暴徒
バーミンガム城壁外
王都からきた者たちが集められている。彼らは兵士たちに追い立てられ、しぶしぶ城壁外にやってきていた。
「俺たちに何をさせるつもりなんだ?」
「酒は出るんだろうな」
ここしばらくタダ飯にありついていた彼には、すっかり働きもせずに生活することに慣れていた。
そんな彼らを城壁から見下ろし、エルウィンが告げる。
「こほん。代官のエルウィンである。お前たちは税も払わずこの町に居座っていた。今までは大目に見ていたが、これ以上役立たずたちを養う気はない」
城壁の上からエルウィンに切り捨てられ、元スラム民たちは反発した。
「ふざけんな。税を払わなくていいっていってたじゃねえか!」
エルウィンは冷たく笑って抗議をはねつける。
「宰相様の命令で、倍は厳格に徴収すべきと方針が変わったのだ。市民として認めてもらいたければ、一人頭100万マリスの住民税を払え」
エルウィンが手を上げると、兵士たちが一斉に剣を抜いてスラム民たちに突きつけた。
「税を払わぬ者たちは、二度とバーミンガムへは入れない。このまま流民として、どこへでも行くがいい」
それを聞いてスラム民たちは真っ青になった。
「おい、家や土地をくれるからといって王都から連れてきておいて、それはないだろう!」
「バーミンガムの市民を監視していれば、他には何もしなくていいはずだったじゃねえか!」
わめくスラム民たちを無視して、エルウィンは城内に戻っていった。
「そんな。俺たちはどうすればいいんだ」
嘆き悲しむスラム民たちに、兵士がそっと告げる。
「金を稼いでくればいいのさ」
「だが、どうやって?」
「金がないなら、ある奴らから奪えばいいだろう」
そういって兵士たちは、領内の村の地図を渡す。
「奴らから金を奪えば、正式なバーミンガムの市民になれるぞ」
それを聞いて、スラム民たちも覚悟を決める。
「仕方ねえ。どうせこのままでものたれ死ぬだけだしな」
「こうなったらやってやる。米粒一つも残らないほどに略奪してやるぜ!」
スラム民は暴徒となってビクトリア領の各村に向かうのだった。
コーデ村
ビクトリア領に比較的近くて大きな村である。人間国の食料庫となっているビクトリア領の中でも特に豊かな村だった。
しかし、村長は最近の物騒な世相を憂いて、それなりに武装して山賊から村を守っている。
村に雇われた警備兵が見回りをしていると、バーミンガムのほうから大量の人間が街道を通ってやってきた。
「止まれ!お前たちは何者だ!」
警備兵がふしんに思うのも無理はない。やってきた人間は全員が目を血走らせ、思いつめた顔をしていた。
「うるせえ!金をよこせ!」
いきなり集団で警備兵に襲い掛かり、情け容赦なく始末する。
「て、敵襲だ!山賊が来たぞ!」
あわてた警備兵たちが必死に応戦するも、多勢に無勢の上、山賊たちの勢いはすさまじかった。
倒されても倒されても後からやってくる。
「金をよこせ!」
そうわめき散らす暴徒たちを見て、村長は娘のコノハに告げた。
「これは駄目だ。話が通じそうにない。コノハ、お前は村の女子供と一緒に、地下室に隠れていろ!」
「父上、あたいも戦う!」
ポニーテールに小柄な体格の少女コノハは必死に父に訴えるが、頬を張られてしまう。
「バカ者!お前ごときが戦えるものか!女のお前の役目は戦うことではない!生き残って子を産み育てることだ!」
村長はそう告げると、無理やりコノハを地下室に閉じ込める。
「いくぞ!俺たちの村を守るんだ!」
「おう!」
村長は男たちを率いて戦うが、善戦むなしく戦いの中で命を落としてしまう。
しかし、彼らの奮闘のおかげで、戦えない老人や女子供は無事に地下室に逃げ込むことができた。
ついに村の防衛線が破られ、暴徒たちが進入してくる。彼らは村人を虐殺し、家を焼いて財貨を奪った。
「やったぜ!」
村人たちがためていた財産を奪った暴徒たちは歓声をあげた。
「金や物は手にいたが、女や子供はいたか?」
「いや、見つからない。大方どこかに隠れているんだろう。だが、ほうっておけ。構っている暇はない。他の村も襲って、税を稼がないと」
暴徒たちのリーダーが、命令を下す。
「食料と金だけもって撤収だ。隣のオルサング村に行くぞ」
彼らはまるで蝗の群れのように、バーミンガム周辺の村々を略奪しつくすのだった。
「よし、帰るぞ」
村から奪った財貨を馬車に積んで、彼らはバーミンガムに戻っていく。
閉じられた城壁門の前に奪った財貨を積み上げると、門はあっさりと開いた。
「お前たち、よくやった。これで正式な兵士として認めてやろう」
代官エルウィンは、暴徒たちに褒美を出し、その地位を認めるのだった。
その光景を遠くからみている少女がいる。
「許せない。あの代官が暴徒たちをけしかけたのか。父ちゃんの仇。絶対にこの手で殺してやる」
ポニーテールの少女は復讐を誓うと、暴徒たちに襲われた村の生き残りを統率してバーミンガム周辺から離れるのだった。
暴徒たちが略奪した村で、生き残った女子供、老人たちは、傷つきつかれきった体に鞭を打ってバーミンガムから離れたフード公国に近い辺境の村にたどり着く。
避難民たちを率いていたコーデ村の村長の娘、コノハから話を聞いた辺境の村人たちは、恐怖に震えた。
「コノハ、どういうことなんだ。バーミンガムに近い村が暴徒に襲われるだなんて。代官様は守ってくれなかったのか?」
「父ちゃんを殺したあいつらに仕返ししようと、後をつけていったら、あいつらバーミンガムに戻っていったの!あたいたちから奪った財貨を出したら、代官は門を開いたわ!」
それを聞いて、辺境の村々の村長たちは頭を抱える。
「まさか我々にまで手を出してくるとは」
彼らも王国軍がバーミンガムで行った非道は知っていたが、まさか国を支える穀倉地帯である周辺の農村にまで手を出すとは思ってかったのである。
「今の代官、エルウィンは所詮王都育ちのよそ者。ビクトリア辺境伯様のように。あたいらを身内扱いはしてくれないわ!あたいたちを奴隷か金蔓としか思ってないのよ!」
コノハの必死の訴えに、今まで田舎でのんびりと暮らしていた村長たちも危機意識を募らせていく。
「だが、そのビクトリア家も滅んだ。我々はどうすればいいんだ」
「滅んだ?いいえ。まだフード領にマリアンヌ様がいるわ!彼女こそがあたいたちのご主人様だよ!」
それを聞いて、村長たちもうなずく。
「わかった。使者としていってもらおう。我らを助けてくれとな」
村長たちに依頼され、コノハはフード公国に赴くのだった。
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