出頭命令
フード領
王都で陰謀が繰り広げられていることも知らず、ロビンは平穏な生活を続けていた。
「マリアンヌ。撲殺スイカの出来は?」
「うん。いい感じに育っているわよ。これなら中身は相当甘いでしょうね」
泥まみれになってスイカに肥料を与えているマリアンヌが答える。彼女は作業服姿で真っ黒に日焼けしているが、かえって健康的な美しさが増していた。
その時、二人の頭上に影が落ちた。
「なんだ?」
見上げたロビンの目に、金色のうろこをした小型のドラゴンが映る。
「ロビン。遊びにきたよ!」
降りてきた竜は、瞬く間に金髪美少女に変身していった。
「ねえねえ、またおいしいものをおごって!」
美少女ー竜王女アリスはそうって、ロビンの手をとる。
「今は遊べないぞ。スイカの世話をしているんだから」
「ぶーっ」
アリスは不満そうに頬を膨らませる。
「あら……可愛い子。ロビン君、紹介してくれないかしら」
その様子をみて、マリアンヌが近寄ってきた。
「ロビン、誰なのこの綺麗なお姉さん」
「俺の幼馴染で婚約者のマリアンヌだよ。最近、一緒に暮らしているんだ」
「へえ~。ロビンって婚約者がいたんだ」
アリスはちょっと不満そうに膨れている。マリアンヌはそんな彼女に優しく微笑むと、優雅に一礼した。
「はじめまして。よろしくね。そうだ。今からスイカを切るから、一緒に食べない?」
「うん。食べたい!」
アリスは無邪気に笑ってうなずく。
「ちょっと待ってね。うん。これにしようか」
マリアが大きな撲殺スイカに近づくと、警戒するような唸り声が発せられ、細い手足が落ちていた棒をつかんだ。
「大丈夫よ。何も心配することはないわ」
マリアンヌが優しく撫でると、スイカは安心したように棒を話した。
「おいしく食べてあげるからね」
「スイ?」
撲殺スイカがびっくりしたような声を上げると同時に、マリアンヌは細い手足をへし折っていた。
「さすがマリアンヌ。みごとだな」
「当然よ。慣れているもの」
マリアンヌは平然と言うと、スイスイと叫び声をあげているスイカを容赦なくナイフで真っ二つにする。
中から真っ赤な汁がこぼれて、甘い匂いが広がった。
「これが撲殺スイカかぁ。美味しい!」
アリスは大喜びでスイカにかぶりつく。種が顔について、マリアは優しくタオルでぬぐってあげた。
「慌てなくても大丈夫よ。たくさんあるから。これもどうぞ」
そういって冷えた白い飲みものを差し出してくる。
「これは?」
「ロビンが作った新しい飲み物。ミルピスという牛乳を発酵させたジュースよ。暑い日に飲むと、美味しいの」
マリアンヌに薦められて、アリスはおさるおそる飲んでみる。
「甘い!」
アリスは気に入ったようで、何杯もお代わりしていた。
「いや~。ここは本当に美味しいものばかりで、うらやましいよ」
「亜人国にはあまり美味しい食べ物はないのかい?」
ロビンはさりげなく亜人国の食料事情を探ってみる。
「そんなことはないけど、あんまり手の込んだ食べ物や飲み物はないかな?料理せずにそのまま食べたり飲んだりするような感じ」
「なるほど……なら将来貿易が出来れば、大儲けできるな」
ロビンは狡猾な顔をして、何が売れるか考え始める。
『ロビンったら……そうだアリスちゃん。バナナワニの収穫を手伝ってくれないかな?とっても美味しいよ」
「本当?やるやる!」
マリアンヌとアリスはバナナワニを飼育している果物園に向かった。
「おーい。牙が生えてて危ないから、収穫は慎重にな」
二人に警告して、ロビンはその場にごろんと横になる。
しばらくして、果樹園からギャォーというバナナワニの断末魔の声が聞こえてきた。
「平和だなぁ」
のんびりとしたフード領の生活に、ロビンは満足する。
しかし、この平穏を脅かす脅威はすぐ迫っていた。
ロビンたちが館に戻ると、渋い顔をしているカルディアに王家から出頭命令が下されたと告げられる。
「出頭命令?いったい何なんだ?」
「さあ、詳しくは知らん。また何か言いがかりでもつける気なのか」
不安に思ったフード家当主カルディアは息子であるロビンに申し渡した。
「何かきな臭い匂いがする。もし一ヶ月してワシが戻らなかったら、領内の女子供を集めシャーウッドの森に逃げろ。あそこならよそ者にはみつからぬ」
「わかった」
ロビンはうなずいてカルディアを見送.る。これが父をみた最後になるのだった。