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人として


「え!マジで言ってんの!?私と付き合いたいって?あんたが!?」


理代(りよ)は顔をしかめて言った。


「うん。前から理代のことが気になってて好きなんだ。もちろん今すぐに結論を出さなくていいから、、、考えてみて欲しい」


俊司は真っ赤な顔をしながら声を振り絞って告白した。


相変わらず顔をしかめたままの理代は急に大きな声を出した。


「カーメーラー!お願い!」


と言うと物陰から2人の男子生徒が出てきてスマホのカメラ機能で長い間連写しながら理代と俊司に近づいて来た。


「な!なに?なんなのこれは?」


と俊司が3人に言うと理代と男子2人は笑いながら俊司に言った。


「いや、なんでもないよ。記念だよキネン」


「ってかさぁ、お前自分がどんな顔しているか分かるか?キモっ!オエッ!」


と言われながら俊司(しゅんじ)は告白した事を後悔した。


要の理代は「キモい!キモい!あーヤダー!私超被害者なんだけど!腹立つ!」


と俊司の想いをグシャグシャに踏みにじった。


放課後の校舎裏には野球部の掛け声と時折バットとボールが当たって遠くへボールが飛んでいく瞬間の音が聞こえて来くるがそれ以外は風が吹いて運動場の細かな砂がよく飛んで来た。



次の日の朝に学校へ行くと「なにかがおかしかった」


教室に入った瞬間にクシャクシャにされた紙切れを顔に当てられた。


黒板には「性犯罪者俊司」と大きく殴り書きされていた。


理代は遠くから俊司を睨みつけながら中指を立てている。


俊司の机には「レイプ魔」「くそブス」「死ね」という暴言が無数に書かれたり彫られたりしていた。


俊司は席に着きうずくまっていたら教室に先生が入って来た。


「みんな、静かにするように。席に座りなさい」


と先生の声を聞くと俊司は少し安堵した。


先生は「みんな、しばらく自習するように。あとで副担任の田辺先生が来るので」と言うと静かに俊司の席に近づいて来た。


俊司は先生に肩を叩かれて「ちょっと職員室に来なさい」と言われて席を立ち先生の後ろから歩いて職員室へ連れられた。


職員室に着くと区切られていないスペースに置かれた椅子とテーブルがありその折りたたみ式の椅子に座らされた。


その席の向かいに担任が座り眉間に皺を寄せながら言った。


「なぜ職員室に呼ばれたか分かるね?」


俊司は昨日理代に告白した風景を思い出しながら「昨日の放課後に理代に、、、告白しました」と言うと。


「うん。そうだね。でもそれだけじゃないよな?」


相変わらず担任は眉間に皺を寄せ俊司に鋭い眼差しを突き刺して来る。


俊司は担任の「それだけじゃない」と言う言葉に心当たりが見つからなかった。担任の先生が何を言っているのかが分からなかった。


「先生。確かに僕は告白して振られました。あの、、、僕が告白しちゃダメなんですか?」


学生が色恋沙汰に手を出したのを咎められるのか?と俊司は思った。


担任は一層鋭い眼差しで「とぼけるんじゃない!私の口から言わせるのか?」


何を言わんとしているのかが見えてこない。担任は「告白以外のこと」をなにか言っているようだが心当たりが全く無い。


担任は俊司に鬼の様な形相で「嫌がっている女子に無理やりキスを迫ったそうじゃないか!」


と言われて俊司の頭は真っ白になった。


なんの事を担任は言っているのか?なにか。なにかが「違う」


俊司は少しパニックになりながら担任へ言った。


「先生、、昨日校舎裏で理代に告白して断られただけです。本当です!」と悲痛な思いを叫ぶように担任へ言った。


担任は「そうか。じゃあこれはなんだね!?」


担任はジャケットの胸ポケットから1枚の写真を取り出し机の上に置いた。


そこに写っていたのは俊司が理代の両肩を掴み強引に自分の方へ引き寄せながら顔も近づけて「キスを迫って」いる俊司の姿とそれを力一杯で抵抗している様子の理代の姿が写っていた。


俊司はその写真を一目見てとっさに叫ぶように言った。


「確かに、昨日告白した直後に斎藤達に写メを撮られました!で、、、でも!これは違うんです!」


と言うと担任の顔はみるみるといっそう顔が赤くなり目が血走って怒りの顔が露わになり怒鳴った。


「なにが違うんだ!これはれっきとした犯罪だぞ!この写真が証拠じゃないか!?」


担任の迫力は凄まじいものがあった。


怒鳴られながら俊司は頭の中で今の現状を高速回転で考えを巡らせていた。


『なんだこの写真は?俺はこんな事をした記憶は無い!でも写真が残っている。記憶がどこかで飛んでしまっているのか?いや、違う。確かに告白はしたが強引にキスを迫るような真似はいっさいしていない。神に誓ってもいい!じゃあなんなんだこの写真は?待てよ最近、斎藤達は面白画像をSNSにどんどん上げているのを聞いたことがある!確か、馬顔の数学の先生が馬に乗っている画像や有名なボクサーを斎藤がノックアウトしている画像などだ。これは、、画像加工しているのかもしれない。昨日撮られた写メをパソコンで合成加工すればいくらでもでっちあげが出来る!これは合成加工だ!』


俊司は机の上に置かれた写真をもう一度凝視した。


キスを迫る自分の姿とそれを拒む理代の体の輪郭と風景のとても細い隙間のような線がありよく見ると変だ。


その他にも写真に写っている俊司の色合いと理代の色合いに微妙な明るさの違いがある。


「先生!これは合成加工されたでっち上げの写真です!よく見て下さい!この色合いや風景とのバランスがおかしいんです!」


と必死になって説明した。


担任は「この写真が作り物とまで言うのか君は?!いい加減にしなさい!とりあえず君の親を呼んで今後の学校からの処分について話し合っていくから!」


「この写真は加工されて作られている!」と何度も俊司は説明したが担任は聴く耳を持たなかった。


現代では写真を加工していろんなものを作れるということを担任の年代にはいまいちよく理解できないみたいだった。


それにしても斎藤達が作り上げた写真はよくできてると思った。


こんなにリアルに画像加工できる技術を「悪事」に使われると手も足も出ない。



「今日はもう帰りなさい。両親には私からもう連絡をしている。明日また連絡するからその時まで家で大人しくしていなさい」


と担任から言われて頭の上から金槌で叩かれて木材の中へ打ち込まれる釘のような気分を一方的に押し付けられた。


俊司が帰る時間はまだ午前中の10時頃だった。


家に帰って自分の部屋へ行こうと廊下を横切った時に電話の前を通ったら電話に留守電が何件か入っていた。


『斎藤や理代達か?嫌がらせを留守電に入れたのか?』と勘ぐった。


恐る恐る留守電を再生した。


「ピー!、、あ、今先生から電話があったわ。帰ったら話しを聞くから。とりあえず食べるものは冷蔵庫に適当にあると思うから、私は夕方まで帰れそうにないから、、、とりあえず家で大人しくしてなさい。ガチャン、、プーップーップー」


母だ。いつも仕事で忙しいと言ってクタクタになって帰って来て食事の用意をして最低限の家事を済ませて、また早朝に仕事に出て行く。


クタクタになって帰って来て、疲れた顔で家事をしている母の姿は『奴隷』のようだといつも感じる。


留守電にもう一件入っていた。


親父か?そう思って2件目を再生した。


「ピー!あ、あー、俊司?いないの?今日の朝学校に行ったらすごい騒ぎになってて友達から聞いたら、俊司もう帰ったって聞いて、、、とりあえずまた連絡する。プツプーップーップー」


幼馴染の希和子だ。あまりこの騒動に入って欲しくないと思っていたが予想通りに入って来た。俊司が『身の程知らず』に自分と不釣り合いな理代に告白しようと決断させたキッカケにもなっている。それと同時に騒動になって母の留守電の声を聴いて心が重苦しくなるのと同じくらい希和子の声を聴くのも重苦しかった。


この2件で留守電は終わっていた。


父親からも留守電が入っていると思ったが仕事上電話をかける時間もないのだろう。


父は遠方へ土木工事の作業員として毎日現場で仕事をしている。


母が前に言っていたが父は『到底、体力に自信があるわけではない。でもやりたい仕事がたまたま体力を使う仕事で努力と根性だけで毎日を精一杯になんとかこなしている』と聞いている。


人は適材適所にあったもので勝負していけばいいのになぜ小柄で華奢な父が毎日重労働を敢えて自分に強いているのかは分からない。


留守電を聴き終わり俊司は自分の部屋へ入っていった。


部屋の電気をつけて適当に着なくなった洋服をタンスから取ってヨレヨレになったTシャツとジャージのズボンを着てベットに寝転んだ。


俊司は音楽を聴こうかと考えたがそんな気も起こらずに天井を見上げていた。


『顔が整っていて今時のカッコイイ顔だったらどんなにいい人生だろうか?』


とずっと考えていた。


勉強机の引き出しから手鏡を取り出して自分の顔を覗き込んだ。


そこには、一文字が2つ並んだ細く吊り上がった目と低い団子鼻が付いており顔の輪郭は角張っていてエラが張っている。


眉毛は少ないが一本一本が長くて垂れ下がっている。おまけにおでこは前に突き出していてまるでナポレオンフィッシュの生まれ変わりのようだ。


この顔と16年付き合っているが見るたびにひどく落ち込む。


なので俊司は写真や鏡といった『自分の姿を映す物』が嫌いだ。


『なんで顔が可愛いだけの理代に告白したんだ?』


理代の性格があんなに意地悪だとは思わなかった。告白する前からクラスの中で騒がしい連中とつるんで『派手』な態度だとは思っていたがいざ自分自身が理代と理代を取り巻く連中の『攻撃対象』になるとこんなにも無茶苦茶にされるとは思わなかった。


それなのに、生まれつきの『美』を備えただけの理代に告白した動機を与えたのは幼馴染の希和子だった。


何ヶ月か前にいつも通りに希和子とたわいもないメールをしていた。


希和子の家は俊司の家のすぐ隣なので「いちいちメールするより、こっち来て」とあり俊司の部屋の窓から身を乗り出して飛び移ると階段になっておりそこを登ると希和子の家の屋上に繋がっていた。


もともと希和子の父と俊司の父は昔同じ職場の先輩と後輩で公私共に意気投合して「住むところを一緒に!」と言って張り切って2人とも隣同士で家を建てたらしい。


俊司は幼い時から「自分の家は希和子の家に行きやすい」むしろ「家が1つで間取りで区切っているだけ」なんじゃないか?というぐらいな「敢えてお互いの家を行き来しやすいように作られている」と感じていた。


そればかりか俊司の部屋から希和子の部屋へ移動するのもいちいち玄関を出ずにすぐに行くことが出来るように設計されていた。


母は「子供同士がいつでも秘密に会えるようにってお父さんがいろいろ家に細工したらしいけど、あんたが生まれる前に家を建てたのよ!佐田さんのところもまさか生まれてくる子が女の子だなんて思ってなかったからちょっと家をくっつけ過ぎて教育に悪いかな?ってちょっと心配してるのよ。いーい!希和子ちゃんは女の子だからね」とよくこの頃言われていた。


だが今さらそんな事を言われても普通に歩いて洗面所にいくぐらい希和子の家に行くのは容易いし当たり前になっていた。




メールで希和子の家の屋上に呼ばれていつものように屋上へ登ると希和子は屋上の地べたに仰向けになって寝そべり、もう暗くなった空を見ていた。


近ずいて「なにしてんの?」と希和子に聞くと「星空を見てる」とあった。


「俊ちゃんも寝そべってお星様見てごらんよ」と促されて俊司も仰向けになって寝そべり2人で星空を眺めていた。


寝そべって星空を見るといくつもの星々が今にも消えそうな光の数々を放ちたまに流れ星が通ってはすぐにどこかへ消えていった。


星を眺めていると街の明かりが邪魔でたまに星の光が本当に光っているのか分からなくなることがあった。


長い間希和子は黙ったままだったので心配になり「おい!眠ってないよな?」と聞くと希和子はイビキをかく真似をした。


「おい!」と声をかけると「はい、はーい」と希和子から返事があり2人して笑った。


「で、今日はなんの用で呼んだの?」と俊司が寝そべりながら聞くと「うん。私、、、来たの」とあった。


「なにが?」と俊司が聞くと希和子は少し黙って言った「女の子が『来た』って言ったら1つしかないでしょ?分かってよ!」と少し恥ずかしそうに言った。


「せ、、生理?」と俊司も恥ずかしそうに聞くと「もうー、なんでストレートに言っちゃうの?星空が台無しじゃない!」と怒っているようだった。


しばらく2人は星空を眺めていた。星が無数にあるところに薄い雲がかかって来て空全体を覆い始めた。


「っていうか、お前男の俺にそういうこと普通報告するか?」と俊司が聞くと


「私、本当の女性になって分かったの」


「なにが?」


「女の子って生理が来るっていうことは、、、男の人を受け入れる準備が整ったってことでしょ?私、それを考えると怖くなっちゃったの。」


俊司は黙って聞いていた。


「でもね、俊ちゃんだったら安心する」


「は?」と俊司はためらった。


希和子は起き上がり地べたに座った。


俊司も同じように座ったが希和子を直視出来ないでいた。


希和子はまっすぐ俊司を見て真顔で言った。


「私、俊ちゃんのことが好きなの」


と聞いて俊司は戸惑った。


そもそもドラマなどで描かれている「幼馴染」というのは美化されすぎている。


小さい頃から一緒というのは兄弟や従兄弟などの部類に入るぐらい恋愛対象として見るには近すぎる存在だ。


俊司はもうひとつ希和子の気持ちを受け入れきれない理由があった。


俊司と同じく希和子も恵まれていない顔立ちだった。


俊司は何度も見慣れている希和子の顔を改めて暗闇の中に屋上の申し訳ない程度に灯っている明かりを頼りに確認した。


髪は剛毛で目は細くて鼻の穴が前を向いていて口は河童の様に盛り上がって顔の輪郭がひょうたんのようで口を閉めてはいるが出っ歯が今にも口から出そうな顔をしている。


『嫌いではない』しかしどうしても異性として見ることができない。


ブスとブサイクがくっ付いてどうのこうのとバカにされるという恥ずかしさの問題ではない。


いくら顔を確認したり自分に問いただしても希和子を「女」として見ることは出来ない。


「俺は、希和子を好きっていう風に考えきれない。ごめんだけど俺戻るわ。悪い」


と言って階段を下り窓から自分の部屋に戻った。




俊司はこの希和子の告白を受けてから徐々にいろんな事を考え始めた。


最初のうちは希和子をどうしても異性として見れない自分を発見したことに戸惑い、希和子が自分の事を「男として」見ていることになにか気味の悪さまで感じていた。


希和子とは生まれてからずっと一緒だった。保育園も幼稚園、小学校、中学校とさすがに高校は違うだろうと思っていたが高校受験の際に進路についてああだこうだと相談をしたり受けたりしていると自然と同じ学校に入学した。


俊司はなにか『囲われているしがらみから抜け出して他の異性と接したい』と考えるようになった。


思えば希和子以外の同じくらいの年の女子とまともに会話したことがなかった。


なにか、異性について分からない事(例えば、保健の授業で男子だけ外でサッカーをして教室に残った女子はなにをしているのか?など)があれば希和子がすぐに教えてくれた。


そんな希和子の家族や自分の家族の存在が大きすぎて実際のところ学校の同級生達の世界がとても大きくて輝いているように見えた。


それと、希和子から告白されて嫌いな鏡もチラホラと見るようになった。


『案外、自分の顔を悪く思っているのは自分だけなんじゃないのか?希和子から「男として」見られるっていうことはそれなりに魅力がもしかしたらあるんじゃないのか?』と自惚れた考えをしていた。


数日間もその空想に取り憑かれていた俊司は自分とは生い立ちも容姿もかけ離れた理代に好意を持つようになっていた。


自然と「理代について」相談しようと希和子にメールを打とうとスマホを手にしていた。


希和子とはあの星空の屋上の件以降はたわいもないメールのやり取りはしていたが希和子が俊司に対して「好意」を持っていることや「告白」の件はお互い触れていなかった。


そんな中、希和子に理代の事を相談するのは酷な事だと思い相談しなかった。


思えばいつも俊司がなにかする時や希和子が同じくなにかをする時はごく自然に相談していた。


思春期の俊司にとってそれはとても「助け」になる反面自分は「未熟者」だから、という考えで少し「疎ましく」感じていた。


俊司は保育園から希和子と歩み続けて「なにも成長していない」と誤解していた。


理代と付き合うことができれば幼馴染というしがらみから抜け出し、自分が一歩前進できると本気で信じていた。









俊司が起きたのは母が帰ってきて部屋のドアをノックした時だった。


起きた時にまた何か重たい物を背負い直したような気分だった。


「ご飯できてるから。食べなさい。そのあと学校での事聞くから」とあった。


食欲はないがご飯を食べにリビングへ行き黙々と母と2人で夕食を食べた。


父は遠方に行って帰るのは週に一度くらいだ。


どうやら今日も父は帰って来ないらしい。


食器を片付けて母が俊司の向かいに座り「一応、先生から話しは聞いたわよ。クラスの女子に強引に迫ったって。写真まで残ってるって?なにがあったの?」


俊司は毒に侵されて、手術をした後にまた「内臓に毒が残ってるんで」と言われて傷口を開いて内臓を取り出すような気持ちだった。


「昨日、クラスの女子に告白をしたけど断られたんだ。その時にクラスの男子に写メ撮られて、、、でも本当に俺は告白しただけなんだ!写真はあいつらが勝手に合成して作ったものだと思う。俺は本当にキスを迫ったりなんかしてないんだ!」と言い終えても俊司の心の中は晴れなかった。


母は少し沈黙を置き「分かったわ。明日私も学校に付いていくからその時先生と話しましょう。」


とだけ言って母は手帳を取り出してスケジュールにいくつか赤ペンで棒線を引きながら頭を抱えていた。


どうやら明日に学校へ行くため急遽仕事のスケジュールのキャンセルをいくつも出してしまっているようだった。


一瞬「悪い事をしたな」と思ったが俊司の場合真実を知るものだけはその身の潔白は天地がひっくり返っても変わらない。




次の日の正午過ぎに学校の担任から電話があり母と一緒に学校へ行った。


職員室の奥にある校長室へ通されて大きいソファに担任とその横に教頭先生が座りその向かいのテーブルを挟んだソファに俊司と母が並んで座り話し合いが行われた。


話しの内容は「写真に映っている俊司と理代」の件は大人の巧妙な話術で審議することもなかった。


母はそれを「助け舟」と受け取ったのか担任と教頭先生が言い渡す「停学処分について」の詳しい話しや書類にサインまでしていた。


先生達も母も俊司の顔をまともに見ようともせず写真の「しゃ」の字も言わないし逆に言わせない圧力さえ感じた。


俊司はこれから2週間の間停学処分のため「自宅謹慎」となった。


校長室を出ても俊司は納得が行かなかった。


学校の正門を出ると母は「先生達の話しを聞いていたでしょ?しばらくは学校を休んで家で謹慎だから。今日は帰って自習でもしてなさい。2週間我慢すれば何の問題もないから。悪いけどお母さん今から急ぎの仕事だから一応、食べるものは作って冷蔵庫に入れてるから温めて食べて。じゃあ、私は仕事があるから。真っ直ぐ帰るのよ」


と言って携帯でどこかへ連絡しながら通りまで走っていきタクシーを捕まえて去っていってしまった。


俊司は少し母に期待していた。


母は一応なりとも仕事で敏腕な営業マンだ。


どこか凄腕の弁護士を雇うか母自ら写真の真偽を追求してこの不条理な停学処分をひっくり返してくれると思っていた。


それは叶わなかった。




俊司がとぼとぼと家路を歩いていたら目の前に希和子が立っていた。


「俊ちゃん」と言って近づいて来て「お前は学校へちゃんと行けよ」と何度言っても黙って側を歩いていた。


しばらくして希和子を学校へ戻すのもやめて一緒に家路を歩いていた。


「俊ちゃんコレ」と言ってスマホを俊司に手渡した。


スマホにSNSで拡散された例の写真が映っていた。


希和子にも母や担任にも言ったように「写真は作り物だ」と説明をしたら「分かってるよ」と即答してきた。


母には相手にしてもらえず、担任には嘘つき呼ばわりされた。今、信じてもらえるのは希和子しかいなかった。


俊司は気になって聞いてみた「なんでこの写真が作り物だって信じてくれるの?」


希和子はこれまた即答で「俊ちゃんはこんなことしないもん!絶対!」とあった。


家の前に立ちかかると「気にすんなって!元気出して」と言って希和子はまた来た道を戻って学校へ向かった。





停学処分を受けて3日目に俊司は自分の部屋でなにをするでもなくベットに横たわって部屋の天井を見つめていた。


4時前にメールが来た。億劫な体を捻ってスマホを手にして見てみると斎藤からだった。


「お前を庇うバカなヤツをお仕置き」とあった。


意味が分からないままスマホを操作していると次に動画が送られて来た。


動画を再生してみるとカメラに希和子の顔がアップで映っておりその首は複数の手で押さえ込まれてそれを振り払おうと希和子がもがいていた。


ごつい手が希和子のあごを持ち上げていた。希和子が「やめてよ!やめて」と叫んでいてカメラの後ろ側から複数の笑い声が聞こえて来る。


時折希和子を罵倒する声が聞こえる度に大声の笑い声が聞こえて来る。


無理矢理、あごを持ち上げられて上を向いた希和子の鼻の穴に無理矢理ラーメンの麺を割り箸で入れていき口に大量の水を飲まされてそのあとに口や片方の鼻の穴を複数の手で抑えられて息苦しそうにしている希和子が鼻の穴から麺を吹き出し口から大量の水を吐き出していた。


その光景をさらに大きな声で複数の人が笑いながら罵倒している。


動画は誰かのスマホで撮影されているらしく片手でブレて希和子の顔から離れたり辺りの光景を映したりしていた。


動画の画像全体がオレンジがかっている。


どこかのカラオケボックスみたいだ。


俊司はベットから飛び起き「殺してやる。希和子にこんな事をするなんて」と言いながら着の身着のまま家を飛び出した。


この辺りの街でカラオケボックスといえば数は限られている。


しらみつぶしに探せば斎藤達に行き着くはずだ。そう考えながら走っていた。


空き地を通る時に立ち止まり目に付いた鉄パイプをズボンの中に隠してそれを手で押さえながらカラオケボックスを探し回った。


3店舗目のカラオケボックスに入ると店員が俊司の形相に驚きながら不思議そうに見つめている中カラオケボックスの一部屋一部屋の中の様子を吟味しようやく目ぼしい部屋を見つけた。


その部屋だけ音楽は流れているのに誰も歌っていない。中で誰かが叫んでいると思えば笑い声が聞こえて来る。


部屋のドアを開けると部屋の隅に5、6名が誰かを囲んでいる。


『斎藤達』だ!


奥に見える希和子は口に大量におしぼりを突っ込まれて涙を流している。


その姿を見て俊司は迷いも無く鉄パイプを抜き出し囲んでいる連中を殴打しまくった。


斎藤がスマホを手にしながら「おい!俺は今カメラを回してるぞ!お前の乱暴を映して拡散するからな!」と言っていたがスマホごと壊し斎藤を滅多撃ちにし斎藤の頭からは血が流れている。


周辺の連中の中には理代の姿もあったが顔が恐怖で引きつりながら固まっている。


辺りは正真正銘の「血の海」になり俊司は希和子の腕を掴み口の中に押し込まれたおしぼりを取ってカラオケボックスから逃げ出した。


俊司は希和子の手を引っ張りながら当てもなく走り続けた。途中で希和子が「俊ちゃん!俊ちゃん!」と呼ぶので「は!?」と振り返って聞くと「その鉄パイプどこかに捨てて!」とあった。


必死になって鉄パイプを捨てた時に回りの通行人が血しぶきを浴びた俊司の姿を目を丸くして通りすぎていた。


さっきのカラオケ店の辺りにパトカーがサイレンを鳴らしながら何台も向かっていくのが目に入った。


呆然としていると希和子が「とにかく!走って!もう、、、戻れないんだから!」と言って2人して走り出した。




もう、どれくらい走ったか分からない。とにかくヘトヘトになって少し歩いてまた走った。


走れるだけ走り続けた。


次第に市街地から離れて海に出た。


もうすでに辺りは暗くなって海の向こうに見える街の明かりが美しく光り輝いていた。


ヘトヘトになった2人は座り込み沈黙のまま景色を眺めていた。


「ありがとね。俊ちゃん。私のために」希和子は小さな声で言った。


しばらく俊司も沈黙して「なんで斎藤達にあんな事されたんだ?」と聞くと


「言いたくないんだけど、、、あの写真が偽物だって学校の先生達に証明してって言ったの。そしたら、、、これを耐えたらやってやるって言って、、、いきなり押さえつけられてあんな事に、、、。」


「バカか?お前!あいつらにそんなの通用するわけないだろ!」


と俊司は言い終えたあとに「ごめん。俺のためにそこまでしてくれたのに、、、」


というと夜の海の景色が揺らぐように見えた。


希和子は遠くを見つめながら言った「なんで理代のこと私に相談しなかったの?」


俊司は少し驚いて「なんでって、失礼だろ!お前に。あの時はお前から告白されてそれを断ったのに、理代のこと相談するなんて失礼だよ」


希和子は頭を振った。


「なんでよ!私は失礼だとか思わないよ!だってずっと俊ちゃんと一緒だったじゃん!俊ちゃんは私の一部だよ!」


お互いにまた沈黙が続いた。


俊司が重い口を開けた。


「斎藤達を血祭りにした、、、」


「もう、停学程度じゃ済まない、、、退学だな、、いや逮捕だ、、、」


と俊司が言うと希和子が切なそうに見つめてきて「ねぇ、俊ちゃん、、私のこと女として見れないんだよね?どうしても」


俊司は頭の中が混乱していたが希和子の真面目な質問にきちんと答えようと返事をした。


「希和子は希和子だよ。彼女だとか恋人だとかそんなものとは違うけど、、とても大切な存在には変わらないんだ」


希和子は悲しい顔をして言った。


「私、俊ちゃん以外の人とは付き合わない!誓う!俊ちゃんをずっと待つ。それでもダメだったら私一生処女のままでいる!」


俊司は不思議と嬉しかった。


また沈黙が続いた。


今頃、母や学校の先生や斎藤達、希和子の両親も必死になって2人を探しているだろう。


そんな考えが脳裏をよぎった頃希和子が言った。


「ねぇ、逃げて。逃げて俊ちゃん!、、、東京に、東京に行けばなにかできるかもしれない!逃げて、逃げてそしていつか誰もがこの事を忘れた頃に、気が向いたら帰って来て!ね!逃げて!これを持って行って!」と希和子は必死になってクシャクシャになった一万円札を3枚握った手を俊司に手渡そうとしている。


俊司は戸惑った。


「なんで、こんな大金を持ち歩いているんだ?」と聞くと


「このお金で斎藤達に写真は偽物だって、先生達に言ってもらおうと思ってたの!」


俊司は希和子の一途な思いに涙が溢れた。


希和子の純粋な「想い」は予想をはるかに超えていた。


「なんでだ?なんでそこまで俺のためにするんだ?知らん顔しておけばできただろう?」と聞くと


「だって、俊ちゃんは私の一部だよ!なによりも大切なの」


と言ってしわくちゃの万札を俊司の手に握りしめた。


「分かった、、、俺、東京に行く。一旦逃げ回ってみる。いつになるか分からない、でも必ずお前を迎えに来る。恋人としてか幼馴染だとしてかは分からない。でも必ず戻って来る!」


と言ってお札を握りしめたまま立ち去ろうとした。


その時希和子が「待って!」とあった。


「なんだ?」


「最後にううん、記念に写真撮ろう。2人で」


俊司には時間が残っていない。逃げ切れるかも保証は無い。とても大きな不安の中に小さなささやかな希望があるのは唯一希和子の存在だけだった。


防波堤に座ってスマホを取り出した。


カメラを内側に切り替えてレンズに映る2人をディスプレイで確認した。


「ふん、2人ともブスだな。もっと整った顔に生まれていれば良かったな?」と言うと俊司の目から涙がとめどなく流れた。


「俊ちゃんが泣いたら余計ブサイクだよ。ほら笑って」と言った希和子もクシャクシャな顔で涙を流していた。


「ほら、撮るよ。ハイポーズ!」パシャ!


2人で撮った写真は2人とも泣いて顔がクシャクシャになっているがとても幸せそうに映っている。


その後、俊司は大通りへ出てタクシーを止めた。


タクシーに乗り込もうとすると後ろから希和子が「俊ちゃんのお母さんには私から上手く言っとくね!こっちはなにも心配いらないから、、、ちゃんと食べてね」とあった。






















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