開拓
ロビンは亜人の代表であるロッシュとアリスを執務室に招き入れる。
マリアンヌが作ったジュースを飲んだロッシュは、少し機嫌を直した。
「これは……甘くてすっきりした飲み物だな。なんなんだ?」
「ふふ。双眼リンゴの果実を絞ったジュースよ。お代わりをどうぞ」
マリアンヌは応接室の籠の中から赤いリンゴを取り上げて、鋭い刃がついた透明な筒の中に入れる。
すると、リンゴにつぶらな二つの目が現れ、命乞いをするように瞬きした。
マリアンヌはそんなリンゴを無視して、筒についているハンドルを回す。筒の上部についていた回転する刃が、リンゴをすりつぶして赤い体液をあふれさせた。
「さ、どうぞ」
「……俺はいい」
ロッシュは食欲をなくした顔をしてお代わりを遠慮した。
気まずくなった雰囲気を変えるため、ロビンは仕事の話をする。
「と、とりあえず、まず一番大事なことは、このフード公国と亜人国の各集落の道を作ることだと思うんだ」
地図を広げ、シャーウッドの森を横切って亜人国方面に流れている川を指差す。
「この川沿いだに広い道を作れば、フード公国まで商人が簡単にこれるようになるだろう。そうやって貿易を活発化させたい」
「だが、どうするんだ?樹を何百本も切らないといけないぞ。何年もかかる大工事だぞ」
ロッシュはうんざりした顔になるが、ロビンは心配ないと笑った。
「任せておけ。ついでに亜人国の材木商に声を掛けておいてくれ。大量に木を売り出すといって」
ロビンの顔には自信があふれていた。
シャーウッド川
豊富な水量を誇る大河で、シャーウッド湖から穏やかな流れが亜人国方面に流れていた。
右側は起伏が激しい丘が続いているが、左側はなだらかな傾斜が続く森となっている。
「それで、どうするんだ?」
川岸にはロッシュ率いる亜人国から派遣された若者たちが集まっていた。
「木材商人には声を掛けたか?」
「ああ。お前の言うとおり、下流の河口付近で待機させている」
「結構。今から川沿いの森を切り開くから、伐採した木を川岸で組み立てて筏を作ってくれ」
ロビンはそういうと、大きな木がびっしりと生えている森にはいる。
そして、「腐り鎌」を巨木の根元に差し込んだ。
「倒れるぞー。気をつけろ」
見る見るうちに根は枯れていき、木を支えきれなくなって川岸に向かって倒れる。
それをロッシュたちは呆然と見ていた。
「さあ、どんどん行くぞ」
ロビンは次々に木を切り倒し、ロッシュたちは慌てて木を川に流していく。その木を下流にいた商人たちが回収していった。
一日が終わるころには、かなりの範囲の森が切り開かれ、平坦な場所に変わっていた。
「……人間の癖に、なかなかやるな」
ロッシュは少しロビンを見直す気分になる。
道の作りやすい川沿いを選んでルートを決め、川を利用して伐採した木を処分する。ついでに材木を商人に売れば利益がでるのである。
「だけど、道を作るだけなら、そこまで広い場所はいらないんじゃないか?」
そんな疑問にロビンは苦笑して答えた。
「ティラノ陛下は町を作れっていっただろ?ついでにシャーウッドの川沿いに細長い町を作ろうと思ってね」
「なんでわざわざ川沿いに作るんだ?」
「川を利用して船で物資を運んだら、流通が活発化するだろう?」
それを聞いてロッシュは納得した。
「ティラノ陛下がお前を引き入れたのは、あながち間違いではなかったかもな。人間の合理的思考というものからは、いろいろと学ぶことがありそうだ」
感心したロッシュは、ロビンに協力する気になる。それから二人が協力した結果、一ヶ月で街道が完成するのだった。