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平穏の終わり

狂気の一夜が明けた次の日

豪華な尾車にのって、ブリストル王子が入城した。

生き残った市民たちは、兵士に脅されパレードに参列させられる。

「……王子様……万歳……」

「我々を苦しめていたビクトリア家の支配から解放してくださって、ありがとうございます」

市民たちは無理やり王子をたたえさせられいたが、その声には深い恨みが込められていた。

しかし、鈍感な王子はそれに気づかず、解放軍の英雄気取りで隣にいるピーチに自慢する。

「どうだい?僕のおかげで彼らは圧政者から救われたんだ。彼らの笑顔をみてごらん。僕はにんなにも称えられているぞ」

「さすがは王子ですわ。勇者に匹敵する英雄です」

隣にいるピーチは含み笑いを浮かべながら王子にしなだれかかった。

そんな王子だったが、町のあちこちの建物が戦闘によって焼けており、何人もの家をなくした孤児が屯しているのに気づく

「なんだあれは。目障りだな」

「王子に不快なものをみせて申し訳ありません。彼ら下賎な民の始末は宰相様に任せましょう」

「ああ」

ピーチはさらに畳み掛ける。

「この土地はわが父であるスイート子爵に任せてください。きっと前よりも美しい都市として再建していただけますわ」

「ああ。戻ったら彼を新たな辺境伯とするよう父上に奏上しよう。これで君と堂々と結婚できるな」

ブリストル王子は明るい未来を想像して楽しそうに笑う。その隣のピーチは自分の思い通りに動いてくれる彼に満足していた。

ブリストル王子は壇上に上がり、演説を始める。

「民たちよ!よく聞くがいい。ビクトリア辺境伯とその部下フード男爵は、亜人国へ内通していた。この『竜のしるし」が証拠だ」

王子はポケットから金色の光る鱗を出して、民に見せ付ける。

「お館様が内通だって?まさか」

「だけどあの鱗は竜王のもの。まさか本当に」

民の間に動揺が広がって幾野を見て、大将軍の息子ウィルヘムが出てくる。

「反逆者ビクトリア辺境伯とフード男爵は、すでに王都で処刑されている。そしてその息子フリードリヒも死んだ。民たちよ!今後は我々に従うのだ」

ウィルヘムがフリードリヒの生首を投げ出すと、民たちの間から悲鳴が上がった。

「お世継ぎ様!」

「今後、少しでも反逆の兆しが見えると、我々は容赦なく弾圧するだろう。不審な者を見つけたら密告せよ。そうすれば褒賞をだす。身内を奴隷にされたものがいたら、返してやろう」

宰相の息子エルウィンが宣言する。それを聞いた民たちの間に、ざわめきが広がっていった。

「密告するすれば、子供を返してくれる……?」

「もうこの領はおしまいだ。こうなったら……」

民たちの間に相互不信が広がっていくのをみて、街中に潜んでいたビクトリア家の兵士も危険を感じる。

「ここにいてはまずい。マリアンヌ様がいるフード領に逃げて、捲土重来を計ろう」

ジョン将軍と彼に従う兵士たちはひそかにバーミンガムを脱出して、フード領に向かう。

後の世において「シャーウッド軍」と呼ばれる軍の中核になるのは彼らだった。



フード領

ビクトリア領都バーミンガムから、北西方向にある山と森に囲まれた盆地である。

そのとおり道である「山蛇の道』は馬車二台がかろうじてすれ違えるくらいの狭くて長い山道である。

いつもは肥料や食料の買い付けにくる行商人しかいない道を、数十人の騎士の群れが必死に走っていた。

「早くフード領に危機を知らせないと!マリアンヌ様まで殺されてしまったら、ビクトリア家は終わってしまう」

彼らはフード領の中心、領都フンボルトめがけて昼夜を問わず走っていた。

そのころロビンはバーミンガムの惨事もしらずに、平穏に暮らしていた。

領都フンボルトは、都とは名ばかりの人口数百人の小さな町である。最近は若者の流出が激しいので閑散としているが、逆に老人ばかりなので揉め事もおこらず領主をはじめとして全員が農業で生計を立てていた。

そんな田舎のどこが気に入ったのか、竜王の孫娘アリスがよく遊びに来ていた。

「ねえ、アリスちゃんって可愛いわよね」

一生懸命芋を掘っているアリスを見て、マリアは目を細める。まるで妹を見守る姉のような慈愛に満ちた顔だった。

「ああ。なんか子供っぽくて庇護欲を刺激されるんだよな」

そんなアリスに、ロビンは警告する。

「おーい。気をつけろよ」

「大丈夫だよ!」

明るく返事をするアリスは、力をこめて芋を引っこ抜く。

同時にブブーーーという音が響き渡って、あたりに奥深い臭いが漂った。

「くっさ!目にしみる」

アリスはまともにガスを食らって、涙目になってしまう。

「それはガス発芋だよ。脅威を感じたら臭い屁を出して威嚇するんだ」

勢い余って尻餅をついたアリスを見てロビンは笑う。

「なによ!だったら先に言ってよ!」

「まあまあアリスちゃん。芋を焼いて食べましょう」

プンスカと怒るアリスをマリアンヌがなだめる。

彼らは実に平穏に毎日を過ごしていた。

三人でお弁当を食べている時に、マリアがふともらす。

「なんか、こうしていると昔に戻ったみたいね。ピーチちゃんはいないけど」

「ピーチの話はやめてくれよ」

その名前を聞いて、婚約破棄されたことを思い出してロビンは渋い顔をするが、アリスが食いついてきた。

「何々?何の話?」

興味津々の顔をしてきいてきたので、ロビンは仕方なく話す。

「ロビンってば幼馴染にふられちゃったんだ。やーい」

「あいつは都会に染まってしまったんだよ」

ロビンは遠い目をしてつぶやいた。そんな様子を見て、アリスもからかうのをやめる。

「都会ってそんなにいいものかなぁ。ボクにとってはここでも充分都会なんだけどな」

「嘘だろ?この田舎のフンボルトの町が?」

ロビンのつぶやきに、アリスは首を振って否定した。

「だってボクたちが住んでいるところって、木とか洞窟だもん。町というより「巣」だよ」

「まあ、ドラゴンだしなぁ」

岩山に空いた穴に出入りしているドラゴンの姿を想像して、ロビンは思わずアリスに同情してしまう。

「いい加減に人間みたいな『町』を作ろうっておじい様に提案しているんだけど、なかなかうまくいかないの。そもそもどうやればいいのかわからないし」

「無理に人間の真似なんてしないほうがいいんじゃないか?人間の住むような町が亜人にとってすごしやすいとは限らないし」

ロビンがそういったとき、『山蛇の道』から数十騎の騎士が走ってくるのが見えた。

「なんだ?山賊が攻めてきたのか?」

思わず警戒するロビンだったが、マリアンヌの言葉で緊張を解く。

「違うわ。ビクトリア家の騎士よ。でも、あんなに慌てていてどうしたのかしら?」

マリアンヌが首をかしげていると、騎士たちが駆け寄って跪く。

「マリアンヌ様、ロビン殿、ご無事でようございました」

マリアンヌの姿を確認して、先頭にいたジョン将軍は号泣する。

泣き崩れる彼らを前にして、ロビンたちは困惑するのだった。


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