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フード公国建国

フード領

王都で戦勝会が行われていたころ、フード領都フンボルトでは後始末が行われていた。

「『腐敗』」

ロビンは領都フンボルトの町、そして山蛇の道に倒れている膨大な数の死体に『腐り鎌」を突き刺している。

すると、腐って腐敗臭を放っていた死体はみるみるうちに分解されて黒い土になっていった。

「やっと終わった。死体を放置していたら疫病が流行るからな」

細菌を操る闇の「発酵魔法」の使い手であるフード家には、疫病についての知識も伝わっている。ロビンがやっていることは、フード領を守る為に必要なことだった。

もちろん、兵士たちの装備の回収も忘れない。

「武器や服、金などできるだけ集めてフンボルトに集めて置いてくれ。何かの役にたつかもしれない」

「はっ」

すっかりロビンの部下となったジョンと騎士たちは、忠実に命令を実行する。

とはいえ、誇り高い騎士たちにとっては少し不満だった。

「死体から服を剥ぐなんて、まるで追いはぎみたいだな」

「仕方ないさ。ロビン様の言うとおりだ。たぶん「山蛇の道」は封鎖されるから、服や武器などの物資は貴重になる。しかし……」

騎士たちは暗い顔になる。

「俺たちはこれからどうなるんだろう。王国を敵に回してしまった」

王国軍を撃退した一時の高揚感は薄れ、これからの未来を不安に思う騎士たちだった。

ロビンたちがフンボルトの町に戻ると、洞窟から帰った市民たちが空を見上げていた。

「なんだ?」

「お、お坊ちゃま。見てください」

領民の一人が空を指差す。見上げたロビンの目が目いっぱい開かれていた。

「ど、ドラゴンの集団……」

巨大な黄金のうろこをもつ竜をはじめとする、亜人国の支配者であるドラゴン軍団が襲来してきた。

「くっ!一難さってまた一難か!皆、弓を構えろ!」

「やめろ!」

攻撃態勢をとろうとしたジョンと騎士たちを、ロビンが手をあげて制する。

「ですが……」

「いいか、絶対に刺激するなよ」

そういうとロビンは馬から降りて、ドラゴン軍団の真下で跪いた。

「竜王陛下。ようこそおいで下さいました」

臣下が王に対するような礼儀を払って、凛とした声で呼びかける。

巨大な金ドラゴン-竜王ティラノは小気味よさそうに笑うと、威厳のある声で命令した。

「その態度は殊勝である。よかろう。降伏を認めよう」

王国軍を撃退したフード領は、たった一日で亜人国に制圧されてしまうのだった。


「フード領主ロビン・フードよ。本日より『フード公国』の建国を認める」

「御意。われらは亜人国と友好を結ぶことを誓います」」

ティラノが掲げた剣が、跪いているロビンの肩に置かれる。これでフード領は亜人国の友好国、実質は属国扱いにされてしまった。

ちなみに、なぜ亜人国に編入されなかったかというと、ロビンの必死の独立交渉と亜人国へ異民族である人間を入れるのは軋轢を生むとのティラノの判断である。

複雑な顔をしているジョンたち騎士にも、ティラノは王者の寛容をみせる。

「卿らも騎士としての地位を認める。フード公王を盛り立て、人間の侵入からフード公国を守るがいい」

「……はっ」

ジョンたちもしぶしぶ受け入れた。

(まさか本当に自力で防衛に成功するとはな。ふふふ、これで表立って人間国と敵対することなく、人間の生息域を侵略できる)

ティラノの思惑は、表面上中立を保ちながら、ひそかにフード領を使って人間国を弱体化させることだった。

もちろんその思惑はロビンも承知の上である。

(今は亜人国の傘下に入るしかない。彼らの後ろ盾の元、力を蓄えよう)

ロビンはフード領が辺境の小領土であることをわきまえている。亜人国に下ったふりをしながら、人間国内を侵略していこうと割り切っていた。

さまざまな思惑があるにしろ、今のところ両者の利害は一致している。

「よかろう。では宴を始めるとするか!」

ティラノはロビンや騎士たちを引き連れて、フンボルト町の広場に向かう。そこではパーティの準備が整えられていた。

「さあ、今日はめでたき日じゃ。大いに食べて飲んで、楽しむがいい」

ティラノの音頭でパーティが始まる。会場に並べられたご馳走は、山奥の辺境であるフード領には珍しい魚料理が主体となったものだった。

「……これは?」

ジョンたち騎士が、料理を作ったオークにおそるおそる聞く。

「目出鯛というものだ。うまいぞ」

ジョンたちはギョロリと目が飛び出た赤色の鱗を持つ魚を恐ろしそうにみていたが、覚悟を決めて一口食べた。

「うまい!」

「そうだろう。我々亜人国は広大な西の海に接していて、海の幸が豊富なんだ。ほら。これも食べてみろ」

オークはとぐろを巻く茶色の物体を差し出す。何かを連想した騎士たちは顔をしかめた。

「な、なんですか?このう○こみたいな生き物は」

「マキフンウニだ。こんな見かけだけど中身はうまいぞ」

こんな感じで次々と魚介類料理がふるまわれる。

最初は戸惑っていた騎士やフード領の住人も、今まで一度も食べたことがない海の幸に舌鼓を打った。

その様子を、ティラノの傍に控えていたロビンは満足そうに見つめる。

「どうやら、我が領の民は陛下が下賜していただいた料理をありがたくいただいているようですね」

「ふふ。前はワシらが一本取られたからのう。亜人国にも美味い物はあると教えてやったのじゃ。どうじゃ。我が国の傘下に入ってよかったじゃろう」

ティラノは機嫌よく酒を飲みながら自慢した。

「ええ。我が領は山奥に位置する辺境の地。どうしても魚や塩などは手に入りにくいのです。今後はよろしくお願いいたします」

「わかっておる。商人どもも喜んでフード公国と取引をしたがるじゃろう。適正な取引をするように伝えておこう」

それを聞いて、ロビンは心の底から安堵した。

(ブルージュ国は「山蛇の道」を封鎖して塩がフード領に入るのを防いで、兵糧攻めにするだろう。どうしようかと思っていたけど、亜人国から輸入できたら大丈夫だ)

そんなことを考えているロビンに、ティラノは真剣な顔になって告げる。

「さて。これでお前は我が臣下になったわけだが、最初の命令を下す」

「はい」

神妙な顔になって控えるロビン。

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