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アンデッド

バーミンガム

ほうほうの体で逃げ戻った兵士たちは、バーミンガム領主代行エルウィンに詰問される。

「たかがフード領の奴らに蹴散らされたのか!」

「申し訳ありません。奴らは妙な武器を使っていまして……かすり傷を負っただけでも激痛が走り、まともな戦いにならなかったのです」

傷だらけになった隊長が弁解するが、エルウィンは怒鳴り挙げた。

「ええい!無能者たちめ!貴様たちは今日から町内警備に格下げだ!」

がっくりと肩を落とした隊長と兵士が去った後、側近の官僚たちが指示を求めた。

「やつらがここまで攻めてきたらどうなさいますか?」

側近の騎士の質問に、エルウィンは首を振る

「どうもしないさ。どうせ奴らは大した兵力も持ってないだろう。このバーミンガムは高い城壁に囲まれた堅固な城塞都市だ。中から門を開かないかぎり安全だ。城門を閉ざして立てこもれ」

エルウィンの命令は速やかに実行され、バーミンガムは門を閉じて立てこもる。それこそがロビンの思惑どおりだった。

数時間後、東西の門が閉ざされた町の中では、ある兵士たちの集団が場末の居酒屋で騒いでいた。

「くそっ!代行様は俺たちの苦労をわかってくださらねえ!フード領の奴らは卑怯な戦いをする悪辣外道な悪魔なのに!」

「そうだそうだ。そんな奴らと戦わされる俺たちの気持ちがわかってたまるか!」

不満をぶちまけているのは砦を守っていた兵士たちである。彼らは傷を負った上、左遷されてプライドを傷つけられていた。

「まあまあ、考えようによっては良かったかもしれねえぜ。安全な城壁の中でまったりすごせるんだから」

「だけど、給金が減るからなぁ。せっかく稼ぎ時だと思って、スイート領から来たのに」

そうぼやく同僚に、ひときわ凶悪な顔をした兵士がささやく。

「自分で稼げばいいんだよ」

「どうやって?」

「外で話そう。さすがにここじゃあな」

兵士たちは頷きあい、酒場から出る。バーミンガムの町はかなり開けた都会で歓楽街も作られていたが、エルウィンの悪政によりすっかり景気が悪くなり、人影もまばらだった。

兵士たちの一団は比較的富裕な住民たちが多く住む住宅地に向かう。

「こんな所につれてきて、何をするつもりだ?」

「決まっているだろう。押し込み強盗さ」

凶悪な顔をした兵士は、にやりと笑ってある豪邸を指差す。

そこはこの町の鍛冶屋を支配する親方の館だった。

「おいおい、いくらなんでも……」

「びびっているのか?この町は俺たちのものだ。俺たちは何をやってもいいんたよ」

凶悪な顔をした兵士はそうわめくと、包帯を巻いている腕をギュッと押さえた。

「くそ……傷が疼く。なんで俺がこんな目に……」

「落ち着けって」

周りの兵士が押しとどめようとするが、その兵士はますます興奮してわめきだした。

[グルルル……漲ってきた!今の俺は無敵ぃ!逆らうものは全員殺してやるう!」

そんな風に騒いでいたので、豪邸から筋骨隆々として親父が出てきた。

「うるせえぞ!てめえら人の家の前で何やってやがる!」

強そうな親父に怒鳴りつけられ、さすがの兵士たちも萎縮する。

「す、すまん。ほら、もういくぞ!」

騒ぎ立てる兵士を引きずってその場を去ろうとするが、強い力で振り払われた。

「さわるんじゃねえ!グルルルルル……!」

うなり声をあげる兵士が白目を剥いていき、肌が茶色になっていく。

「こ、これはなんだ!まさかアンデット化?」

「グルッ!」

動揺する同僚と親父に、アンデットと化した兵士は飛びかかっていった。

「や、やめろ!ぐっ!」

襲い掛かられた兵士は、アンデットと化した兵士に瘴気を吹き込まれ、自らもアンデットと化していく。

やがて住宅街の一角に、アンデットの集団のうなり声が響き渡るのだった。


次の日

バーミンガムの外で様子を伺っていたロビンは、城壁の中から響いてきた大勢の悲鳴を聞く。

「始まったな」

「い、いったい中で何が起こっているのでしょうか?」

不安そうな顔になるジョンに、ロビンは説明した。

「この『腐り鎌』は魔王の使っていた呪われた武器。これで傷つけられた者は、呪いを受けてアンデットになってしまうのさ」

「そ、それではバーミンガムの民はどうなるのです!」

顔色を変えて詰め寄るジョンだったが、ロビンは平気な顔をしていた。

「大丈夫だ。アンデット化の呪いを薄めて、代わりに感染力を強めておいた。数日もしたら元の人間に戻る。アンデットしている間は不死身だから、死ぬこともないしな」

それをきいて、ジョンたちも少し安心する。

「そのうち、アンデットと化した住人が出てくるだろう。俺たちは彼らを連れて、フード領に戻るぞ」

「はっ」

騎士たちはバーミンガムの町の周囲で待機するのだった。


バーミンガム

その日、エルウィンは昼間で惰眠をむさぼっていた。

「ふわぁ……眠い、だけど腹が減った」

しぶしぶ起きて、食事の支度を命令する。

ここしばらくの美食と怠惰により、以前の線の細い知的な風貌が失われ、すっかり緩みきった顔と体になっていた。

昼食後、新たに奴隷にされた女たちを検分するために城外の収容所に向かう。そこには何人もの鎖で拘束された美女が集められていた。

。彼女たちは虚ろな顔をして、エルウィンの前に並ばされる。

「お前たちは税を支払わなかっり犯罪を犯したりした者たちである。よって奴隷として売られる。だけど……」

エルウィンは好色そうな顔になって告げた。

「今日、僕の相手をしたら、慈悲深い奴隷商人に買ってもらう。そうすれば、王都に送られず、このバーミンガムで働くことができるうようになるぞ」

それを聞かされた美女たちは、泣きながらエルウィンに訴えかけた。

「な、なんでもします。ですから王都のスラムに売られるといったことだけは勘弁してください」

「うふふ……それはお前たち次第だなぁ」

調子にのったエルウィンは嗜虐的な笑みを浮かべるが、一人だけ無表情な女に気づく。

茶色の肌をした彼女はここに連れてこられるまでの間何かあったのか、目も虚ろでよく見たら服も汚れていた。

「なんだあの女は」

「はっ。通行人に暴行を加えたということで、連行してきたのですが」

彼女の鎖を持つ兵士も気味悪そうにしている。

「……その女はいらない。牢に戻せ」

「はっ」

女が連れて行かれようとした時、いきなり女は兵士に襲い掛かった。

「グルルルル……」

「な、なんだこいつは!」

兵士は押し倒され、黒い瘴気を吹き込まれる。すると、その兵士までうなり声を上げだした。

「アンデットだ!」

周りの兵士たちが手をこまねいているうちに、女と兵士は周囲の人間に襲い掛かり、どんどん数を増やしていく。

「ひ、ひいっ!」

立ち尽くしていたエルウィンも、アンデットたちに襲い掛かられ、恐怖の悲鳴を上げた

「代官様、お逃げください!」

なんとか護衛の兵士が引き離すも、アンデットたちは次々と襲い掛かってくる。

「に、逃げろ!城に立てこもるんだ!」

エルウィンと配下の役人たちは一目散に城に逃げ帰り、城門を閉ざすのだった。


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