バーミンガム侵攻
王都で補給と編成を終えた王国軍は、万全の体制でビクトリア領都バーミンガムにせめこむ。
突然乱入してきた王都軍により、街は大混乱に陥っていた。
「若!お逃げください。バーミンガムはもうだめです」
都市を守っていた将軍のジョンが、若い青年に怒鳴りつけていた。
「なぜだ!なぜ王国軍が!」
領を任されているビクトリア辺境伯の息子、フリードリヒは混乱の極みに達している。
つい先日、ブリストル王子の名前で領内を視察するという通達があり、何の疑問も抱かず城壁門を開いて軍を受け入れた所、いきなり不意打ちされたのである。
本来は味方であるはずの王国軍から攻められて、何の準備もしていなかったビクトリア軍は抵抗もできずに壊滅した。
街は王国軍の兵士たちによって徹底的に略奪され、男も女も関係なく殺されていた。
「王国が我々を裏切ったのです。若は早く逃げ延びてください!」
「わ、わかった。だが、どこに行けばいい?」
「フード領に向かってください。あそこにはマリアンヌ様が嫁いでいます。あなたを受けいれてくれるはずです。私たちはあなた様が逃げられるように、囮になります。」
忠実な将軍であるジョンの言葉に従い、フリードリヒは秘密の地下通路を通って城外に脱出する。
しかし、城外に出た所で、大将軍の息子で新しく一隊を任されたウィルヘムに見つかってしまった。
「ふふふ。思ったとおりだ。やはり反逆者のネズミが逃げ出そうとしていた」
舌なめずりをして、大剣を構えたウィルヘムはフリードリヒと対峙する。
「くくく。この剣は我が祖である戦士デュッケンが魔王退治の時に用いた『凶剣ウルフファング』だ。貴様の血を剣への供物にしてやろう」
「若!お逃げください」
そういって切りかかってくる兵士たちを、ウィルヘムは剣の一振りで切り殺していく。
「待ってくれ……助けてくれ!」
「見苦しい!」
ウィルヘムは命乞いをするフリードリヒを一刀両断する。
「たわいもない。どこかに俺の血を沸かせてくる強敵はいないものか」
ウィルヘムはそうつぶやくと、城内に戻っていった。
ビクトリア領都バーミンガムは悲鳴に包まれていた。
勇者が魔王を倒して以降、百年も平穏を保っていた町は、殺戮に興奮した兵士たちが蛮行の限りを尽くしている。
「どうか子供だけはお許しください」
必死に幼い子供を胸に抱え込む母親をあざ笑い、兵士は告げる
「なら金を出せ!」
野蛮な兵士たちは民家に入り込み、民がこつこつと貯めた財貨をを奪っていく。
徹底的に略奪しつくしたあと、兵士の集団は母親を拘束した。
「後はその子供だな。奴隷として売りとばしてやる」
「そんな!」
必死に抗議する母親を、兵士は笑った。
「お偉いさんの中で話がついているのさ。略奪した財産は俺たち軍のもの。土地はこの地の新たな支配者になるスイート子爵様のものになるってな。そして若い人間は……」
兵士は残酷に笑い。母親の体に剣を振り下ろす。
「宰相様の奴隷として他国に売り飛ばされるだろうよ。よかったな。命だけは助けてもらえるぜ!」
兵士は事切れた母親の死体を踏みにじりながら、醜く笑った。
同じ光景はバーミンガムのあらゆる場所で起こっていた。
いきなり攻め込んだ兵士たちは、誰彼かまわず殺し、奪いつくしていく。
『お父さん!」
「何でも差し上げます!娘だけは勘弁してください!ぐっ!」
そして少しでも反抗した市民たちは、その場で殺されていった。
ビクトリア家の兵士たちはそれでも民を守ろうとしたが、総大将であるフリードリヒが討ち取られていたので統制がとれず、各個撃破されていく。
『若!ああ……私がそばについてれば!どけい!」
囮として奮戦していた将軍ジョンは、フリーリヒが倒されたと聞いて、王国軍の兵士たちの囲みを破って地下通路に隠れる。
「許さない……父を、母を、子供や友を殺したブルージュ王国に復讐してやる」
ジョンに従って生き残った少数の兵士は町に潜み、復讐を誓うのだった。