2、lost hero
早速出してしまうやつですw
良ければ読んでください笑
「まって…!行かないでクロト!」
「すまない…俺は君を連れてはいけない」
暗闇の中、彼に向かって走り続ける自分。
金色の長い髪すら黒く見えてしまうほど暗い中、なりふり構わず走り抜ける。
しかし、どんなに頑張っても彼に追いつくことがない。
いや、そもそも距離が縮まっていない。
「お願い!これ以上置いていかないで!
これ以上、私に悲しい思いをさせないで!」
彼はそんな言葉が届いてないかのように私に背を向けて歩き出す。
光の方へと。
「待ってクロト!」
縮まる事が無かった距離が縮まりだす。
「お願いクロト!
私の前から居なくならないって、約束したじゃない!」
しかし、彼は止まらない。
「お願い…だから…!クロトも私を裏切るの!?」
「…すまない」
その一言が聞こえた瞬間、彼は光の中へ消えていった。
「クロト!」
気がつけば暗い空間からどこかの部屋の一室へと移動していた。
体はふかふかの毛布とベッドに包まれていて、とても心地よかった。
「ここ…は」
見たことがない部屋…壁は木材でできておりログハウスの様な感じ。
簡素だがしっかりとした作りに安心感が出てくる。
「あ、気がつきましたか?」
部屋の扉が開くと同時にクロト・・・?が入ってきた。
あんなにも見たかった顔が、あんなにも恋しかった顔が・・・なぜだろう
とても心が痛む・・・。
「クロト・・・なんですよね・・・?」
「・・・貴女が仰っているクロトと私が同一人物なのか・・・私にはわからないのです。何故なら私は・・・3年以上前の記憶が無くなっているのです・・・」
「そん・・・な・・・」
それはつまり、自分と過ごしたあの時間を全て忘れている・・・ということなのだ。
あの幸せだった時間を、あの楽しかった時間を、あの満たされていた時間を。
いや、それだけなら良かった。
それならまた、1からやり直せば良かった。
だが。
「おお、其方起きたか」
銀髪を短めのツインテールにしてる3歳くらい年下の子。
その子がべったりクロトにはりついているのだ!
「儂の婿に助けられたのをありがたく思うがいい!」
・・・は?
婿?
誰が?
クロトが?
君の?
ふっざ・・・
「ふざけんじゃないわよ!クロトは私の彼氏よ!?ほら!」
私は左手の薬指を見せた。
そこには黒と銀が絡み合うような装飾の指輪が有り、それと同じものがクロトの指にもあった。
「内側に〈クロト&アリサ〉って掘られているはずよ。私のは〈アリサ&クロト〉って掘られてる。これは・・・貴方が・・・命が危ない時は相手よりも自分を優先するという意味で・・・別々に掘ってもらったやつなんだよ・・・?」
私の声は掠れ、涙が溢れていた。
3年ぶりに死んだと思われていた最愛の人に再開したのに、記憶がなく新しい女性がいるという。
そんなの・・・そんなのない。
彼は私にいろんな初めてや楽しさをくれた。
泥沼から私を見つけてくれた。
そんな彼を心から愛していたし、彼からも愛されていた。
それなのに・・・。
「こんなの・・・あんまりだよ・・・」
溢れ出す涙が止まらずにボロボロとシーツへ涙が流れていく。
「・・・すみません、記憶が無くて。
今の私には貴方の事も自分の事も思い出す事ができません。・・・だから、教えて欲しいです。貴女の事や自分のこと。・・・すみません、勝手なこと・・・でも、どうしても自分の事が知りたいんです!」
・・・私は昔から不幸だった。
運が悪かった・・・そういえば全部済むだろう。
行いが悪かった。
それなら自業自得だろう。
だが、何もしていないのに不幸が訪れるのはなぜだろうか。
住んでいた村は魔物に襲われ、たくさんの人を失った。
しかし、そこにクロトが現れ
村の残りの人を全員救った。
私もその中の1人だった。
その後も、いろいろ縁があり話したりするうちに惹かれ合い・・・つきあうことになっていた。
そしてつきあい初めて1年。
クロトは行方不明になった。
クロトは他人の感情に敏感な時と鈍感な時がある。
自分への嫌悪や殺意には敏感だが、
他人からの恩情や好意には物凄く鈍感だ。
そんなポンコツ具合がまた面白かった。
真っ直ぐな気持ちとは裏腹に歪んだ心。
彼は存在が不安定だった。
幼少期からの期待を背負い続けた彼は、既に心が壊れかけていた。
彼はただ魔物に殺された兄の敵を打つために、ただひたすらに斬り、魔法を撃ち強くなった。
その結果が最強になっただけ。
復讐の後についてきたものが英雄という肩書きだっただけ。
結果、その肩書きが彼を英雄だった。
しかし、彼はそれを快く引き受けた。
自分の苦労で他の誰かが救われるなら。
自分にしかできないなら・・・と。
だが違う。
できるからしなくてはいけないのは違う。
彼は彼だ。
他人からの押し付けを、都合がいい人になる必要はないのだ。
他人の荷物を背負って、それに押しつぶされるのでは意味が無いのだ。
結果、彼は1人で魔王に挑み
記憶を失っていた。
その経緯はわからないし、どう助かったのか・・・きっと本人もわからないのだろう。
今、私は迷ってしまっている。
今の彼は彼であって彼ではない。
教えれば今の生活を壊すことになるだろう。
しかし、それで愛する人が戻ってくる可能性を考えると・・・。
しかし、彼は既に〈英雄〉から解放されているのだ。
自分の都合であの役職に縛り付けるなんて・・・。
「お主、迷っておるのか?」
突然、銀髪の娘から話しかけられた。
その金色の双眸は、まるで全てを見透かしているかのようだった。
「ふむ・・・。儂はな、クロトが英雄ということしか知らぬのだ。だから、彼女である君しか教えれないことがたくさんあると思うのじゃ」
・・・はい?
今なんと?
英雄だと知っている?
「・・・え?ごめんなさい、ちょっと待って。理解が追いつかないわ。クロトはそれを知っているの?」
「えぇ、彼女・・・エリスに教えて貰ったんだ」
「本人が儂と対峙した時にそう名乗っておったからのう」
「・・・名乗った?」
おかしい、私が知る限り
クロトは自ら英雄とは名乗らなかったはず・・・。
いや、そもそも対峙?
そんな考えを吹き飛ばすように彼女は言った。
「まぁ、儂は元魔王じゃしな」
「っ!」
私は急いでベッドから飛び退き
右手を前に突き出す。
冗談かもしれない。
しかし、一瞬。
ほんの一瞬だが、彼女から圧力が出ていた。
それを見逃すほど、私は弱くない。
「全力で叩き潰させて───」
「ふむ、なかなか惜しいのぅ」
「・・・っ!」
おかしい、先程まであった5mの隙間が消えている。
いや、5mくらい私でもすぐに接近できる。
しかし、予備動作も何もなく。
気づいたら目の前にいたのだ!
「流石はクロトの彼女・・・と言ったところかのう。少し疑ってしまっては居たが・・・これなら納得じゃ」
「っ・・・!」
強すぎる。
あまりにも格が違いすぎた。
いや、最初からわかっていたものだ。
だけど・・・だけど・・・!
「どう・・・して、クロトはエリスに守られてるの・・・?」
自分がクロトを巻き込むはずないのに。
クロトなら自分の全力など容易くいなすだろうに。
なぜ・・・。
「彼は・・・もう全盛期のように強くないんじゃ・・・」
ここで私はようやくクロトの消失を実感した。
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