処刑
王都
カルディアとビクトリア辺境伯は、王都に着いて王に謁見する。
「王よ。突然の参集、どのような用件ですかな?」
そうと問いかけるビクトリア辺境伯は不機嫌そうだった。彼の後ろにには寄り子で分家であるカルディア男爵が控えている。
「うむ……少し聞きたいことがあって、卿らを呼んだのだ」
王の顔色は悪い。彼に代わって宰相が出てきて、ビクトリアに問いかけた。
「卿の娘で元ブリストル王子の婚約者であるマリアンヌ嬢は、フード男爵の息子に嫁ぐと聞いたが、事実でありますか?」
「事実ですが、それが何か?すでに王子との婚約は破棄されておりますが」
ビクトリアは胸を張って答える。
しかし、宰相はニヤリと笑って、次にカルディアに問いかけた。
「フード男爵。この女は卿の家に仕えていたメイドであるか?」
屈強な兵士につれられて、青色の髪をした美少女メイドがやってくる。
「はあ……確かに私の家で働いていたメイドでアコリルと申すものですが……」
カルディアの言質をとった上で、宰相はアコリルに向かって告げた。
「陛下の前で、彼らの罪を告発せよ」
「はい」
アコリルは王に向かって一礼すると、フード領が亜人国に密通しているということを話し始めた。
「フード領主カルディアは、息子ロビンと結託して亜人国に貢納し、わが国の情報を流しております。いずれ彼らの手を借りてビスマルク辺境伯を押したて、ブルージュ国をのっとるつもりでしょう」
「いいがかりだ!」
ビクトリアとカルディアが同時に否定するが、アコリルは余裕たっぷりに証拠を取り出した。
「これは亜人国の竜王ティラノがフード家に授けたものです。謀反の証拠です」
明白な証拠を突きつけられ、王の顔も険しくなる。
「貴殿たち、何か弁解があるか?」
「違います。それはティラノ陛下が我が領を訪れた時、和解の象徴として与えてくれたものです」
「残念ですが、亜人国との交流は禁じられております」
宰相は冷たく告げると、大将軍に合図する。
彼が右手を上げると、兵士たちが駆け寄ってカルディアとビクトリアを拘束した。
「お待ちください。確かに私には不手際があったかもしれません。ですが、ビクトリア辺境伯まで……」
「カルディア、無駄だ。こやつらは最初から我らを排除する気なのだ」
あきらめたビクトリアがカルディアを諭すと、彼は肩を落とした。
「白々しい。ブリストル王子に婚約破棄されたから、逆恨みに思ってこの陰謀に協力したのであろう。そうでなければ、いくら傷物になったとはいえ、辺境伯の娘がたかが男爵家に降嫁するわけがないではないか」
宰相は高笑いすると、王に決断を求める。
「陛下、この反逆者どもをいかがいたしましょう」
「……いたし方あるまい。なるべく苦しまぬように処刑せよ」
王の命令により、二人は引っ立てられていった。
黙って部屋の隅に控えていたブリストル王子が、こらえ切れなくなったのか笑い声を上げる。
そして、彼は父に進言した。
「父上。やつらを処刑しても安心できません。私が軍を率いてビクトリア地方を征服してきましょう」
「黙れ!さかしげな口を叩くな!」
ブリリアント王はブリストル王子を叱るが、宰相と大将軍からフォローが入る。
「王子のおっしゃられることはごもっともです。当主を処刑したとなれば、残る一族は王家に反旗を翻すでしょう」
「軍の準備はできております。ビクトリア地方に詳しい案内人で、王家に忠誠を誓う者もおります」
彼らの後ろから、うやうやしく太った男が出てくる。スイート子爵だった。
「私に案内を任せていただければ、瞬く間にビクトリア地方を平定して王家に献上させていただきましょう。時間がたてば、亜人国に攻め込まれるかもしれません。禍根は断たなければ」
家臣たちにそう脅され、ついに王は決断する。
「やむを得まい。ビクトリア家とフード家を王国から追放し、ブリストルを総大将としてビクトリア地方に攻め入るように。両家の者は、残らず捕まえて処分せよ」
王は腹を決めた顔で命令を下す。
こうして、ブリストル親征軍が組織された。
王都の外れに、処刑台が二つ並んでおり、大勢の男女が縄で縛られて拘束されている。
王都にいたビクトリア家とフード家の一族や家臣だった。
「反逆者の一族よ。何か言い残すことはあるか?」
豪華な椅子に座ったブリストル王子が偉そうに問いかける。その隣にはピーチや取り巻きたちがいて、興味津々に処刑を見守っていた。
「王子よ!われわれは常に王家に忠誠を尽くしてきました。そんなわれ等に対する仕打ちがこれですか!」
カルディアは憎悪をこめてブリストル王子を睨み付けるが、彼は平然としていた。
「ふん。何を言う反逆者が。さっさとやれ」
王子の命令で剣が振り下ろされる。カルディアの首は切り落とされ、体は地面に掘られた大きな穴に突き落とされた。
「よし。次はビクトリア元辺境伯だ!」
王子の命令でビクトリアが引き出される。彼は死の瞬間を迎えようという時にも堂々としていた。
「おろかな王子よ。詐術と暴虐によって国を治めようとしても、人々は決して従わぬ。いずれお前も惨めに滅びるときがくるだろう」
ビクトリアの言葉に王子はわずかに動揺するが、気を取り直して兵士に命令する。
「やれ!」
ビクトリアも処刑された。
続いて捕らえられた人々も虐殺され、処刑場に血の匂いが漂う。
すべての処刑が終わると、王子は集められた軍隊に向かって宣言した。
「我々はこれからビクトリア地方を攻める。ビクトリア家とフード家の領地にいる者たちに一切の遠慮は無用である。後の禍根を絶つために、反逆者たちを徹底的に踏み潰せ!」
「おう!」
大義名分を与えられ、兵士たちは奮い立つのだった。