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偽りの勝利

館の奥には、フードをかぶった男がいた。

「ベルフェゴール殿。どうやらフード領侵攻は失敗したらしい」

スイート子爵がそう声をかけると、男はヒヒッという笑い声をたてた。

「失敗?いやいや充分に成功ではないか。これで奴らが作っておった汚らしい「肥料」は王国に出回らなくなった」

「だが……」

スイート子爵は曇った顔をする。

「欲の深い男よな。それとも何か?人間の排泄物や生ゴミから作り出された肥料がそんなに惜しいか?」

「い、いや。そんなことはない。あのような汚らわしいものより、空気中のチッソとやらを使って作り出した「肥薬」のほうがずっといい」

「では、今後は魔国から輸入した「肥薬」を、人間国に広めてもらえますな」

ベルフェゴールから念を押されて、スイートは汗だくの顔でうなずいた。

ちなみに魔国とは、人間国の北に存在する魔族が支配する土地で、その一部はスイート領に接している。魔族は以前の大戦で敗北したせいで荒れた地になっていたが、近年急激に再興しつつあった。

「では、これからも良い関係を結んでいきたいものですな。スイート子爵」

ベルフェゴールが差し出した手を、スイート子爵はしぶしぶ握る。

しかし、後世において彼は悪魔と取引をして人間国に災厄をもたらした裏切り者として長く悪名を語られることになるのだった。


王都

スイート子爵から国王へは「激戦の上ビクトリア領を占領。王国軍は大勝利」と報告された。

「それで、フード男爵家嫡男ロビンとビクトリア辺境伯の令嬢マリアンヌはどうなったのだ」

ブリリアント王の問いに、スイート子爵は自信満々に答える。

『危険な魔物が生息するシャーウッドの森に逃げ込みました。生きてはいないでしょう」

王はその答えに満足してないようで、責め立ててくる。

「なぜその二人を確実に殺して、死体を持ち帰らなかったのだ?」

「恐れながら申し上げます。無理に攻めた結果、多くの兵士たちが犠牲になりました。精強な王国軍の兵士すら命の危険にさらされた場所を、ひ弱な貴族の令息や令嬢が生きていられるわけはありません」

「……しかし……」

納得できない王に、子爵はさらに進言する。

「例え生きていたとて、やつらに何ができるとも思えません。ここは呪われたフード領につながる「山蛇の道」を封鎖して、放置しておけばよいかと存じます」

「……よかろう。スイート子爵に任せる」

王は王国軍がこうむった大損害に、いささか萎縮していた。たかが辺境の一地方を征服しようとして、半数を失った上に撤退に追い込まれたのである。

これ以上フード領に関わって国力を消耗させては、王の権威が保てなくなる可能性もあった。

「フード領は山奥の地。道を封鎖して塩の供給を立てば、自然に奴らは自滅するでしょう。それよりも……」

子爵は声を潜めて告げる。

「この度の勝利はブリストル王子のもの。彼にはそれ相応の扱いをさしなければなりません」

それを聞いたブリリアント王は不快そうな顔になる。

「勝利だと?宰相も大将軍も死に、従軍した兵士の半分は死んだ。これのどこが勝利なのじゃ!」

怒鳴りつける王だったが、子爵は一歩もひかない。

「だからこそです。ここで大勝利したと宣言し、王子を英雄と称えなければ、不満をもつ諸侯が反乱を起こすかもしれません」

「ぐぬぬ……」

子爵の言葉に、王は何も言い返せなくなる。

「実際にフード領を除くビクトリア地方は占領に成功しております。反乱を企てた両家も滅びました。我々は紛れもなく勝ったのです」

それを聞いて、ついに王は折れる。

「やむをえまい。ブリストルの功績を称え、王太子とする」

ブリリアント王はどんどん国が曲がった方向に進んでいるのではないかという疑念がわきあがってくるが、腹心の部下である宰相と大将軍を失った今の彼は求心力が弱まっている。

国内の混乱を避けるために、偽りの英雄を立てて勝利を強調することにしたのだった。

「じゃが、補佐役である宰相の息子エルウィン、大将軍の息子ウィルヘムはその役目を全うできなかった。重要な役につけるわけにはいかぬ」

「おっしゃるとおりでございます」

スイート子爵は迎合するが、ブリリアント王は冷たく笑った。

「人事のようにいうではないか。貴様も同罪だ。大人である貴様がよく手綱を握っておれば、こんな大損害を蒙ることはなかったのだ」

「そ、それは……私はバーミンガムを守っておりましたので……」

言い訳をする子爵だったが、王は首を振る。

「貴様にはビクトリア領の領主職は任せられぬ。王都にいて、宰相代理を命じる」

「……ははっ」

スイート子爵は、しぶしぶ頷くのだった。


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