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蠢く者たち

夜になって館に戻ったロビンたちは、カルディアに聞かれる。

「アコリルの姿が見えなくなった。どこにいったか知らないか?」

「さあ?」

ロビンは首を振る。同じようにマリアンヌも首を傾げていた。

「そうか。彼女にはお前の側室になってもらおうと思っていたのだがな」

「いりませんよそんなもの。俺はマリアンヌだけで充分です」

「ロビンったら……」

それを聞いたマリアンヌは頬を染める。

「やれやれ。仲のいいことだな。もしかしたらアコリルは何か思うことがあって出て行ったのかもしれんが……仕方ないか。だがお前たちはまだ未成年だ。式も挙げてないのに孫を作るといったことだけはやめてくれよ」

『父上!」

カルディアにからかわれたロビンは顔を赤くする。その隣でマリアンヌは幸せそうに微笑んでいた。


王都

玉座の間では、ブリストル王子が厳しく説教されていた。

「ビクトリア辺境伯は王国設立以来から続く名家だ。人間国の穀倉地帯の支配者であり、亜人国の侵入を防ぐ役目をもっている大家でもある。その彼の娘と婚約破棄するなど、貴様は何を考えておる!」

怒り狂った父王の叱責を受けて、さすがのブリストルも身を縮める。

「ですが、あの女は私にふさわしくありません。無実の生徒をいじめるなどと!」

「たわけ者!あの聡明なマリアンヌ殿がたかが子爵家の娘など相手にするものか!大方そのピーチとかいう娘が嘘をついて濡れ衣をきせたのであろう!」

愛する人を貶められて、ブリストルの顔が真っ赤になった。

「彼女はそんな人ではありません!清純で優しくて……」

「もうよい!黙れ!貴様のせいでビクトリア辺境伯に借りができてしまったわ!本来なら役立たずの貴様を婿として押し込むつもりであったのに!」

「役立たずですと……?わ、私は正妃の息子です!この国を継ぐものですぞ」

ブリストルが叫び声をあげるが、ブリリアント王はフンッと鼻で笑った。

「何を言うやら。貴様などにこの国を任せてはおけぬ。今回の件で腹は決まった。ワシの跡継ぎはアーサーにする」

「アーサー兄上ですか?しかし彼は側室の子で……」

ブリリアントはショックを受ける。アーサーとは彼の一歳上の兄である。能力が高く評判はよかったが母親の身分が低く、現在厄介払いのような扱いで海軍に配属されていた。

「魔国では新しい魔王が生まれたと聞く。この大変な時代、自らを律することもできぬ無能者を王にするわけにはいかぬ。下がれ!負って沙汰を下すだろう」

父王に見限られ、王子はすごすごと自分の館に戻る。

「どうすればいいんだ……このままでは」

悩む王子の所に、ピーチ・スイート子爵令嬢が訪問してきた。

「私の王子様。あの女とも婚約解消をしたことだし、ぜひ私を婚約者に……」

「うん。だけどもうちょっと待ってくれ。父上を説得しないと」

ブリストルは気弱そうに答える。

「なぜです?何があたのですか?」

「実は……」

王子は父王に叱られたことを包み隠さず彼女に告げる。聞き終えたピーチは険しい顔をしていた。

「それでは、このままでは王子は玉座を継げませんの?」

「あの父の怒りようでは……仕方ないから、僕が君のスイート子爵家に降婿するよ」

それを聞いて、ピーチは困った顔になる。

(そんな……王妃になれないんじゃ、この顔だけの王子になんの価値もないわ。いや、スイート領に婿に来るって、それじゃ私も帰らなくちゃいけなくなるじゃない!あんな田舎に帰るのはいや!)

スイート領はフード領の隣だけあって、岩だらけの田舎である。鉱山資源が豊富で豊かではあるものの、王都でずっと生活したいピーチにとっては我慢できなかった。

(これは、宰相子息エルウィン様や大将軍子息ウィルヘム様に乗り換えた方がいいかも)

そう思ったピーチは、王子から離れようとする。

「で、では、父にお話をしなければなりませんので、これで失礼いたします」

そういうと、引きとめようとする王子の手を振りはらい、館を出るのだった。


宰相の館に向かったピーチは、線の細い芸術家風の容姿をもつエルウィンに相談する。

「エルウィン様。愛していますわ。」

「ピーチ嬢……僕もだよ」

ピーチにしなだれかかられたエルウィンは、嬉しそうに鼻の下を伸ばす。

しかし、王子が左遷されそうになっているという話をしたとたん、真っ青な顔になった。

「それはまずいよ!ブリストル王子が王になれなかったら、ウチも困ったことになる。父上は身分が低いアーサー王子が王太子になることを反対していたからね!」

ピーチを放り出して、父親の執務室にいこうとする。

「エルウィン様。私はどうすれば?」

「君は君で動いてくれ。なんとかしてブリストル王子を王太子にするように運動しないと」

ピーチは相手にされずに、むなしく屋敷を出るのだった。

その足で、今度は大将軍の館に向かう。

「なるほど……貴女はそれで困っていると」

「ええ。ぜひウィルヘム様のお力をお借りしたいのです」

そう頭を下げるピーチに向かって、乱暴な雰囲気を持つ大将軍の息子、ウィルヘムはニヤニヤといやらしい視線を向けていた。

「俺は将来軍人になる。ブリストル王子が王になったほうが出世は早いだろうが、仮にアーサー王子が王になっても栄達は可能だろう。そんな俺に、貴女は何を差し出す?」

「貴方様のお望みのものを」

ピーチは胸元をはだけて、豊かな胸を強調させる。ウィルヘムはその細い腕をぐいっとつかんだ。

「いいだろう。早速ためさせてもらおう」

ウィルヘムは強引にピーチを自室に引っ張り込む。

数十分後、満足した様子のウィルヘムにピーチは耳元でささやいた。

「私は王妃の地位さえ手に入れば、誰の子を生もうとかまいませぬ。いや、強い男の子こそが王にふさわしいでしょう」

「大した女だ。ふふふ。いいだろう。俺も覚悟を決めて、ブリストル王子を盛り立てよう」

ウィルヘムは、いざとなれば武力を使って王子に協力すると約束するのだった。


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