トラップタウン
王子とその取り巻きの上層部が領主の館に入った後、大将軍による形だけの警戒命令が出される。
しかし、兵士たちは各々勝手に略奪の為に民家に侵入していった。
「うはっ。結構モノが残っているじゃねえか」
喜び勇んで屋内に侵入した兵士は、荒らされた様子もなく綺麗にに整頓された部屋を見て喜ぶ。
「ははっ。この部屋は俺のものだ!今日はやわらかいベッドでゆっくり休めるぜ」
ある兵士が喜びながらベッドにダイブした瞬間-
「いてえ!」
その兵士は悲鳴を上げてとびあがる。マットの中に鋭い木の棘が仕込まれており、無防備に横になったせいで背中を刺されていた。
「くそっ!なんなんだよこの棘は!」
苦労して背中に刺さった棘を抜いた兵士は激怒する。その棘からはくさい臭いがしたからだった。
同じようなことはあらゆる場所で起こっていた。
ある家では、部屋に踏み込んだ瞬間に床板が抜けて、底に仕掛けられていた棘が足を貫く。
ある商店では、残っていた品物を手に取った瞬間、棘が飛び出てきて手を刺した。
「なんだこの町は!」
略奪しようとした兵士たちは、わめきながら家から逃げ出す。
かなりの数の兵士がトラップにやられて傷を負った。
そして、それは兵士だけにはとどまらず、上層部の中からも被害が出る。
「ふむ。こんな田舎の家にしては、中々良い絵が飾っているな」
執務室に入った宰相は、フード家のインテリアを見て満足する。
しかし、その中のひとつの絵が気になった。
「この絵は画聖ラッセルの裸婦像か?だがおかしいな。額縁が曲がっている」
何の警戒もせずにその絵に近づくと、額縁に手をかける。
「いたっ」
次の瞬間、手に鋭い痛みが走った。
「なんだこれは?」
よく見ると、額縁にびっしりと小さな棘がついている。
「嫌がらせのつもりか。小ざかしい」
頭にきた宰相は、その絵を破り捨てる。
しかし、このトラップを軽視したせいで、後でとんでもない目にあうのだった。
トラップにやられた兵士たちが怒りの声を上げて大将軍に詰め寄っている。
「閣下!こんな町燃やしてしまいましょう!」
「ふむ……確かに。もっと危ない罠が仕掛けられているかもしれんかにな」
不安に思った大将軍は、トラップが仕掛けられている家に火を放つ。
木でできた粗末な家は、あっという間に燃えていった。
「ざまあみろ!」
兵士たちは燃える家を取り囲んで歌を歌った。
しかし、炎が床まで回った時に異変が起こる。
いきなり床下で何かが爆発し、破片が周囲に飛び散った。
「な、何が起こったんだ?」
「痛い……だれか助けてくれ!」
兵士たちの多くは地面に倒れてうめいている。その体には飛び散った鉄の棘が刺さっていた。
「罠だ!火を消せ!」
慌て大将軍の命令により、消火が行われる。
フンボルトの町は一軒が燃えただけで消失を免れた。
「何が起こったのだ。調査せよ」
大将軍の命令で、徹底的に家の床下が捜査される。
すると、丸くて細長い蔓がついた黒い芋が大量に発見された。
「これはなんだ?」
「はっ。フード領の特産物で、ガス発芋ともうします。脅威を感じると爆発するガスを発する危険な芋です」
スイート領の兵士がそう説明する。
それを聞いて、大将軍は思わず呻いた。
「こんな使い方があるのか。これは危ない。一刻も早くこの町から出なければ」
せっかくフンボルトの町を占領した王国軍だが、ここはトラップの巣である。
ゆっくり休憩する間もなく、ロビンたちを追って出撃するのだった。