義勇兵団
フード公国 フンボルト
領主の館で、ロビンは辺境の村代表のコノハと対峙していた。
「そうか。市民だけではなく、とうとう領民にまで手を出してきたのか」
「お願いだよロビン様。マリアンヌ様に会わせて。あたいたちを率いてもらって、奴らに復讐するんだ!」
コノハはロビンに頼み込む。
しかし、彼はゆっくりと首を振った。
「残念だけど、今のマリアンヌはビクトリア家の子女じゃなくてフード公国の王妃だ。無用な戦乱には巻き込みたくない」
「なんでだよ!私たちは領民でしょ!」
そう訴えかけるコノハを、ロビンは冷たく突き放した。
「君たちは公国の民じゃない。人間国の民だ。なぜ他国の俺たちにに救う義務がある?」
そういわれて、コノハは黙り込む。
「なら、どうしたら助けてくれるんだい?」
そういわれて、ロビンは考えた末に一通の誓約書を差し出した。
「服従誓約書だ。旧ビクトリア領の村は、すべてフード公国に所属を変更して税を納め、若者を兵士として差し出せ。各村の村長全員の署名と徴税に必要な村の人別台帳などすべての資料を提出しろ」
「でも、そんなことをしたらあたいたちたまで反逆者になっちゃう」
躊躇するコノハを、ロビンは一喝する。
「甘えるな。守って欲しければ義務を果たせ。お前たちが公国に忠誠を誓うまで、俺は指一本たりとも動かす気はない」
厳しいことを言われ、コノハは下を向く。
「……わかったよ。各村の長老たちに相談してみる」
コノハはすごすごと領主の館から去っていった。
それを見て、控えていたジョンが同情する。
「かわいそうではありますな。バーミンガムの代官に絞り上げられ、我らを頼ったら拒絶される。彼らを助けてやればよいのでは?」
それを聞いたロビンは、ふんっと鼻で笑う。
「かわいそうなものか。したたかな村の連中は、俺たちを焚きつけて王国と戦わせようとしている。勝った方につくつもりだろう」
「まさか、そんなことはないでしょう」
ジョンは否定するが、ロビンは首を振る。
「あんな小娘を使者によこしてきたことがその証拠さ。エルウィンが勝った場合、彼女が勝手に俺を焚きつけたとして生贄にするつもりなんだろう。だが、そんな日和見なことは許さない。俺たちの力を借りたいなら、何があっても最後まで運命を共にしてもらおう」
そういうと、ジョンに命令する。
「騎士や兵士の準備をしておけ。場合によっては、バーミンガムに攻め込む」
「はっ」
ジョンは敬礼して命令を受け入れるのだった。
フード公国を追い出されたコノハは、ビクトリア領辺境の村に帰ってロビンから出された条件を伝えた。
「納税と徴兵か。あのフード領の若造が。思い上がりおって」
辺境地帯に位置する村の長老たちは怒りの声を上げる。彼らにとってみれば、ロビンは貴族とはいえ格下の領の田舎者に過ぎない。そんな若造が上から目線で命令してくることに怒りを覚えた。
「こうなったら、俺たちだけで一揆を起こそう」
そう提案する村長もいたが、コノハは首を振った。
「だめだよ。そうなったらあたいたちは全滅さ。もしバーミンガムの代官と戦っているときに、後ろからフード公国に攻められたらどうする?あたいたちは挟み撃ちにあって全滅するかも」
「……そうだな」
それを聞いた村長たちは、悔しそうに頷いた。
「ここはどっちかを選ぶしかない。代官に降伏してすべてを蹂躙されるか、フード公国に服従するか。あたいは我慢して奴に仕える。その代わり、やつらにもきっちりあたいたちを守ってもらおうと思う」
「仕方がない」
コノハの説得により、村長たちも服従誓約書にサインをする。
「コノハ、お前が俺たちの代表になって、義勇兵をまとめてくれ。もし奴らが掌を返して俺たちを攻める場合は、反乱を起こして奴らを追い払え」
「わかったよ」
こうして、コノハを代表とする村人たちの義勇兵団が結成されるのだった。
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