シャーウッドの森
シャーウッドの森
フード領のほとんどを占める広大な森で、瘴気の霧により視界が閉ざされている。。
ここでは封印されていた『腐り鎌』の影響で、森の生態系に異常をきたした結果、ほかでは見られない生物が繁殖していた。
フード家は長年の研究により一部の生物を家畜兼農産物として有効利用できているが、森は変容し凶暴化した生物により大変危険な場所となっている。
そんな場所に予備知識なしで踏み込んだ王国軍は、襲い掛かってくる生物と必死の戦いを繰り広げていた。
「くそっ!なんだこのスイカは!」
丸い体に太い手足が生え、鋭い目をした撲殺スイカが棍棒を持って兵士たちに襲い掛かっている。彼らは兵士たちの頭をぶち割ろうと、強い力で殴りかかってきた。
「ひ、ひいっ!!助けてくれ!」
兵士たちは集団で襲ってくるスイカに対抗できず、次々と頭を割られていく。
この森にいる野生種は、フード家で品種改良されているようなおとなしいフルーツではない。兵士たちはあちこちでひどい目にあっていた。
「な、なんだよこの果物は!ぎゅああ!」
ハイナップルのような果物が近づいてきて、いきなり爆発すると、鋭いカッターのようになった実が飛び散って兵士たちを切り裂く。
兵士たちがきが生い茂った場所足を踏み込むと、いきなり赤い実をつけた蛇のような蔓が絡み付いてくる。
行軍している兵士たちの頭めがけて、ウニウニと動く鋭い突起がついた海栗の実が落ちてくる。
たまらず森を出て水辺に逃げ出すと、沼の中から黄色いバナナのような実で覆ったワニが出てきて兵士たちに襲い掛かった。
もちろんそんな危険果物だけではない。森の中ブービートラップの仕掛けだらけだった。
草で隠された落とし穴といった単純なものでも、霧に覆われて視界が悪い森では十分に脅威である。
落とし穴を警戒して地面ばかり見ていたら、うっかり張り巡らされたローブに引っかかって、木の上から尖った杭が落ちてくる。
川を渡ろうとしたら、水の中に張られたいたロープに引っかかって矢が飛んできた。
危険果物とトラップの二段構えで、王国軍は戦う前に大混乱に陥ってしまった。
「くそっ!なんなんだこの森は?」
「……わかりません。魔物とも少し違うような気がします。しかし、奴らはなぜこのような森に逃げ込んだのでしょう」
大将軍の脇に控えていた宰相が恐る恐る答える。
王国軍が一方的に被害を蒙っているのに、フード軍は影も形も見えない。完全に独り相撲を取っている状態で、いつの間にか混乱の中で、王子を中心とした上層部がいる司令部の守りが薄くなっていた。
そのとき、ヒュルルーという音が響いてくる。
「ぐはっ!」
王子の隣にいた大将軍が、首筋を打ちぬかれて地面に倒れ伏した。
「父上?」
驚いたウィルヘムが駆け寄るも、毒が矢に塗られていたようですでに事切れている。
「クソッ!卑怯者!ででこい!この凶剣ウルフファングの錆びにしてやる!」
恐慌したウィルへムが剣を振り回すが、暗殺者の姿は霧に隠れて見えない。
「落ち着けウィルヘム。ここじゃ不利だ。父上、王子を守って退却しましょう」
宰相の息子エルウィンは恐怖に震えながら進言する。
「そ、そうだな。王子、我々は正々堂々と戦うこともできない卑怯者など相手にすべきではありません。我々は一度撤退し、奴らを毒蛇の巣からおびき出して決戦しましょう」
「わかった。いくぞ!」
王子と宰相、エルウィンやウィルヘムなどは、トラップと危険果物の襲撃に混乱する兵士たちを置いて逃げ出す。
シャーウッドの森は見捨てられた兵士たちの絶叫で満たされのだった。