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掌編小説集9 (401話~450話)

アパートとマンション

作者: 蹴沢缶九郎

お世辞にも立派とはいえない築数十年、木造二階建てのアパートがあり、その隣に三十階建ての高層タワーマンションが建った。

タワーマンションは耐震強度に優れ、防犯や生活面においても最新の技術が施されており、暮らすには申し分なかった。


ある日、アパートの住人の男が部屋を出た所で、アパートの持ち主である管理人を見かけ声を掛けた。


「こんにちは管理人さん、今日は良い天気ですね」


「やあ、どうもこんにちは。本当に今日は良い天気だ。どこかへお出かけですか?」


管理人の初老の男性は落ち葉を掃くほうきの手を休め、住人の男に微笑み尋ねた。


「ええ、駅の方まで買い物に」


「そうですか、気を付けて行ってらっしゃい」


「はい、行ってきます」


住人の男は歩き出すと、何か思う所があったらしく、突然管理人に向き直り聞いた。


「あの、管理人さん、ちょっとよろしいですか?」


「はいはい、何でしょう」


「隣のタワーマンションも管理人さんの物件と聞きました。何故、アパートの隣にこんな立派なマンションを建てたのかなと思いまして…」


管理人は笑いながら言う。


「ああ、いつかアパートを取り壊して、その後にマンションを建てるのではと心配しているのですね」


「いえ、そんな事は」


ずばり自身の心配を言い当てられた男は慌てて否定する。


「心配しなくても、そんなつもりはないので大丈夫ですよ」


管理人の言葉に男は安堵するが、それにしてもオンボロアパートの隣に立派な高層マンションを建てるなど、やはり理解出来ない。納得のいっていない表情の男に、管理人が聞いた。


「あなたは高層マンションを見てどう感じますか?」


「…どうって。あんな立派な所に僕も住みたいなあ、とか…」


「それですよ。だから私は高層マンションを建てたのです」


「…どういう事ですか?」


「人間は生きる上で向上心が活力となる。近場に高層マンションを建てる事で、僕もいつかあんな所で暮らしてみたいと思い、それが生きる力となり、ハングリー精神が養われるのです」


管理人の言葉はもっともらしかったが、そういうものだろうか。男が考えていると、管理人は屈託のない笑顔になり言った。


「…というのは冗談で、これはあなたにだけお話するのですが、実はあのマンションに人は住んでいないんですよ。私の飼っている犬用の住居でして」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 大金持ちは、こういう感覚なのかも。 [一言] ボロで家賃の安いアパートも必要なんだよね・・・管理人の心のオアシスとしてじゃなく、給料がそれほどとか年金暮らしになると。
[良い点] ひでえ!笑笑 面白かったです!
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