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それが彼らの答えとなった  作者: 東条 暁
3/3

1ー2 六腕熊

熊。体長2メートル前後、優れた筋肉を持ち犬より鋭い嗅覚を持つ肉食獣。

よく山菜採りをしていた所襲われたなどという話を聞くこともある。が、


「俺の知ってる熊ってのは四足歩行、ましてやそんなご立派な角なんて持ち合わせてないんだよ!」


ウェルカムポーズから降参ポーズにやや変更された両腕を振り下ろし目前の熊(仮称)に1人文句を散らす。

熊は自らの六本足を器用に動かし彼の周りを円を描くように歩き、様子を伺っているようだった。


「まさかあの焼き魚は、僕が作ったものであとで食べようと思ってたのになんで勝手に食べちゃったの?とでも言うつもりかな〜?」


もちろんそんな事はまずありえない。熊は大径木と言っても差し支えないほどの筋肉の詰まった腕をしており火をおこす、魚に串を刺す、なんて事は出来ないように思える。むしろ、


ーーガァァァアアア!


むしろ仕留めた獲物をそのまま食す事こそ至上。

様子を伺う事をやめた熊が咆哮と共に突進する。

体長2メートル、推定体重300キロの巨体、そしてその最前部には全てを貫かんとする鋭い角。突進を受けたが最後、死あるのみである。それもぐちゃぐちゃにされた後、熊の栄養になるという最悪の死。


クソッ、と悪態をつきつつ右に飛び込み、いわゆる前回り受け身で体勢を立て直す。

パンツ以外の装備無しでそんな事をしたら当然だが、河原の石に体を打ち付け無傷とは言えない。

擦り切った左腕をさすりつつも視線は、男の破壊を目的とした突進が失敗に終わった事を理解しいらだたしげに振り向き鼻を鳴らす熊から絶対に放さない。


「これは本当にマズイぞ。どうにかーー」


第一撃をなんとかかわし、対策を模索する。

熊に遭遇した際の対処法。

死んだフリ。生き餌を前にした熊には自らを捧げる行為以外のなにものでもない。

火をおこす。おこしたいがその道具がない。

頭を抱え、亀のように地面に丸くなり5分耐えれば熊は興味をなくし去って行く、などという説もあるが5分後には熊の腹の中に納まっている自分と満腹になり立ち去る熊の姿しか想像できない。

ならば、


「オラアアアアアア!!」


反撃である。

大声をあげ石を力の限り投げつける。投げた石は吸い込まれるよう見事顔に激突。熊は苦痛の声をあげ怯む。

これだけの筋肉の塊を相手にインファイトは得策ではない。ならば遠距離からの攻撃で熊を嫌がらせ、追い払う。

もしもこれがゲームか何かであればアイテムや経験値を取得する為、倒し切りたい所だがこれは現実。汚くてもみっともなくてもいい。自分が生き残る事が最重要である。

そんな事を考え2回目の投石の為の石を拾い投げつける。ドス、と鈍い音が熊に対しダメージを与えた事を物語る。

ただ凶暴な肉食獣がやられてやられっぱなしとはいかない。

唸り声をあげ、またもや突進を仕掛けてくる。しかも今度は後ろの四本足で走り、前の二本足での振り上げも加わった変則版ベアタックルだ。

うおっ、と声をあげながら前回り受け身でかわそうとするが、焦っていたせいであろう。左足から、ぐきっ、と嫌な音がし、ごろごろと河原を転がる。

なんとか熊の攻撃をかわし立ち上がるが、足を痛めた彼からは苦悶の表情が見受けられる。


「あー、こりゃあ絶体絶命の大ピンチってやつだな」


額に冷や汗を浮かべ、一歩下がるが足の痛みに負け尻餅をついてしまった。


ーーグウウゥゥゥ


こちらが動けないと見るや声をあげにじり寄る。先程までの突進とは違い、じわじわと、その口元からはよだれを垂れ流し、顔も若干ニヤリと笑っているように見えてしまう。

熊の男の顔が余裕で収まる巨大な口が目前に迫り、腐臭に顔を背けた瞬間、


ーーウガアアア!


熊がまた声を上げる。しかしそれは咆哮ではなく絶叫か。

何かと思い顔を上げ、目に映ったのは頭の右側から矢の生えた熊の姿だった。


「くッ、一発で仕留められなかった」


女の声がした。それもとても可愛らしい声だった。

声の方向を見ると1人の少女が腰まである美しい金髪をたなびかせ木の合間から弓に矢を番えていた。


「そこのあなたッ!なにをボケっとしてるのよ!死にたくなかったら早くそこを離れなさい!」


怒られた。

それも当然である。矢に穿たれたとはいえ熊はまだしぶとく生きている。


「あ、あぁ。助かった!でもこいつは危険だ!君もすぐ離れたほうがいい!」


立ち上がり少女の方に痛みを我慢し駆け寄る男の心配の声をよそに、


「危険なのはわかってるわよ!六腕熊なんて魔獣に裸で近ずくようなバカな人に言われないでも、ねッ!」


話しながらも一射。ショートボウと呼ばれるタイプの短い弓を巧みに駆使しーー頭は逆方向を向いていた為、熊の背中に矢が突き刺さる。


「六腕熊?魔獣?いったいなんなんだ。それに君はーー」


痛い左足を庇いながら少女の元へたどり着き、


「……エル、フ?」


若草色のワンピースのような民族衣装を着た、美しい金髪と愛嬌のある碧眼、そして細長く尖った耳をした彼女を前にし呟く。


「はぁ?六腕熊はともかく魔獣自体を知らないって、なんなんだはこっちのセリフよ。それにエルフってのは私の事? 残念だけど私はヒルダ。誇り高き精霊族、インドラド・コールスウッドの娘。ヒルダ・コールスウッドよ。人族の裸の変態さん」


「俺は変態じゃあない!それよりもヒルダ」


「ええ。わかってるわ」


矢を番える。無駄口の時間はどうやら終わったらしい。

必死の形相でこちらーー正確にはヒルダだが、を睨む熊改め六腕熊。


「あなたは下がってなさい。次で仕留めきれなければ接近戦にもつれ込んでしまう。そうなったら流石の私でもあなたを庇いながらじゃ分が悪い」


そう呟くヒルダの目から彼女の覚悟が見受けられる


ヒルダの言葉に対する返答もする暇もなく六腕熊が躍り掛かる

疾ッ!

彼女の放った矢が空気を切り裂き迫る魔獣の額に寸分違わず突き刺さる。


「これで終わって!」


口をつくのは祈りと苦悶を織り交ぜた言葉。

それだけでこの六腕熊という魔獣の強さを窺い知れる。

そして、


ーードスン


祈りが伝わったのであろうか、六腕熊は地に伏した。


「……やったのか?」


「ちょっと!そういうの私の里では”死亡フラグ”って言ってすごい縁起が悪いんだからやめてよね!」


少し、否かなり苛立った口調。

死亡フラグくらい俺だって普通に知ってる。などと考え倒れ伏した六腕熊の方を見、


「お、おい。これは俺が死亡フラグ立てたせいなのか?っていうかなんで手が増えてるんだこいつはよ!」


目の前には立ち上がる六腕熊。しかしその姿は先程までとは異なり、


「こうなる前に倒し切りたかったのに」


ギリ、と奥歯を噛みしめる。

続けて、


「なんでって六腕熊だからじゃないの!六・腕・熊!」


背中から他の腕とは違い細長く不恰好な一対の腕が生えていた。



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