山蛇の道の戦い
数日後
スイート子爵がかなりの資産をはたいて買い集めた解毒ポーションを乗せた馬車の集団が、険しい崖沿いの「山蛇の道」を走っている。
途中で迎えにやってきたウィルヘム率いる護衛団と合流し、ひたすらフンボルトめざしていた。
そんな一団を、山の上から監視している一団がいる。ロビン率いるフード軍である。
「みんな、準備はいいな」
「はっ」
ジョンをはじめとする騎士たちは緊張した顔で答える。彼らの手には、細長い蔓がついたガス発芋が握られていた。
「この先に急斜面になっている所がある。そこで襲い掛かるぞ」
ロビンたちは先回りして、馬車たちがやってくるのを待つのだった。やがて、騎馬に囲まれた馬車がやってくる。
「よし、今だ!」
ロビンたちはガス発芋の蔓に火をつけ、馬車めがけて投げつける。
「腐り鎌」によって傷つけられていた芋は、腐敗臭を放ちながら落下していき、騎馬の集団の中で爆発した。
「なんだ!」
「敵の攻撃か?くそっ!」
騎士たちは爆発の破片によって傷つき、大混乱に陥る。
『ヒヒーン!」
そして炎に熱せられた馬は、制御を失って暴れだした。
「こ、こら!おとなしくしろ!うわっ!」
ただでさえ山と崖に挟まれた狭い道である。そんな所で馬が暴れたらたまったものではない。
「うわぁぁぁ!」
騎士たちは馬に蹴飛ばされ、あるいは足を踏み外して崖から落ちていった。
「ひるむな。敵の狙いは馬車だ!なんとしても奪われるな。守れ!」
指揮していたウィルヘムが、暴れている馬車を引く馬を切り殺し、騎士たちに馬車を守らせる。
それを崖の上から見ていたロビンは鼻で笑った。
「奪われるなって?別に俺たちはそんなものほしくもないけどね」
部下たちに命令して、油がたっぷりつまった壷を用意する。
「よし。投げつけろ!」
ロビンたちが投げた油壺は馬車の荷台に命中し、大量の油で染まった。
「油だと……?奴ら、何をするつもりだ!」
見上げたウィルヘムの目に、笑いながら火矢を構えるロビンの姿が映る。
「や、やめろ!」
「それじゃあな」
ロビンの手から放たれた火矢は、油まみれになった馬車に正確に突き刺さる。
あっという間にその場は火の海に包まれた。
フンボルト
豪華なテントの中では、宰相が横になって痙攣を起こしていた。
「父上!しっかりしてください!」
息子のエルウィンは必死に押さえつけるが、呼吸がどんどん細くなっていく。
破傷病の死亡率は高く、不衛生な環境においては猛威を振るう。例え助かっても手足が動かなくなったり、脳に障害が残ったりする恐ろしい病気だった。
「エルウィンよ……」
宰相は苦しい息の中、必死に息子に告げる。
「父上、私はここにいます」
「……ここは呪われた土地だ。退却して……王都に戻るのだ。そして、二度と足を踏み入れてはならん」
宰相はエルウィンの手を握ってつぶやく。徐々にその手から力が抜けていった。
「父上ーー!」
エルウィンは号泣する。このような悲劇は彼らだけではなく、兵士たちにも広がっていった。