少なくするため。そして民を守るため)

そう思うと、自然に尊敬の念がわきあがって来る。

(決めた。あたいはこの人を支えよう)

悲しげなロビンの顔をみながら、コノハは決心するのだった


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