ロビンの憂鬱
「しかし……そのせいで私は婚約破棄されて大恥をかきました。もはや私の所に嫁に来ても良いという奇特な貴族令嬢はいないでしょう」
「むっ。ま、まあ、確かにそれは少々腹が立つが、事を荒立てても仕方あるまい。心配するな。いっそ平民と結婚するというのはどうだ?たとえばアコリルなどとかな」
カルディアは好ましそうについてくる美少女メイドを見る。
「そ、そんな。お館様。私ごときが……」
アコリルはそういいながら、期待がこもった目でロビンを見る。
しかし、ロビンは黙って首を振った。
「そんなことをしたら、完全に貴族社会でつまはじきにされて、我が領の産物をどこも買ってくれなくなりますよ」
「うむ……」
カルディアは困った顔をする。
そしてアコリルは残念そうな顔をしていた。
「ま、まあ、まだお前は若い。また良き縁談を紹介してくれるように、ビクトリア辺境伯様にお願いしてみよう。はっはっは」
そんな気楽な父にロビンは呆れてしまう。たとえ数ヶ月とはいえ王都にいた彼は、最近の軽薄な風潮について父よりも良く知っていた。
国の基となる農業や、品物を作り出す工業に従事するものを馬鹿にし、投機や投資で荒稼ぎしたり利権で富を得ることを崇める者が増えていた。
(今はいい。亜人国も魔人国も不当な関税をかけられ、馬鹿みたいな高い値になっているわが国の農作物を買ってくれている。だが、いつまでそれが続くだろうか……)
100年前に召喚された勇者は、圧倒的な力で魔王や竜王を打ち倒し、彼らの一族にに屈辱的な条約を結ばせた。
(だが、勇者はすでに老いてこの世にいない。果たして人族、それも一部の者だけがすべての富を集めているような状況が長く続くだろうか)
ロビンはこうして現在の世相を嘆くが、所詮辺境の男爵家の小僧にできることはない。
考え込むロビンを、アコリルは冷たい目で見ていた。
(所詮、彼に忠誠を尽くしていても報われないのね。だったらこの辺境の地にいる意味はないわ。貴族になれないんじゃ、いつまでもこんな田舎臭いところにいられない!)
黙り込む二人を見て、カルディアが声を掛ける。
「ほら。いつまでも難しい顔をしてないで、マスクをしろ。肥料処理場についたぞ」
ガルディアに声をかけられたロビンは、慌てて布で鼻と口を覆う。日当たりのいい屋外に作られた処理場には、何百も穴が掘られていて、その中から奥深い臭いが漂ってきていた。