魔王の鎌
騎士たちを竜主の館に招いて、詳しい事情を聞く。
話を聞いているうちに、ロビンとマリアンヌは真っ青になった。
「そんな!父上とビクトリア辺境伯が処刑されたって?」
「バーミンガムが王国軍に攻められて、多くの民が虐殺されたですって!」
あまりにも悲惨な事実に、ロビンは怒りに震える。
「何が内通だ!俺は貿易を始めるときには、ちゃんと国の許可をとるつもりだった!まだ何もしてないのに問答無用で親父とビクトリア様を処刑するなんて!ブルージュ国はそこまで狭量だったのか!」
辺境でのスローライフで危機感を無くしていた自分が嫌になってくる。同時に強烈な反感を人間国に抱いた。
「ロビン。ごめんなさい。おじい様が授けた友愛の印が、かえって不幸をもたらしたなんて」
アリスも『竜王のしるし」が原因になったことを知って悄然としていた。
「……いや、多分口実に使われただけだろう。しかし、なぜだ?俺たちなんて田舎の貧乏貴族なのに。何がほしいんだ」
ロビンは疑問に思うが、状況は一片の予断も許さないほど切迫している。
「ロビン殿、どうか迎撃の準備を!我らも命を捨てて戦います」
そう申し出てくるジョンたちの前で、ロビンは必死に冷静になろうと勤めていた。
(王国軍は大軍だ。悔しいけどまともに戦ったら勝ち目はない。どうすればいいんだ……)
その時、父カルディアが言った言葉が思い出される。
(何かあったらシャーウッドの森に逃げろと言われていたな。たしかにあそこは霧の深い森で、土地勘もない大軍が用意に動き回れる場所じゃない。そこに避難しよう)
そう決断したロビンは、ジョンたちに命令を下す。
「まともに戦っても勝ち目はない。我々は森に潜んで奴らを霍乱させる。領民に触れ回ってほしい。食料と貴重品だけもって森に逃げろって。マリアンヌ、みんなの避難を頼む。昔みんなで遊んだ森の奥にあるブルークリス洞窟にかくまってくれ。あそこなら湧き水があるから、しばらくは大丈夫だ」
「わかったわ」
マリアンヌは慌てて使用人とともにフンボルトの町に走っていく。
「アリス。申し訳ないけど君は亜人国に戻っていてくれ」
ロビンは手紙を書いてアリスに持たせる。
「わかった。ボクたちが原因をつくったようなものだし、お爺様に援軍をだしてもらうように頼むよ」
アリスはもとの小型竜に戻って、亜人国に飛んでいった。
「ロビン殿、私たちは?」
「王国軍が来るまで、森の地理を頭に叩き込んでほしい」
ロビンはそういって、フード領の機密であるシャーウッドの森の地図を取り出し、ジョンに見せる。
そこには複雑な地形をしている森の詳細が書かれていた。
「ここをさらに罠を仕掛けて、軍を分断する。そして本陣に隙をつくり、一気に突撃して指揮官の首を取るんだ」
「うまくいくでしょうか?それに罠をつくるといっても、今からでは」
不安そうな顔をするジョンたちを、ロビンは勇気付ける。
「大丈夫だ。我ら田舎者の戦い方をみせてやろう」
そういってロビンは騎士たちを肥料製造所につれていった。
「うっ……くさい」
立ち上る臭いにジョンたちは顔をしかめる。
「ここには何があるのですかな?」
「我々の先祖、生命士タゴサクが魔王から奪い、封印した武器だ」
ロビンは老廃物が発酵している穴に垂れ下がっているチェーンを引いていく。
すると、まがまがしい鎌が底から上がってきた。
「これは『腐り鎌』は呪いと穢れを撒き散らす究極の武具の一つ。世の中に存在するのろわれた武器は、すべてこの鎌の洗礼を受けたものだとといわれる。普通の人間なら装備できないが、呪いを受けたタゴサクの子孫である俺なら装備できる」
ロビンが鎌に手をふれると、鎌についていたチェーンが右手に巻きついた。
どうやら使用者として認められたようだ。
「これを使えば、罠をしかけることができる。お前たちには協力してほしい」
「……はっ!」
ジョンたちは臭いに顔を背けながらもロビンの前に跪くのだった。